追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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ツルツルのドワーフ

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「アルファはドワーフに会ったことはあるのか?」

 俺はもう何度目になるかわからない質問をしながら、焦茶色をした木々の隙間を縫うようにして歩いていく。
 足元には草木が生い茂っているため、声も少しばかり大きめだ。
 ちなみに俺はドワーフに会ったことも見たこともないが、ドワーフの特徴くらいは知っている。
 確か、ドワーフは体毛が濃く、背丈がかなり低いのが特徴的な種族で、その分、力が強く、手先が器用で、おおらかな性格。そして大の酒好きだ。

「……」

 案の定というべきか、アルファはだんまりを決め込んだ。
 このやり取りとは到底呼べないであろうやり取りも、もう数十回目になるだろうか。

「ないのか。じゃあ——」

「——いい加減黙っててくれないカ。まだ後十分は歩かないといけないのに、どうしてお前は出発してから一人でボソボソボソボソ話し続けてるんダ? もしかして私が無視をしていることに気が付いていないのカ? じゃあ堂々と宣言しておこウ。私はお前と話す気はさらさらなイ。わかったら黙々と足を動かセ。私は早く女王様のもとに帰りたいんダ。どういう陰謀があってドワーフに会う気なのかは私の知る由がないが、くれぐれも面倒な問題に巻き込まないでくレ」

 アルファは距離を取ってやや後ろを歩く俺に向かって強めの言葉で静かに咎めると、小さな体を大きく上下にズンズンと動かしながら、少し気が立った様子で再び歩き始めた。

「……そんなこと言われてもなぁ」

 互いに男だし、おそらく年も近いだろう。
 護衛だからと言って無理に距離を取る必要はないと思うけどな。
 イグワイアを出発してからもう三十分は経過し、今は既に森の中だ。
 この奥から人の気配を感じるので、もうすぐ目的地に到着するのだろう。
 ここに至るまで、話を交えて少しぐらい距離を詰められるかと勝手に思っていたが、少しどころか全く仲良くなることができなかった。
 かなり信頼している人間にしか心を開かないのかもしれないな。となると、今まで俺がぐいぐい距離を詰めようとした行為が、全て裏目に出てしまったというわけだ。

「……着いたゾ。ここがドワーフの根城ダ」

 そうこう考えているうちに、ドワーフが住むという洞穴の前に到着した。

「おお、ここがそうなのか。結構大きいな」

 かなりの高さのある崖にぽっかりと穴が空いており、その中からは、おおよそだが八十から百ほどの人の気配を感じる。

「私はもう帰ル」

 俺が聳り立つ崖と暗くて大きな洞穴を眺めていると、アルファは俺に背を向けて帰ろうとしていた。

「もう帰るのか?」

「当たり前ダ。それと近寄ってくるナ」

 俺が物理的に距離を詰めて話しかけると、アルファはその詰められた距離を清算するように後退した。

「今帰ってもいいことはないぞ? まず、今はクララ女王には別の護衛がついているし、貴族会議とやらで会えないんだろう? それに俺のことを案内するだけして一人で帰ったら、どんな目で見られるかわかっているのか? これは緊急クエストだ……そう言っていなかったか?」

 俺は特に躊躇することなく正論をぶつけた。
 国や護衛対象である人間を大事にする気持ちは十分理解できるが、それよりも先に課せられた目の前の問題に取り組むことが大切だ。
 それをアルファはできていない。

「くっ! 貴様、中々口だけは立つ男だナ。女王様を盾にして話を進めるとは、実に汚いやり方ダ」

 アルファは胸元に手を入れると、短剣のようなシルエットをした武器を小さな掌で握りしめていたが、俺に攻撃を仕掛ける気はないようだ。
 敵対していない相手との舌戦に突然武器を持ち込むのはどうかと思うが、今回は武器を取り出してはいないので良しとしよう。

「なんとでも言え。そんなことよりとっとと行くぞ。時間の都合もあるからな——ん? 誰かこっちに来るな……」

 俺は仮面越しでもわかるほど悔しそうにしているアルファのことを置いて、先に暗い洞穴に足を踏み入れたその時。
 丸い形をした洞穴の奥深くから、裸足で岩肌を歩いているような足音が聞こえてきた。
 それと同時に、俺は一人の人間の気配を感じ取ったので、その場に立ち止まってジッと目を凝らした。

「——いやはや、珍しいことに客人ですかな? どなたか存じ上げませんが、ここには金目のものは何一つありゃしませんよ。ほっほっほっほっ」

 現れたのは陽気な雰囲気の中に哀愁が漂う初老の男性だった。
 体格からしてドワーフみたいだが、特徴的な剛毛はどこへ行ったのか、頭のてっぺんからから足の指先まで全身がツルツルとしており、まるでシワをのある赤ん坊のような見た目をしていた。
 俺が知っているドワーフの情報と全く違うんだが、どういうことだろうか……。

「なあ、アルファ。この人はドワーフか?」

「……わからなイ。私はドワーフについてはほとんど何も知らないからナ。最近は国にも属していないこともあって、その生態は謎が多イ……って、男のくせに私に近寄るナ!」

 俺が戸惑ってアルファにひそひそと聞くと、アルファは悩んだ様子で真剣に答えてくれたが、途中でふと我に返ったのか、ササササッとすり足で瞬時に距離を取った。
 
「……単刀直入に聞きますが、あなたはドワーフですか?」

 俺は初老の男性に近づいてから、直接聞いた。
 戸惑った時に周りを頼りたくなるのは人間のさがなので、アルファがどんな嫌な顔をしようと仕方がないものは仕方がない。そんなに嫌な顔をしないで許してほしい。

「いかにも! ワシはドワーフ族の最年少にしてここの見張り番をしておるワイナルドゥエムじゃ!」

 ワイナルドゥエムと名乗った目の前のドワーフは、小さな体躯を目一杯屈曲させて、ドンっとその場で腕組みをした。

 というか、これで最年少かよ……。
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