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族長の言葉とドワーフの再建
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「……ドワーフしかいないな……」
「何を馬鹿なことを言っているんダ? ドワーフ族の住処なのだから当然だろウ?」
俺の何気ない一言にアルファは辛辣な言葉をぶつけてきたが、俺が気になっていたのはそういうことではなかった。
「そういうことじゃない。ドワーフの様子がおかしくないか?」
俺は今にも倒壊しそうな木の家や、その周りで気怠げな様子で食事をしているドワーフに目をやった。
八十から百はいるであろうドワーフたちは、皆が皆、全身がツルツルとしており、誰しもが生気を感じさせなかった。瞳も虚になっている。
例えるなら、絶対に死にはしないが今にも死にそうな状態とでも言おうか。
とにかく、水や果物、家畜の肉や川魚を食べているのにもかかわらず、ドワーフたちは元気がないのだ。
「……私にはわからなイ。ドワーフは既に衰退した種族だからナ」
アルファは立ち止まって視線を動かしていたが、特に疑問は持っていないようだった。
「……そんなものか……」
これは俺の勘違いか……?
別に気にすることでもないのかもしれないが、俺はこんな状態のドワーフが、家を、街を、国を造れるとは到底思えなかった。
「お二人さん。ここが族長の家じゃ。くれぐれも失礼のないように頼むぞい」
そうこうしているうちに族長の家に到着したようで、ワイナルドゥエムさんはこちらに振り向くと、空気を変えるようにひとつ咳払いをした。
「ええ」
「族長。ワイナルドゥエムです。何やら話があるという者を連れてきたので、お入りしてもよろしいでしょうか?」
「……入ってまいれ」
ワイナルドゥエムさんが今にも壊れそうな木の扉を数回ノックすると、中からは老人のような掠れた声が聞こえてきた。
族長は相当な年寄りなのかもしれないな。
それと、これまでの渋みのある古風な口調ではなく普通の口調で話せるのかとも思ったが、それに関してはひとまず置いておくとしよう。
「失礼します。族長、彼が……あぁ、申し訳ありませぬ。遅れてすまぬが、貴殿らの名をお聞かせ願えるか?」
「後ろにいるのがアルファで、俺はゲイルと言います。本日はドワーフ族に話があって参上しました」
俺が軽く頭を下げると、それにつられてアルファも頭を下げていた。
俺には辛辣だが、他の者に対しての礼儀はあるのだろう。それができるのなら俺にも優しくしてほしいものだ。
「適当に座りなさい。ワシはダンクルマーンじゃ。ドワーフ族の族長ではあるが、既に歳は百二十過ぎておる死に損ないのじじぃじゃ。よろしゅうな。若い衆」
族長は家の奥にいたのだが、天井から垂らされた布の仕切りが邪魔をして姿を確認することはできなかった。
ただ、年齢が年齢なので相当なおじいさんだということは容易に想像がつく。
それに、ワイナルドゥエムさんが最年少でこの見た目ということは、ドワーフ族は見た目と年齢があまり比例しない種族なのかもしれないな。
「ええ。こちらこそよろしくお願いします。いきなりで恐縮なのですが、早速本題に入ってもよろしいですか?」
俺は丁寧な言葉を使うように心がけながら、族長の言葉に甘えて小さな木の椅子に腰を下ろした。
とてもドワーフが造ったものとは思えないほどグラついているが、何か理由があるのだろうか。
「構わぬ。ワシらには人の話を拒めるほどの余裕がないのでな。どのような話であろうと前向きに検討させてもらうつもりじゃよ」
きっぱりと強く言いきった族長の言葉に、俺の斜め向かいで佇むワイナルドゥエムさんは若干眉を顰めていた。
「わかりました。では、単刀直入に言わせてもらいます。ドワーフ族の皆さん。俺が持つ領地の住民になりませんか? そこで国を作るために是非力を貸してほしいのです」
俺ははっきりと言った。二度聞きは許さないとでも言うような、しっかりと耳に届ける口調だ。
「……皆を集めよう。ワイナルドゥエム、中央広場に全員を集合させるのじゃ」
仕切り越しの影の動きしか見えなかったが、族長はポリポリと悩ましそうに頭を掻いていた。
「はい! ただちに!」
「……ちなみにじゃが……酒の提供は可能なのかのぅ? 最低でも若い衆には存分に飲ませてやりたい故、それさえ約束できるのであれば、ワシはどのようなお願いでも聞き入れよう。もちろん非人道的なものはダメじゃがな。フォッフォッフォっ!」
ワイナルドゥエムが目にも止まらぬ速さで家から出ていってから数秒後。
族長はニヤリと不敵な笑みを見せた後に、楽しげに高笑いをしていた。
「ふふっ……可能ですよ。期待していてください」
俺はそんな族長に微笑みを返してから、アルファを連れて家の外へ出た。
アルファは終始興味なさげだったが、今帰られても困るので無理矢理にでも話し合いに参加させるとしよう。
◇
「皆の衆。この老いぼれがかけた集合によくぞ集まってくれた。ワシらの体内にはここ数十年もの間、酒が全くないことでやる気が欠乏し、頭が回らず、自尊心すら失いかけている状態であろう。だが、そんな時にこの方が現れた。彼の名はゲイル。どうやらワシらドワーフ族に、仕事と住処と酒、この三つを提供してくれるそうじゃ」
族長は木造りのお立ち台の上から、地面に直接胡座をかいている百人以上のドワーフに向かって、大きな声で簡潔に事の顛末についての説明をしていた。
族長の容姿は歳を考慮すれば、ワイナルドゥエムさんよりも老けているのかと思っていたが、全くそんなことはなく、集まったドワーフたちとなんら変わりのない姿だった。違うところと言えば、瞳に光が宿っているところだろうか。
「……すごい見られているな」
「……」
俺とアルファはそんな族長の横に位置をとっているため、族長とワイナルドゥエムさん以外のドワーフたちから「何者だ」というような視線を感じていた。
「族長。失礼ですが、彼は何者ですかぃ? また、その話は本当に信用に足るものですかぃ? もしも彼がワシらドワーフ族を陥れようと考えているのなら、ここで決断を急ぐと痛い目を見ますぜ?」
ここで一人のドワーフが俺のことを一瞥してから、もっともな意見を述べた。
穏和な表情をしている他のドワーフに比べて、少々鋭い眼差しが特徴的で、言葉にも棘があるように思える。
おそらく、ドワーフ族を思う気持ちからくる行動なのだろう。その証拠に、彼の言葉を筆頭に他のドワーフたちは途端にざわざわとし始めた。
「静まれ……! では聞くが、お主はワシらに断る選択肢があると思っているのかのぅ? 数十年前に酒は底をつき、仕事を失い、気力は完全に失われた。今はただただ歳だけを重ねただけの木偶の棒じゃ。こういった話が持ちかけられた以上、信頼に足るものでなくても必ず選択せねばいかぬ。今の話を聞いて理解したものは挙手を! ドワーフ族が再建するチャンスを逃すでないッ!」
当初は冷静だった族長の表情は言葉を吐くほどに必死な形相に変化していき、皆に挙手を求めたときには、胸を揺さぶるような強い声と表情になっていた。
俺はドワーフ族の歴史については詳しくは知らないが、族の長がこれほど感情を露わにするとは相当危機的な状況が続いていたのかもしれないな。
「……すごいな」
ここにいる全てのドワーフが手を挙げていた。
「ゲイル殿。見ての通り、ワシはドワーフ族の意見は満場一致じゃ。どうか、どうかワシらの面倒を見てくれんかのぅ……?」
族長は若干丸まった自身の背中をさすりながら、懇願するように俺に頭を下げた。
それと同時に胡座をかいていたドワーフたちも一斉に立ち上がり、膝に手を置いて軽く頭を垂れてきた。
「……ええ、任せてください。再度確認しますが、酒と住居さえ提供すれば与えた仕事は遂行してくださるんですよね?」
俺は数秒の時間を置いてから、壇上の上にいる族長に聞いた。
まさか全員が迷いなく手を挙げるとは思わなかったが、族長の言葉の力や信頼によるものなのだろう。
「当然! ワシらは酒さえあれば百人力……いえ、千人力じゃ!」
族長が両の剛腕を天に突き上げると、それを見たドワーフも一層の盛り上がりを見せた。
一人は腹の底から声を張り上げ、また一人は隣の者と肩を組んで楽しげに笑っていた。
「何を馬鹿なことを言っているんダ? ドワーフ族の住処なのだから当然だろウ?」
俺の何気ない一言にアルファは辛辣な言葉をぶつけてきたが、俺が気になっていたのはそういうことではなかった。
「そういうことじゃない。ドワーフの様子がおかしくないか?」
俺は今にも倒壊しそうな木の家や、その周りで気怠げな様子で食事をしているドワーフに目をやった。
八十から百はいるであろうドワーフたちは、皆が皆、全身がツルツルとしており、誰しもが生気を感じさせなかった。瞳も虚になっている。
例えるなら、絶対に死にはしないが今にも死にそうな状態とでも言おうか。
とにかく、水や果物、家畜の肉や川魚を食べているのにもかかわらず、ドワーフたちは元気がないのだ。
「……私にはわからなイ。ドワーフは既に衰退した種族だからナ」
アルファは立ち止まって視線を動かしていたが、特に疑問は持っていないようだった。
「……そんなものか……」
これは俺の勘違いか……?
別に気にすることでもないのかもしれないが、俺はこんな状態のドワーフが、家を、街を、国を造れるとは到底思えなかった。
「お二人さん。ここが族長の家じゃ。くれぐれも失礼のないように頼むぞい」
そうこうしているうちに族長の家に到着したようで、ワイナルドゥエムさんはこちらに振り向くと、空気を変えるようにひとつ咳払いをした。
「ええ」
「族長。ワイナルドゥエムです。何やら話があるという者を連れてきたので、お入りしてもよろしいでしょうか?」
「……入ってまいれ」
ワイナルドゥエムさんが今にも壊れそうな木の扉を数回ノックすると、中からは老人のような掠れた声が聞こえてきた。
族長は相当な年寄りなのかもしれないな。
それと、これまでの渋みのある古風な口調ではなく普通の口調で話せるのかとも思ったが、それに関してはひとまず置いておくとしよう。
「失礼します。族長、彼が……あぁ、申し訳ありませぬ。遅れてすまぬが、貴殿らの名をお聞かせ願えるか?」
「後ろにいるのがアルファで、俺はゲイルと言います。本日はドワーフ族に話があって参上しました」
俺が軽く頭を下げると、それにつられてアルファも頭を下げていた。
俺には辛辣だが、他の者に対しての礼儀はあるのだろう。それができるのなら俺にも優しくしてほしいものだ。
「適当に座りなさい。ワシはダンクルマーンじゃ。ドワーフ族の族長ではあるが、既に歳は百二十過ぎておる死に損ないのじじぃじゃ。よろしゅうな。若い衆」
族長は家の奥にいたのだが、天井から垂らされた布の仕切りが邪魔をして姿を確認することはできなかった。
ただ、年齢が年齢なので相当なおじいさんだということは容易に想像がつく。
それに、ワイナルドゥエムさんが最年少でこの見た目ということは、ドワーフ族は見た目と年齢があまり比例しない種族なのかもしれないな。
「ええ。こちらこそよろしくお願いします。いきなりで恐縮なのですが、早速本題に入ってもよろしいですか?」
俺は丁寧な言葉を使うように心がけながら、族長の言葉に甘えて小さな木の椅子に腰を下ろした。
とてもドワーフが造ったものとは思えないほどグラついているが、何か理由があるのだろうか。
「構わぬ。ワシらには人の話を拒めるほどの余裕がないのでな。どのような話であろうと前向きに検討させてもらうつもりじゃよ」
きっぱりと強く言いきった族長の言葉に、俺の斜め向かいで佇むワイナルドゥエムさんは若干眉を顰めていた。
「わかりました。では、単刀直入に言わせてもらいます。ドワーフ族の皆さん。俺が持つ領地の住民になりませんか? そこで国を作るために是非力を貸してほしいのです」
俺ははっきりと言った。二度聞きは許さないとでも言うような、しっかりと耳に届ける口調だ。
「……皆を集めよう。ワイナルドゥエム、中央広場に全員を集合させるのじゃ」
仕切り越しの影の動きしか見えなかったが、族長はポリポリと悩ましそうに頭を掻いていた。
「はい! ただちに!」
「……ちなみにじゃが……酒の提供は可能なのかのぅ? 最低でも若い衆には存分に飲ませてやりたい故、それさえ約束できるのであれば、ワシはどのようなお願いでも聞き入れよう。もちろん非人道的なものはダメじゃがな。フォッフォッフォっ!」
ワイナルドゥエムが目にも止まらぬ速さで家から出ていってから数秒後。
族長はニヤリと不敵な笑みを見せた後に、楽しげに高笑いをしていた。
「ふふっ……可能ですよ。期待していてください」
俺はそんな族長に微笑みを返してから、アルファを連れて家の外へ出た。
アルファは終始興味なさげだったが、今帰られても困るので無理矢理にでも話し合いに参加させるとしよう。
◇
「皆の衆。この老いぼれがかけた集合によくぞ集まってくれた。ワシらの体内にはここ数十年もの間、酒が全くないことでやる気が欠乏し、頭が回らず、自尊心すら失いかけている状態であろう。だが、そんな時にこの方が現れた。彼の名はゲイル。どうやらワシらドワーフ族に、仕事と住処と酒、この三つを提供してくれるそうじゃ」
族長は木造りのお立ち台の上から、地面に直接胡座をかいている百人以上のドワーフに向かって、大きな声で簡潔に事の顛末についての説明をしていた。
族長の容姿は歳を考慮すれば、ワイナルドゥエムさんよりも老けているのかと思っていたが、全くそんなことはなく、集まったドワーフたちとなんら変わりのない姿だった。違うところと言えば、瞳に光が宿っているところだろうか。
「……すごい見られているな」
「……」
俺とアルファはそんな族長の横に位置をとっているため、族長とワイナルドゥエムさん以外のドワーフたちから「何者だ」というような視線を感じていた。
「族長。失礼ですが、彼は何者ですかぃ? また、その話は本当に信用に足るものですかぃ? もしも彼がワシらドワーフ族を陥れようと考えているのなら、ここで決断を急ぐと痛い目を見ますぜ?」
ここで一人のドワーフが俺のことを一瞥してから、もっともな意見を述べた。
穏和な表情をしている他のドワーフに比べて、少々鋭い眼差しが特徴的で、言葉にも棘があるように思える。
おそらく、ドワーフ族を思う気持ちからくる行動なのだろう。その証拠に、彼の言葉を筆頭に他のドワーフたちは途端にざわざわとし始めた。
「静まれ……! では聞くが、お主はワシらに断る選択肢があると思っているのかのぅ? 数十年前に酒は底をつき、仕事を失い、気力は完全に失われた。今はただただ歳だけを重ねただけの木偶の棒じゃ。こういった話が持ちかけられた以上、信頼に足るものでなくても必ず選択せねばいかぬ。今の話を聞いて理解したものは挙手を! ドワーフ族が再建するチャンスを逃すでないッ!」
当初は冷静だった族長の表情は言葉を吐くほどに必死な形相に変化していき、皆に挙手を求めたときには、胸を揺さぶるような強い声と表情になっていた。
俺はドワーフ族の歴史については詳しくは知らないが、族の長がこれほど感情を露わにするとは相当危機的な状況が続いていたのかもしれないな。
「……すごいな」
ここにいる全てのドワーフが手を挙げていた。
「ゲイル殿。見ての通り、ワシはドワーフ族の意見は満場一致じゃ。どうか、どうかワシらの面倒を見てくれんかのぅ……?」
族長は若干丸まった自身の背中をさすりながら、懇願するように俺に頭を下げた。
それと同時に胡座をかいていたドワーフたちも一斉に立ち上がり、膝に手を置いて軽く頭を垂れてきた。
「……ええ、任せてください。再度確認しますが、酒と住居さえ提供すれば与えた仕事は遂行してくださるんですよね?」
俺は数秒の時間を置いてから、壇上の上にいる族長に聞いた。
まさか全員が迷いなく手を挙げるとは思わなかったが、族長の言葉の力や信頼によるものなのだろう。
「当然! ワシらは酒さえあれば百人力……いえ、千人力じゃ!」
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