追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

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復讐心の行方

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 全てが収まった時には、太陽が完全に沈み、外はすっかり暗くなっていた。
 ここ数時間の間、騒がしかった王宮内も、時が流れるにつれて落ち着きを取り戻したのか、今では見回りの人間以外の者の気配はほとんど感じない。
 より大きな叫び声をあげていたガンマとベータが眠りについたことで、部屋の外にいた者たちは、俺が何か処置を施したとでも勘違いしたのだろう。
 しかし、実際は何もしておらず、時の流れに全てを委ねて窓越しから外を眺めていただけだ。
 俺ができることなど元々ほとんどないと言っていい。本人が己の忍耐と精神を保ち、苦しみに耐えることことこそが大切なのだ。一見、根性論のようだが、これが事実だ。他人が関与することは許されない。少なくとも、俺の経験則に照らし合わせた結果、今回のような判断は間違いではないと言える。
 俺が三日月を眺めながら思考していると、ひゅぅっと一つ夜風が吹いた。

「よく似ているな」
 
 俺は完全に気を失ったアルファを抱えて、未だベッドで眠りについているガンマとベータの間に慎重に下ろした。
 性別を除けば体躯も髪の長さもかなり似ているので、三人はまるで本当の兄妹のようだった。

「部屋へ戻るか」

 さすがの俺もそろそろ疲れてきたので、部屋に戻ることにした。
 今晩はぐっすり眠りについて、明日の昼には名も無き領地に帰還するとしよう。

「待ってください。ゲイルさん」

「……クララ女王。もう終わったので眠っていても良いんですよ」

 部屋を後にしようと扉を手をかけたその時。俺は弱々しい声色のクララ女王に呼び止められたので、俺は体の向きを変えることなく返事をした。

「あなたは……あなたはどうしてそんなにもお強いのですか? 無償で私たちに救いの手を差し伸べたかと思ったら、その圧倒的なまでの力で簡単に全ての問題を解決してしまいます。対して、私はイグワイアを光へと導かなければならない女王だというのに、何一つとして民に利益を還元することができていませんし、優しく公平に接しているのに一向に発展しません。私には何が足りないのでしょうか……」

 クララ女王はゆったりとした口調でぽつぽつと言葉を紡いだ。
 喉につっかえた言葉を何とか押し出したような悩ましい言葉の数々は、確かに俺の耳に届いていたが、俺はすぐに答えを返すことができずにいた。

「……厳しい言葉にはなってしまうが、君は少し自分の実力を見直した方がいい。君はほんの数ヶ月前まで何の活動もしていなかった第三王女だったんだ。いきなり女王になったからってそれが払拭されるわけじゃない。寧ろ立場上行動が制限されるし、その優しさが仇となる場面もあるだろう」

 俺はあえて厳しい言葉をぶつけた。これまでクララ女王に対して思っていた感情をそのまま言葉にしたせいで、自然と敬語が抜けてしまっていたが、今は気にすることではない。

「で、では、どうすれば……?」

「わからない。俺は国王になったことなど一度たりともないし、そういった人間との付き合いはあっても興味がないからな。だが、強いて言うなら……あまり人には期待するなってことだ。それと、俺は無償で君たちを助けた覚えはないから勘違いしないでくれ。ドワーフのもとまで案内してもらったし、部屋まで用意してもらっている。対価としては十分だ」

 それに、俺はダンジョンの最奥にいたドラゴンとの戦闘を経て、さらに実力をつけることができたので、特に不安はない。
 寧ろ満足しているくらいだ。こうしてまた、イグワイアとのコネを作ることができたし、俺の存在を知らしめることもできた。名も無き領地が発展するためには欠かせないことだ。
 さらに、俺の名が少しでも広まることで、マクロスの耳に届く可能性も高まるのだ。俺にとってのデメリットといえば、人が苦しむ姿をマジマジと目にしてしまったことくらいだろう。

「そ、そうですか……。では、最後に一つだけ教えてください。ゲイルさん……あなたの目的はなんですか?」

 クララ女王は小さな声で呟いてから数秒後に再び口を開くと、少し踏み込んだ質問を投げかけてきたが、俺はすぐに答えを出すことができなかった。
 決して躊躇しているわけではない。答えとなる言葉が、俺の頭の中には一つたりとも存在しなかったからだ。

「……明日の昼ごろに出発する。またな」

 俺は逃げるようにして部屋から出ていった。そして、混乱する頭の中を制御するようにして扉を強く閉めた。

 俺の目的? 俺は何を目指しているんだ? わからない。最初は復讐心に駆られてダンジョンに篭り始め、マクロスを後悔させてやろうと目論んでいたが、最近の俺は何をしていたんだ?
 人を助けた? モンスターを討伐した? 領地と仲間を手に入れた? どれも本来抱いていた目的とは、まるで別のものじゃないか。
  
 俺は部屋の前で一人、自身の胸に手を当ててじっくりと考え、一つの答えに辿り着いた。

「……復讐心なんてものは、とうの昔に忘れていたのかもな」
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