表と裏と狭間の世界

雫流 漣。

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監視人集会

一同集結

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「狐火様、僕を忘れてはいませんか?」

弱々しい声とともに例のブーンという音がして、ガリガリにやせ細った小柄な若者が現れた。
大きすぎる前歯が二本、突き出している様は、まるでビーバーのよう。

「"灰色"……あんたいつからそこにいたのよ」

灰色と呼ばれた血色の悪い男はうつむき加減でおずおずと輪の中に入り、蚊の鳴くような声で全員に辛気くさい挨拶をすませた。

「今日集まってもらったのはほかでもない」
狐火が演説を始めると三人の黒服たちは期待のこもった目で老人に注目した。

「ワシはついにプレアーを見つけたんじゃ」

喜びの声があがる。

「しーっ、静粛に!しまいまで聞かんか、おまえたち」

狐火がきいきい声で叫ぶと、部屋はまた水を打ったように静かになった。

「さっきの若造が言っていたリックとかいう青年がそのプレアーじゃよ」

「やはりそうか。我らの刻印が施された箱を持っていたから、そうではないかと思っていた」
叫ぶ鷹の目。

「少し黙って聞いてくれんか…」
狐火が泣きそうな顔をした。

「ワシは彼に会いに出向いた。
しかし…なんたること……」

狐火がそれきり黙りこくってしまったのを見て、灰色が目を見開いて、ただでさえ不安げな顔立ちにさらに不安を浮かべた。
赤毛と鷹の目が怪訝そうに顔を見合わす。

「……生きてはいるが…魂の危機に…瀕しておる」

狐火が言い終えると、にわかに場に緊張が走った。

「あり得ぬ」
両眼をぎらつかせる鷹の目。
普段は紳士的に振る舞い、おくびにも出さないが、その目に宿る色は雛を狙う獰猛な猛禽類のそれだ。
赤毛は腕を組み、挑戦的な態度。
勇敢で勝ち気な面々の中で、
ただ一人、灰色だけは途方に暮れて、おろおろと小さくなっていた。

「ライファーンがいるでしょ?
そこらへんはどうなのかしら、狐火」
長い睫を震わせて赤毛が詰め寄る。

「そこがワシにも合点のいかぬところじゃよ…」
狐火がうなだれる。

「さっきの若造とのやり取り、おまえたちも聞いていたじゃろうが…
箱は開いて封印は解け…ライファーンは既に放たれておる。
あれは空っぽ、ただの箱じゃ」

「ライファーンがまだ覚醒していない可能性もある。
いずれにせよ、我ら監視人、最大最悪の失態」
鷹の目が絞り出すように言った。

「さよう、我らの務めはプレアーを救う力となるライファーンを…彼らに手渡すことじゃからの」

「プレアーとライファーンは強く引き合う。
彼らの出会いを守るために、運命を監視するのがアタシたち監視人の使命」

気まずい沈黙が流れた。
日はもうとっくに暮れている。

「ライファーンはなぜ主人を救わなかったのかしら」

「それがわかれば苦労せんわ、赤毛。こんなことは過去に一度も例のないことじゃからのう…」

「確かに。まずは消えたライファーンを探さねばなるまい」
と鷹の目。

「それが難しいのが頭の痛いところじゃよ。ライファーンは念の塊。動物に憑く場合もあれば人に憑く場合もある。
しかも…憑かれた側にはライファーンが宿った自覚など、まるでないんじゃから」

「探し出すなんて至難の技ですね…」
黙って聞いていた灰色が口を挟んだ。

「だからなに?他人ごとみたいな口ぶりね」
赤毛が食ってかかる。

「でも、あああの、もしかしたら…黒き予言の…」

その場にいた全員が灰色の不吉な言葉に表情を変える。

「だったらなおのことだわ。一刻も早く探し出さなきゃいけない。ライファーンをね。プレアーを失ったら世界は終わりなのよ?やる気のない臆病者はすっこんでるがいいわ」

「落ちつけ赤毛。気持ちはわかるが今は仲間割れをしているときではないはずだ」
鷹の目が赤毛の肩に静かに手を置いて言った。

「鷹の目の言う通りじゃ。
我ら七人の監視人で力を合わせて協力しなければ消えたライファーンを見つけ出すことなぞ、それこそ不可能なんじゃ。
まずそこを理解してくれぬか」

赤毛は、ふうっとため息をつき……
「わかったわ」
と言いながら今度は灰色のほうに向き直った。

「悪かったわ、色白坊や。
あんたもちゃんと働きなさいよ?いいわね」

「はい、僕、の方こ、こそ…す、すみみま…せん…」
灰色がどもりながら答える。

「とにかくそれぞれ持ち場に戻り、情報収集に専念するしかなさそうだな。
私は先に失礼するとしよう」
狐火が若者の言葉に大きく頷いて、杖を振る。

すると次の瞬間、何もない部屋の中央に古ぼけた大きな姿見が鎮座していた。
鷹の目が着物の裾をたくしあげ背を屈めて姿見の中に踏み込む。
鷹の目の姿が完全に消えた。
今度は赤毛と灰色が続いて鏡の中に入って行く。

最後には…

狐火と鏡だけがぽつんと取り残された。

「ワシもこうしちゃおれんわい。…戻れ」

戻れ、とつぶやくと同時に、鏡が煙のように掻き消え、元の位置と寸分たがわぬ位置にガラクタの山が現れる。
店内は一ミリのズレもなく、元の荒れ果てた骨董品店の姿に戻っていた。
狐火はヒューと息を吸い込むと慌ただしく地下室へと降りて行った。
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