表と裏と狭間の世界

雫流 漣。

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パングとの出会い

ゲームセンターの少年

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表通りと違い、雑多な感じがする。
開いている店もまばら、建物の壁は薄汚れ、あちこちの塀にスプレーで描かれた下品な落書きがあった。
ろくに舗装されていない歩道には空き缶やタバコの吸い殻が捨てられ、歩くたびにベタベタした感触がする。

十メートル歩く間に、スニーカーの裏にガムがみっつはくっ付いたな…とカイは思った。

こんな所にこんな場所があったとは…

駅前のアウトレットからいくらも離れていないというのに、あまりに荒んだ雰囲気を醸し出している通りの様子を目にしてカイは面食らった。
寒さも忘れて突っ立ち、スラム街風の景色を眺める。
ふと、ヒビだらけの緑の立て看板が目にとまった。
小さな電球で周りをぐるりと囲まれていて、電球はところどころ切れている。
見えないピアノ線でぐいぐいと手繰り寄せられる人形のように、カイは真っ直ぐそこに歩いて行った。

どうやらそこはゲームセンターらしい。
中を除くと数人の若者がゲームに興じている姿が見える。
カイは暇つぶしに店内に入ってみることにした。

甘ったるい乾いたタバコの煙で目が滲み、カイは目頭を押さえた。
旧型の、テーブル式のゲームのあるあたりでは数人の少年がコンピューターと対戦中だ。
素早く連打している指先のほかは、蝋人形のように動かない。
じっと見ていると、まるで指だけが小さな別の生き物のようだ…

無表情でダボダボのパンツを履き、腰や体のあちこちに鎖をぶら下げた彼らは、大人びた顔つきをしているものの、間違いなく未成年。
この様子では、今この空間に、成人した客はカイ一人しかいないかもしれない。

…非行少年の溜まり場か。

店内をぐるりと見渡すと、セルフサービスのドリンクコーナーと一体になった受付があり、その奥に扉が見える。
スタッフルームだとカイは思った。監視カメラがついているものの、受付に店員らしき人物の姿はない。

さっそく両替機でコインをメダルに変えると、壁際に設置してある色褪せたスロット機の前に腰かけてみた。
スタート時にレバーを手前に引く旧式のタイプだ。
メダルを投入し、ガチャンと重い音をたてゲームが起動すると、三個並んだ小窓の中の絵柄が鮮やかに回転し始める。

ちゃりん、ちゃりん、ちゃりん…

軽やかな電子音を響かせて次々にメダルが吸い込まれていく。
ゲームなど子供騙しの玩具だと思っていたカイだったが、次第に夢中になっていった。
なにしろカイは娯楽に疎い。
ゲームセンターで遊ぶなど、初めての経験だ。
リックが悪戯玩具を片手にはしゃぐ理由が理解できたような気がして、カイは微笑んだ。

ちょうどそのとき。
カイのいるスロットコーナーから死角になった一角、
間口の狭い通路の突き当たりに…
数人の少年たちがたむろしていた。
七、八人はいるだろうか。
円になって何かを取り囲んでいる。
小声で笑ったり、仲間同士意味ありげに目配せをしたり。

少年たちの輪の中央にいるのは金髪の少年。
ひどく貧弱で小さい。
皮が破れてクッションが飛び出したボロボロの一人掛けソファーに座らされている。
どう見ても幼い子ども。
怯えているのか下を向いてなにやらブツブツ呟いている。

…と、取り囲んでいた少年の顔に困惑の色が浮かび、彼らは次々に押し黙った。

「おまえらは選べる立場に居るのか。居ないのか」

からかいの混じった…けれどもどこか人をゾッとさせるような、冷淡な声。場に緊張が走る。

バツの悪さが漂う無言の中、出っ歯の少年が口を開いた。
「俺は、やる。Bには逆らいたくねぇ」

「計画を成功させるには、もう少し武器がいる」
Bと呼ばれた人物が言った。

「これならあるぜ」
別な少年が誇らしげにスタンガンを突き出して見せた。

「まぁ、それも有効。でも武器が足りない。武器を調達するための金も」

…と、のっぽの男が一歩前に出て、一通り全員の顔を見渡した。ボスに従うか否か、拒否の意思表明がないのを確かめているのだ。

返答がないのを賛同と捉えたらしい。
ピュー、ピュー、と指笛を二回。

すると…
それを合図に、周囲から一人、また一人と人が集まり始め…
(カイがこの様子を見ていたら、きっと「腐れゾンビの集団だな」と思ったに違いない)
一角は、あっという間に二十人近い少年たちでぎゅう詰めになった。

突然。
ソファーに座らされていた金髪の子どもが気が狂ったようにゲラゲラと馬鹿笑いを始めた。
体を丸め、腹を抱えて身を捩りながら笑っている。
笑い終えると、金髪の巻き毛を揺らして子供が顔をあげた。
唇は歪み、憎悪を刻んだその目はギラギラと邪悪な光。
子どもは肘掛けにドカッと両腕を乗せて偉そうにふんぞり返った。ガラの悪い仲間たちが怯えた表情で彼…
リーダーであるBを見つめている。

「金がいる。今日一日でどれくらい集まる?」
のっぽで猫背の少年が、リーダーに代わって音頭を取る。

「千ドル」
かすれた声がした。
返事はない。

「千…五百…」

Bはなおも答えずに目を細めて震える子羊たちの群れを眺めている。
獲物を狙う肉食動物の目で。

「に、二千!」
重圧に耐えきれなくなった羊の一人が、かすれた声で叫ぶ。

「五千だ」
有無を言わさぬ響き。
Bが宣言をし、立ち上がる。
頭一つ半、仲間たちより小さい。十二、三歳がいいところか。

それでも仲間たちは…おそらくこの非行グループの中で最年少である金髪の少年Bをひどく恐れているらしい。
子羊の群れは五千ドルという理不尽な悪条件を承諾した。

「手始めにオヤジでも狩ってこい。向こうにちょうどいいのがいるよ」
Bが薄ら笑いを浮かべて顎をしゃくる。

少年たちは示された方向にバラバラと散って行った。
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