表と裏と狭間の世界

雫流 漣。

文字の大きさ
36 / 60
パングとの出会い

目覚め

しおりを挟む
十二月三十日。

いまカイはヒイラギ荘のベッドの上にいる。

パングに連れられて傷ついた体を引きずりながら…
路地裏を抜け小道を歩き、駅前まで案内してもらったのが朝方。

今こうしてヒーターの効いた暖かな室内で目を閉じると、すべてが幻だったような気になってくる。

しかし……
おずおずと手を這わすと、指先が膨らんだ瞼に触れる。
動かす度にズキズキする右肩の痛みは、ゲームセンターの裏口で倒れ込んだとき打ちつけたものだ。

その鈍痛は、カイに微睡む隙を与えなず…
やもすると逃避の世界に逃げ込もうとする意識に張り手をしてカイを現実に引き戻していた。
痛覚はカイの正気を保つのに十分すぎる役を担っている。


イマジェニスタ。


ここではないもう一つの世界。
カイが反芻する。

にわかには信じられない。
そんなものはお伽話や映画の中の出来事だ。
だが、本当に…
それらすべてが空想だと言い切れるだろうか。

世界には今なお謎に包まれた古代遺跡や未開の文明、解明不可能な事象が数多く存在する。
人知の及ばぬ摩訶不思議。
それは美しく青い、この星の上で確かに息吹いているのだ。

イギリスのストーンヘッジ、ナスカの地上絵、アンコールワット、イースター島のモアイ像、王家の墓と呼ばれるエジプトのピラミッド。
ネッシーだけでなくイエティやチュバカブラのように各地で目撃されている未確認生物もいる。
まことしやかな説が飛び交い、夢と現実が交差したかのような異常な現象と歴史の数々。

(得体の知れない何者かが、
イマジェニスタから次元を越えて、こちら側に流れ込んだ結果だとしたら?)

時空に開いたブラックホールの端が、別な次元と繋がって…二つの異なる世界を結ぶ。
そして、この世界に奇跡が生み出されて。

(本当にそんなことが有り得るのか?)

カイは自分が狂人になってしまったのかも知れないと恐怖に駆られる反面、冷静に身に起こった現実を受け止めていた。
そして、日々確かに存在する世界の不思議も。

真っ直ぐにバスルームに向かい、正面をじっと見る。
鏡にはカイの姿。赤紫に変色した瞼と切れた唇がそこだけハッキリしていて、青白い皮膚と不自然なコントラストを作っている。
ぼんやりした淡色の砂地に浮かぶ、どぎつい華のようだ。

(まるで知らない男って感じだ…)

苦笑しながら自分の顔をさらにじっと見つめていると、
自分が自分ではないような……空中遊泳しているような…
そんな錯覚が押し寄せてくる。

「もう一度パングのバラッドを訪ねてみよう」
低く乾いた声。
けれども一語一句漏らさず復唱するような丁寧さで。

今度は手を伸ばして鏡に触れてみる。擦り剥けた顎のあたりを。
傷口に痛みは感じない。
変わりに感じたのは指先から伝わる、硬く冷たい鏡の感触だけ。
目をつむり五感のうちの一つを閉じてみる。

聴覚、触覚、味覚、臭覚……

研ぎ澄ませることで伝わってくるすべての感覚を噛み締めながら、体に現実を刻みつけていく…
臨場感を求め再確認する作業。

だが皮肉にも
夢を諦めた小説家の卵は、
今またも夢の世界に足を踏み入れようとしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

処理中です...