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脱走
最後の晩餐
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パチパチと木材が燃える音。
炎がゆらめいて闇夜を照らし、白い煙が立ち上っている。
周りを建物で囲まれた狭い空き地、その中央にドラム缶が一つ。
そこに木をくべながら暖を取っている…
人影が二つ。
「どうしてもやるんだべか?
やめることはできないだか」
「無理だ。準備は完了してる。
だいいち俺らの中に、アレに逆らえる奴なんかいると思うか?」
「ギルダーのあんちゃしかおらんだろな。
だからこうして話をしちょる」
「買いかぶりすぎだ」
人懐っこい笑顔。
明るく澄んだ瞳で、隣に腰かけた大男を見上げる。
「それにしても、あの子はまた随分と思い切ったことをやろうとするんだべな。
世間は元旦だってえのに、落ち着きのないこったがな」
ギルが煙草に火をつけて深呼吸する。
「あいつは…怖いものがないんだよ、パング。
だから躊躇しない。
失う怖さを知らないんだ。
だから止まらない。
それにまだガキだしな」
あーうんと頷きながら質問を返す。
「あんちゃはどうなんだべか?
怖いもんないだか?」
「あるさ。いくつかある。
俺はバートを失うのが一番怖い」
「そんだば。側に居てやるしかないってこっちゃな。
ただ見てるだけは随分と苦しいもんだとは思うがな」
パングの胸元のアップリケが艶を失っている。
淡く灰色がかったスミレ色をしているのを見てギルが悲しい顔で長い睫毛を震わせた。
パチン!と大きな音を立てて木の枝が爆ぜ、火の粉が舞った。
二人は無言で炎を見つめている。
なかなか次の言葉を出せないでいるのだ。
「出発は明け方だ。お前ともしばらく会えなくなるだろうな。
ひょっとしたらもう二度と会えなくなるかもしれないけどな、
今それは考えないでおく」
「そんだらこと言われたら悲しくなるでないが。
あっそうだ、良がったらこれ」
パングが脇に置かれた麻袋の中をゴソゴソ掻き回している。
「あの子はもやしみたいにヒョロヒョロで顔色が悪すぎだで、栄誉さ取らんと。
ほれ、餞別だで」
パングがグローブのような大きな手を開くと、赤と白が目立つ小さな缶詰がちょこんと乗っかっている。
「なにこれ。クラムチャウダー?
スープかい?
美味そうだな。
でもあいつこれ嫌いかも知れないな…
好き嫌いがすごく多いんだよ」
「そらぁ良くないがな。
好き嫌いせずなんでも食べさせないと。
育ち盛りなんだがら」
はいはい、わかったよと手を振って応えるギル。
態度とは裏腹ににっこりと優しい笑顔。
「お前は良い奴だし世話になった、パング」
「オイラはなんも世話なんてしてないだよ。
元からここに住んでただけだしな。あんちゃも達者でな」
「ああ、それなりに適当に生きていくさ。
俺たちにとって最後の晩餐だ。
景気良く行こうぜ」
汚れてくすんだステンレスのカップに賞味期限の切れたインスタント珈琲の粉末。
「こんなもんしかねぇがオイラたちにしちゃ上出来だで」
沸かした湯を注ぎ、ギルに手渡す。
「一つだけ約束してはもらえないだか?
おまえさんたちがやろうとしてることは悪いことだ。
けっして褒められることじゃねえ。
オイラにはそれを止められねぇ。
けども、そんでも!
誰かを傷つけるようなことだけはしないでほしいと思っちょる」
ガツンと鈍い振動。
カップとカップがぶつかりあう音だ。
「乾杯だ、パング。
俺も出来る限りそうしたい。
その為にあいつには俺がいる」
頷くパングを見つめて呟いた。
炎がゆらめいて闇夜を照らし、白い煙が立ち上っている。
周りを建物で囲まれた狭い空き地、その中央にドラム缶が一つ。
そこに木をくべながら暖を取っている…
人影が二つ。
「どうしてもやるんだべか?
やめることはできないだか」
「無理だ。準備は完了してる。
だいいち俺らの中に、アレに逆らえる奴なんかいると思うか?」
「ギルダーのあんちゃしかおらんだろな。
だからこうして話をしちょる」
「買いかぶりすぎだ」
人懐っこい笑顔。
明るく澄んだ瞳で、隣に腰かけた大男を見上げる。
「それにしても、あの子はまた随分と思い切ったことをやろうとするんだべな。
世間は元旦だってえのに、落ち着きのないこったがな」
ギルが煙草に火をつけて深呼吸する。
「あいつは…怖いものがないんだよ、パング。
だから躊躇しない。
失う怖さを知らないんだ。
だから止まらない。
それにまだガキだしな」
あーうんと頷きながら質問を返す。
「あんちゃはどうなんだべか?
怖いもんないだか?」
「あるさ。いくつかある。
俺はバートを失うのが一番怖い」
「そんだば。側に居てやるしかないってこっちゃな。
ただ見てるだけは随分と苦しいもんだとは思うがな」
パングの胸元のアップリケが艶を失っている。
淡く灰色がかったスミレ色をしているのを見てギルが悲しい顔で長い睫毛を震わせた。
パチン!と大きな音を立てて木の枝が爆ぜ、火の粉が舞った。
二人は無言で炎を見つめている。
なかなか次の言葉を出せないでいるのだ。
「出発は明け方だ。お前ともしばらく会えなくなるだろうな。
ひょっとしたらもう二度と会えなくなるかもしれないけどな、
今それは考えないでおく」
「そんだらこと言われたら悲しくなるでないが。
あっそうだ、良がったらこれ」
パングが脇に置かれた麻袋の中をゴソゴソ掻き回している。
「あの子はもやしみたいにヒョロヒョロで顔色が悪すぎだで、栄誉さ取らんと。
ほれ、餞別だで」
パングがグローブのような大きな手を開くと、赤と白が目立つ小さな缶詰がちょこんと乗っかっている。
「なにこれ。クラムチャウダー?
スープかい?
美味そうだな。
でもあいつこれ嫌いかも知れないな…
好き嫌いがすごく多いんだよ」
「そらぁ良くないがな。
好き嫌いせずなんでも食べさせないと。
育ち盛りなんだがら」
はいはい、わかったよと手を振って応えるギル。
態度とは裏腹ににっこりと優しい笑顔。
「お前は良い奴だし世話になった、パング」
「オイラはなんも世話なんてしてないだよ。
元からここに住んでただけだしな。あんちゃも達者でな」
「ああ、それなりに適当に生きていくさ。
俺たちにとって最後の晩餐だ。
景気良く行こうぜ」
汚れてくすんだステンレスのカップに賞味期限の切れたインスタント珈琲の粉末。
「こんなもんしかねぇがオイラたちにしちゃ上出来だで」
沸かした湯を注ぎ、ギルに手渡す。
「一つだけ約束してはもらえないだか?
おまえさんたちがやろうとしてることは悪いことだ。
けっして褒められることじゃねえ。
オイラにはそれを止められねぇ。
けども、そんでも!
誰かを傷つけるようなことだけはしないでほしいと思っちょる」
ガツンと鈍い振動。
カップとカップがぶつかりあう音だ。
「乾杯だ、パング。
俺も出来る限りそうしたい。
その為にあいつには俺がいる」
頷くパングを見つめて呟いた。
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