異世界子育て奮闘記~勇者の父親は何かと大変~

てん

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四日目(3)

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    俺の勇者宣言によりこれまで恐怖で顔を引きつらせていた城下町の人達が「おぉ~!」「この国を守ってくれ!」「勇者様!」と希望に沸いた顔をしていた。
    なんか騙している気もしたが、それ以上に人からもてはやされたことのない俺にとってはその声援はとても気持ちの良いものだったのを覚えている。

    もしかしたらこのまま引き下がってくれるかもなんて期待してみたのだが、魔族は「本当に勇者なのか確かめさせてもらう」といって片手から大きな黒色の渦を出現させると、それを間髪入れずに俺に放ってきた。

    あぁこれは流石に駄目だ。調子に乗ってしまったから罰が当たったのか。なんて思ってその渦に巻き込まれたのだが。俺が傷を負うことはなく、その黒色の渦は心地良いそよ風にしか感じなかった。

    そんなこんなでその後も魔族は様々な魔法のような攻撃を放ち、その度に死を覚悟したものだが、その攻撃はどれも俺の身体に小さい傷すらつけることなく魔族の徒労に終わってしまっていた。

    今でもあの時何故魔族の攻撃が俺に効かなかったのかはわからない。
    しかしその時の俺は自分の内に眠る娘を想う父親の愛のパワー。略して利菜ラブパワーが覚醒したのだと本気で思い、利菜を救うべく渾身の右ストレートをその魔族の下腹部に放った。

    結果、利菜ラブパワーなんてものは存在していなかった。

    鉄でも殴ったかのような激痛が右手首に走り、完全に右手首が捻挫してしまったことがその痛みによって直ぐにわかった。
    変な妄想によって自分には内なる力があるなんて思っていた俺がその痛みによって現実へと急速に引き戻された時、愛くるしい聞き慣れた声が耳に入った
    「パパァ!」と言いながら魔族の腕の中から手を振ってきた利菜。魔族は腕の中で動き回る利菜を落とさないようにワタワタと抱え直していた。

 利菜が起きればこっちのもの。一歳の娘を頼るのは今でもどうかと思っているが、あの状況を打開するためには利菜の力が必要だった。
 俺は利菜の名前を呼ぶと、魔族の顔を指さして利菜の視線を誘導した。利菜が俺の思惑通りに魔族の顔へと視線を向けた時、利菜が大きな声で泣き叫んだ。
 同時に身体を光らせバチバチと電気のようなものを身体から放出させていく利菜。その利菜を抱きかかえていた魔族が「なんだこれは! この光はまさか!」と何かに気付いた様子を見せた瞬間。利菜が今では見慣れたスパークを起こした。
 
 魔族は利菜を抱きかかえたまま全身を痙攣させると、頭部をアフロと化した状態で全身からプスプスと煙を立てながら地面へと倒れた。
 そして勝ち誇ったかのようにその上で上下に揺れる利菜。心なしか誇らしげな顔をしていたのは何故だったのだろう。
 
 空中にいた魔族達は魔王が敗れたと知ると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。部下である魔族達に簡単に見捨てられたアフロ魔王はなんともかわいそうであった。

 その後、すっかり伸びてしまっているアフロ魔王の上に乗っている利菜を抱きかかえようと恐る恐るアフロ魔王の元に近づいた。
 気絶しているとは言っても相手は魔王。早く魔王から利菜を離そうと上に乗っている利菜を抱っこしようとしてみたのだが、物凄い不満そうな顔をされ、頑なに拒否される。
 
 いつ魔王が起きるかわからない状況の中、キャッキャと甲高い声を挙げながら楽しそうにお馬さんごっこをする利菜の姿を見ていた俺は正直生きた心地がしなかった。

 しかしいくら利菜が上で跳ねても魔王が起きることはなかった。よほど利菜のスパークが効いていたのだろう。

    魔王が完全に気絶していることに気付いた俺は安堵と共に急に魔王の素顔が気になり、そっと仮面を剥がした。



 アフロ魔王の素顔を見た時、俺は息が詰まる感覚に襲われた。
    何故ならその魔王の素顔は一年前無くなった妻に瓜二つだったのだから。
 物心ついた時から毎日妻の写真を見せてこれがママだよ、これが母さんだよと教えられていた利菜も魔王の素顔を見た途端、満面の笑みで「ママ! カータン!」と魔王の顔をぺシぺシと叩いていた。
 まだ寝がえりすら出来ない時に亡くなった母親の事を覚えているとは思えないが、嬉しそうに妻の顔とそっくりの魔王の顔と戯れる利菜の様子を見ていた時、何故か俺の頬には多量の涙がつたっていた。
 もし妻が今生きていれば、このように利菜と戯れていたのだと思うと、溢れる涙を止めることが出来なかった。

 そうこうしているうちにマリーノの騎士団と思われる一団がギルド前まで来ていた。多分ではあるが魔王が倒されたのを見た住民の誰かが騎士団に連絡したのだろう。
    騎士団は倒れている魔王を囲うと、俺と利菜に魔王から離れるよう指示を出してくる。
    妻と同じ顔をしている者が捕らわれるような姿は出来れば見たくはなかったが、この者は似ているだけで決して妻ではない。
    それにこの魔王によってマリーノ王国は苦しめられていたのを聞いていた俺は後ろ髪を引かれるような思いで、利菜を魔王から引き離そうとした。

    しかしそんな大人の事情を一歳の娘が汲んでくれるはずもなく、どれだけ待っても、おやつで釣っても、頑なに魔王の傍から離れようとしなかった。
    最終手段の「バイバイ作戦」を決行するも、騎士団達から冷たい視線を浴びせられるだけに終わってしまう。
    父親が遠くにいるにも関わらず、全くこちらに興味を示さない利菜の姿に悲壮感を感じていた時、困った騎士達が仕方ないと、半ば強引に利菜を魔王から引き離そうと利菜と魔王に近寄った。

    その光景を遠くから見ていた俺は真っ先に「あっやばい全員にパーマになる」と思い、騎士達を止めようとしたが遅かった。
    俺の予想は見事的中。五十人はいたであろう騎士団は利菜に近づく度に感電したように痙攣を起こし、あえなくチリチリパーマになって地面にキスをしていた。
    利菜は魔王を守っているつもりなのだろう。近づく騎士に「メーヨ」「メ!」と駄目だと言いながらスパークを繰り返す。
    しかしその護衛対象であるはずの魔王も利菜のスパークの度に身体をビクビクと痙攣させており、利菜によって止めを刺されようとしていた。
 とりあえず褒め倒し作戦にて利菜の機嫌をとることで、一旦スパークを止めさせることには成功したものの、利菜はやはり魔王の傍からは離れたくないらしく、魔王の顔の近くで座り込む。

    どうしたものかと悩んでいると今度はカレンが更に多くの騎士団を連れてギルド前まで来た。エインとエリーザ(ロバート)もその時丁度意識を取り戻したようで、状況が理解出来ずにキョロキョロと辺りを見回していた。

 魔王と騎士団が倒れている状況が理解出来ていない様子のカレンが俺に状況説明を求めてきたので、俺はこれまでの流れと利菜が魔王を守っている理由についてカレン達に説明した。

 カレン達としてはマリーノの宿敵ともいえる魔王に早く止めを刺したいのだろう。しかし利菜の驚異的な強さも知っている手前、そう簡単には魔王には近づくことが出来ない。
    そんな葛藤の中、カレン達は利菜が眠るまで待つという持久戦を行うことに決め、ひたすら待つ作戦を開始した。

    その後、ギルド前では利菜と騎士団の睨み合いが続き夕方を迎えた頃、とうとう利菜が睡魔に抗えなくなってきた。
    本来ならばとっくに寝ている時間であるにも関わらず、必死に睡魔と戦う利菜。
    しかしいくら勇者だとしても一歳児の幼児である。迫りくる睡魔に勝てるはずもなく、眠気を見せてから三十分後、遂に利菜は深い眠りについてしまった。

    最後まで魔王の傍を離れず、寝てもいまだに魔王を守ろうとするかのように、魔王に覆い被さって眠る利菜の姿を見た時、俺の中で何かが弾けた。

    愛する娘は魔王を助けようとこれほどまでに必死に頑張ったのだ。ならば父親である俺がやるべきことは一つである。娘の願いを身体を張って叶えることだ。

    利菜が寝たのを見たカレンが騎士団に魔王に止めを刺すように命じる。五十人程度の騎士達が魔王を目掛けて走ってきた。

    凡人の能力しかない俺が間に入っても、五十人もの騎士達を止めることなどできないだろう。しかしそれでも父親として負けられない戦いがそこにあった。
    騎士の皆さんにボコボコにされる覚悟をしながらあるはずの無い内なる力「利菜ラブパワー」を引き出そうとする。
    
    いまだけで良い。俺に力を分けてくれぇ~!っと心の中で叫びながら騎士団の前に立ち塞がった。
    騎士の人が「どいて下さい!」「このままではぶつかってしまいますよ!」と避けるように声をかけて来たが、俺は両手を大きく広げたまま騎士達を待ち構えた。
    「仕方ない。出来るだけ怪我をさせないように無力化しろ!」と騎士の一人の声が聞こえた。

 せめて気迫だけでも負けないようにこちらに突進してくる騎士達を睨みつける。先頭の一人が俺を無力化しようとタックルを仕掛けて来る。
 出来る限り抗ってやる!と下半身に力をこめタックルをかましてくる騎士に向けて相撲の押し出しのように両手を突き出した時。

 タックルをかましてきた騎士は後ろにいた五十人騎士をも巻き込み、後方へと吹っ飛ばされていった。
 その光景を見て唖然としたのはカレンやエイン達だけではなかった。一番唖然としたのは本人である俺自身である。
 
    しかしその時の俺は利菜に父としての雄姿を見せれたとばかりに満足そうな顔をしていたに違いない。まぁ利菜はその時魔王と一緒にぐっすり夢の中で俺の雄姿を見ている訳もなかったのだが。

    それでも娘の願いを叶える為に騎士五十人を一人で倒したのって今考えてもすごい事だと思うのは俺だけだろうか。
    俺自身としては叶うならばそのシーンを動画に撮って利菜が大きくなった後に父のカッコいい姿として上映したいぐらいだ。
    どうせその頃にはお父さんなんて嫌いとか、洗濯物は別にしてとか言われてそうだが。

    あっやばい想像したら少し泣けてきた。
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