狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
69 / 405

68.反省会 後編

しおりを挟む




「――じゃあそろそろ本題に入りましょうか」

 一通りの話題が終わったところで、レリアレッドがそんなことを言った。

「……?」

 私はよくわからないが……言い出したレリアレッドはともかく、ヒルデトーラも私を見ていた。

 いや。

 私の後ろに控えているリノキスも、給仕として働くレリアレッドの侍女エスエラも、私を見ていた。何かを期待する目で見ていた。

「……何かしら?」

 いよいよ確信に迫る、みたいな雰囲気で私を見ているが……肝心の私自身には心当たりがないのだが。

 何かあっただろうか。
 彼女らが興味を抱くようなことが。

 ――ああ、そういえば。

「わかった。兄の話ね?」

 兄ニールにインタビューしたのは私である。
 なかなかやりづらいものもあったが、一応映像上で兄妹であることも軽く説明した。

 兄はサトミ速剣術なる、速度を重視した剣術道場の門下生で、道場内では結構強い方に入るそうだ。

 まだ私が学院の寮に入る前は、里帰りする度に腕を上げていたのは把握していた。
 学院で、ちゃんと剣を教えている師がいたわけだ。

 現在、兄は小学部三年生ではあるが、小学部生の中ではすでにトップクラスの腕を誇るとか。
 そこそこの中学部生にだって簡単には負けないそうだ。

 偶然学院で会った時に「武闘大会、ニアが出ないなら出ようかな」と言っていたので、「私は出ない」と言ったら本当に出場を決めたのである。

 正直、冗談だと思っていた。
 兄は魔法映像マジックビジョンに出るのを嫌がるから。

「それもちょっと気になるけど。でもそれじゃないわ」

 え? 違うのか?

「あの可愛い男子はなんだ、今すぐ紹介しろ、ってすごく言われたけど。知らない上級生とか中学部生に」

 私の周りで起こった急激な変化って、それくらいだと思うのだが。

「ところでヒルデ、学院での兄はどうかしら? しっかりやっている?」

 兄は小学三年生で、ヒルデトーラと同学年である。兄と彼女で親交もあるようだが……そういえば、どれだけ親しいかは聞いてないな。

「ニール君は優等生ですよ。学業も運動もよくできるし、誰にでも分け隔てなく優しいですし。非の打ちどころがありません」

 なるほど、分け隔てなく誰にでも優しいのか。

「ということは、兄を巡って日常的に修羅場が?」

「そんなわけないでしょ」

「まあ水面下では色々あるみたいですね。この前もニール君を取り合って女の子同士で殴り合いに発展してましたし」

「修羅場あるの!? というかそれは水面下じゃない!」

「いえ、本当に水面下なのです。誰の前でやり始めても、ニール君の前でだけはやりませんから」

「ああ、それなら安心ね」

 ほっとした。

 兄の前で流血沙汰なんて起こされては困る。
 彼は私なんかよりよっぽど繊細なのだ、子供心に傷が残るようなものは見せたくない。

「いや安心じゃないでしょ!?」

 仕方ないだろう。
 兄の美貌なら起こりうる事象だと納得できるし。絶対に女も男も泣かす存在になるだなんて、一目でわかることだ。

「兄に許嫁でもいれば、まだ違うんでしょうけどね。――そうだ、レリアはどう? うちの兄、貰ってくれない?」

「え!? い、いいけど別に!?」

「ヒルデでもいいけれど。あ、ヒルデに許嫁は?」

「候補はいるようですね。しかし本決定ではありません。魔法映像マジックビジョンの普及によってかなり変わってくると思いますが……
 でもニール君は有望ですし、わたくしに異存はありませんよ」

「いやいやいやいや! ニール様は私が! 姫君はほらっ、他国の王子様的ないい人がすぐ見つかりますって!」

「あらそう? じゃあレリアが貰えばいいのでは?」

 そうか。ヒルデトーラは身を引くのか。
 リストン家からすれば、王族と繋がりを持てるのは大きなプラス要素だとは思うのだが。

 でも、時代はもう、身分を重視する時ではないのかもしれない。

 自由恋愛か。
 まあ、好きにやってくれ。

「じゃあ兄に話しておくわね。レリアが結婚したいほど好きだと言っていたと――」

「やややややめなさい! そ、そういうのは! いずれ自分でやるから!」

 顔を真っ赤にしたレリアレッドは、激しく首を横に振っている。

 ふうん……

 どうせ言うのであれば、一日でも早い方がいいと思うがね。
 なんだかんだ踏ん切りがつかない間に、事態が動くなんて儘あること。

 様子を見ている間に手遅れになってました、なんて恋愛事にはよくあることなのに。




「そそ、そ、それより! その話じゃないでしょ!」

 あ? ああ、そういえば兄の話じゃないと言っていたな。
 じゃあ、なんだろう。

「ほら! サトミ速剣術の門下生の優勝候補! サノウィル・バドル!」

 もう埒が明かないと思ったのか、それとも早々に話題を変えたかったのか。

 レリアレッドは、はっきりと問題の人物の名前を出した。出して言い放った。

 ……サノウィル……

 あ、そうか。

「それ、私の周りにはなかったの」

「え?」

 意外だったようだ。

 しかし、当事者には聞きづらい話題とかあるじゃないか。今回はそれに該当したのだと思う。

「あのインタビューでしょ? そして、あなたが気にしているのはその後のことでしょ?」

 あれに関しては、ほとんど誰かに質問されることがなかったのだ。

 ――少しばかり縁があって、私はサノウィル・バドルと立ち会ったことがある。

 いくらなんでも子供に拳は振るえないと思い、彼の持つ木刀を破壊するのみに留めた。
 そしてインタビューを行ったのは、その後のことである。




「――昨年の異種交流会、小学部の剣術の部で優勝したサノウィル・バドルさんです」

「――……」

「――あの、私ではなく、カメラの方を見てもらえます?」

「――ん、ああ、うん」

「――では改めて、流派とお名前を教えてください」

「――サトミ速剣術、サノウィル・バドルです。なあ、この前のこと」

「――話は後で。今はインタビュー。いいですね?」

「――……うん」

「――出身はどちらですか?」

「――リストン領から南にある小さな浮島です。君の家の近くだ」

「――あそうですか。今度の大会に向けた意気込みはどうでしょう? また優勝できると思いますか?」

「――優勝なんて……ほかに年下で強い者がいることを知っているのに……」

「――……ええっと……あ、去年の異種交流会の決勝戦で戦ったアルフォン剣術のガゼルさんが、今度こそ負けないと名指しでライバル宣言をしていましたが、それについて一言!」

「――ガゼル? ガゼルより俺は君が……頼む! もう一度俺と立ち会ってくれ!」




 これはもうダメだな。
 あの時心の底から思った言葉だ。

 確かこんなやり取りをして、編集できないくらいめちゃくちゃな内容だったので、結局そのまま放送されてしまったのだ。
 個人的には、放送できないと判断してお蔵入りかな、と思ったのだが……優勝候補だったから外せなかったのかもしれない。

 私としては、放送された映像を観て「ああ、やっぱりめちゃくちゃだな」と思っただけで終わったが――レリアレッドやヒルデトーラ、侍女たちの反応からして、私以外の周囲では色々あったようだ。

「色々あったらしいよ。
 無視されたような形になったガゼルが、サノウィルに殴りかかってあわやケンカになりそうになったとか。
 いつもクールで剣術以外興味ないって態度のサノウィルが、明らかにニアを意識していたから怪しいとか。サノウィルとニアができてるんじゃないかって噂が流れたりとか」

 へえ。
 私のところまでは一つも届かなかったけど、確かに色々あったみたいだ。

「――知ってた?」

 リノキスに聞くと、彼女は普通に頷いた。なんだよ教えてくれよ。知らなかったのは私だけか。

「なんで教えてくれなかったの?」

「お嬢様とサノウィルとかいう馬の骨がくっつくとイヤだなと思って。決して意識させないよう決してこの口から奴の名を出さない方向で行こうと思っていました」

 ……あ、そう。

「で、どうなの? サノウィル、ニア的にはどうなの? 見た目もかっこいいしすでに結構強いし将来有望じゃない? 実際人気あるみたいよ」

 どうと言われてもなぁ。

「もう少し強くなってほしいわね」

 できれば私より強くなってほしいと思っているが。

「そういうことじゃなくて色と恋の方向ですよ」

 あ、そっち?

「かっこいいだけなら兄で見慣れているから、なんとも思わないけど……」

「え、そうなの? ……あ、そういやニアのお父様もかっこいいもんね。うちはもうおじいちゃんだし」

「オルニット・リストン様ですね。直接お目に掛かったことはありませんが、確かに魔法映像マジックビジョンで拝見した限りでは美丈夫でしたね」

 うん。
 ちなみに母親もかなりの美人で、兄は母親似だ。

「そういえば、ヒルデ様の許嫁候補ってどんな方なんですか? やはり美形?」

「うーん……年齢的にはおじさまかしら?」

「げっ。典型的な政略結婚ですか……」

「これでもわたくし、王族ですから。しかし、それこそオルニット様のような中年もいるし、小さいながらも希望はある! ……と、良いんですけどねえ……」

 ヒルデトーラはしみじみ呟くと――バッと自分を激しく抱きしめた。

「ああっ! 身を焦がすような恋がしたいわ!」

「このパイおいしいわね」

「うん。少しハチミツ入ってるよね? おいしいね」

 さくさくとパイを口に運ぶ私たちに、自分を抱いたまま固まっているヒルデトーラが、

「……何か言ってくださいよ」

 か細い声で抗議した。

「いえ、見てはいけないものを見てしまったような気がして……」

 同感である。

「痛々しいし、下手に触れたら火傷するから嫌だなって思って」

「ニア! 『痛々しい』と『触れたら火傷する』はダメ!」

 じゃあほとんどダメじゃないか。全部ダメって言えばいいのに。




 ――その後、反省会はどこへやら、なんだかんだ恋愛の話で盛り上がった。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...