狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
103 / 405

102.小学部一年生の二学期

しおりを挟む




「これで話すべきことはすべて話したかしら」

 昼食から始まったヒルデトーラとの話し合いは、夕方近くまで続いた。

 さすがは王族と言うべきか、「なんとかなるだろう」と大雑把に片付けていた問題の多くが、ヒルデトーラの助力で片付いた、気がする。

 これであとはやるだけである。

魔法映像マジックビジョン絡みのことであるなら、わたくしもぜひ協力したいところですが……」

「別にいいわ。これは私が個人的にやりたいことでもあるから」

「そういうわけにもいきません。……でも、わたくしは出せて五百万クラムがいいところです。十億クラムの目標額には少額すぎます。これでは足しにはならないかと……」

 八歳でそれだけ用意できれば大したものだと思うが。

「少額でもお金はお金だから」

「え? あ、受け取るつもりはあるんですね?」

「王様にも言っておいて。余裕があるなら五千万くれって」

「う、ううん? ……伝えてはおきますけど、出してくれるかどうかはわかりませんからね?」

「大丈夫。王様、出せるって言ってたから」

「それはわたくしも聞いてました。でも最初から無条件で出すという意味ではなく、出せるとしたらというたとえで言っていたような……まあ、一応伝えておきますけど……」

 よし、これで残りは九億三千五百万クラムだな。

 ヒルデトーラと話すことでやるべきこともはっきりしたし、彼女のコネで周辺環境もすぐに整うだろう。
 バカンスも大事だが、これからのことも具体的に考えておかないとな。

 そして、私自身も準備をしておかないと。




 武闘大会の企画が立ち上がった翌日から、私は本格的に行動を開始した。

 まず、リノキスは「氣拳・雷音」の修行。
 すでに形はできているので、一週間もすればまぐれで出たり出なかったりし始めるだろう。やはり向いている技のせいか、なかなか筋がいい。

 その近くで、私も座禅を組む。

 ――私も「氣」を……「八氣」をしっかりこの身体・・・・に馴染ませ、上級魔獣くらいは狩れるようになっておかないと。

 このバカンスで、どれだけ前世・・の勘を取り戻せるだろう。
 まだ身体の年齢からして、ここまでの修行は早いとは思うが、今はそうも言っていられない。

 できれば、この島にあるというダンジョンにも行って、実戦を積みたいが――王族がいる今現在では、出入り口は厳重に封鎖されていることだろう。万が一のことがないように。

 いっそそっちはもう諦めて、こっちの修行に専念した方が有意義化もしれない。

「――お嬢様、そろそろ引き上げませんか?」

「――先に帰っていいわよ。私はこのまま丸一日の荒行だから」

「――えっ」

 そろそろ私もしたかったのだ。
 リノキスが大好きな荒行、私はやれる機会が本当になかったから。

 これもまた、バカンスでやりたかった私の予定でもある。

 武闘大会の企画が動き出そうとしている今、ちょっと遊ぶ予定は色々とはずすことになりそうだが、今後を考えたら修行だけはきっちりやっておきたい。

「――……お嬢様が帰らないなら、私が帰れるわけないじゃないですか……」

「――あら、リノキスも荒行に参加するの? 熱心ね」

「――はは……そうですね……」

「――あなた荒行好きだものね」

「――……ははは……」




 バカンスを一日だけ早めに切り上げ、ヒルデトーラとレリアレッド、ついでに王様を残して、私とリノキスは先に王都に戻ってきた。

 ……それにしても、バカンスの一番の思い出が、昨日のバーベキューになってしまった。

 あの王様が肉を片手にはしゃいでいたことだけが印象深い……奴のせいでなんとも言えない休日となってしまった。

 …………あんなにはしゃぐかね。子供が引くほどあんなに……いや、まあいい。

 いつまでもバカンス気分でいるわけにもいかないからな。
 気持ちを切り替えよう。

 もうじき二学期が始まる。
 なので、その前に下準備をしておくために、一日早く戻ってきた。

 リノキスと話し合った結果、私がまた学院生活に戻ると同時に、彼女は冒険家として活動を開始することになる。

 元々リノキスはアルトワール学院中学部の冒険科を卒業しているので、基本的なノウハウは最初から修得している。
 冒険家として活動するのは、案外適任なのだ。

「――ここを使うのは構わねえが、俺はもう堅気なんでな。揉め事は勘弁だぜ?」

 まず向かったのは、アンゼルの店である「薄明りの影鼠亭」だ。

 冒険家として活動するリノキスは、「ニア・リストンの侍女」と知られると侍女業務に支障が出そうだと考え、変装の上に偽名で活動する意向を固めた。

 そして別人として動く時の拠点となるのが、この店だ。
 無事アンゼルの許可も出たので、遠慮なく使わせてもらおう。

「しかし十億クラムとはデカい目標だな」

「そうね。リリーは小さいのに大きいこと考えるわね」

 店主アンゼルと従業員フレッサには、武闘大会のことはまだ話せないが、私たちがなんのために活動するかは話した。

 変装したり偽名を使ったりと一見怪しげなことをする以上、きちんと事情を話さないと勘繰られてしまうし、誤解が重なった結果迷惑を掛けてしまうかもしれないから。

「なんなら手伝ってもいいのよ? 分け前は基本的にないけど」

 出されたジュースをなめながら言うと、アンゼルには鼻で笑われ、フレッサには誰が見てもわかる冷ややかな愛想笑いを向けられた。

「ただ働きじゃ動けねえよ」

「同じく。お金に困ってはいないけど、余裕があるわけでもないから」

 そうか。それは残念。

「まあ、どう動くかはリノキスが決めることだから。仲間が欲しいなら、分け前のことも含めてリノキスが決めればいいわ」

 現場の判断が必要なこともあるだろう。
 その時私はいないのだから、全部リノキスがやりやすいようにやればいいのだ。

「――私もたまに参加するから、その時はよろしくね」

 とりあえず、話はついたので、これで拠点の心配はなくなった。
 リノキスなら多少治安の悪い路地裏でも、特に問題はないだろう。




 次は、ヒルデトーラが手紙を書いてくれた商会だ。
 王族貴人の覚えもいい大店で、ここなら情報面でも換金面でも活動面でも、絶対に信頼がおけると太鼓判を押してくれた。

 その名もセドーニ商会。

 名前だけは私も知っていた。
 リストン領にも支店があるくらいだ。アルトワール王国で一、二を争うほどの大商会だと記憶している。

 やはり大きい商会だけに、信頼と実績も桁違いというわけだ。

「――いらっしゃいませ、ニア・リストン様」

 初めて来る店だが、若い店員は私のことを知っていた。……まあ大店ほど情報が集まりそうなので、さすがに魔法映像マジックビジョンも購入しているのだろう。

「責任者に会いたいの。これが紹介状です」

「お預かりします――しばしお待ちを」

 手紙を受け取るなり、若い店員は奥へ消えていき――すぐに戻ってきた。

「どうぞこちらへ」

 そしてすぐに応接間へと通された。
 さすがは王族の手紙。話が早い。




 そんなこんなで王都中を巡っていると、あっという間に残り少ない夏休みが終わり。

「――ではお嬢様、お気をつけて」

「――リノキス、あなたも気をつけてね」

 寮部屋の中で見送るリノキスに、私も同じ言葉を返す。

 私はこれから校舎へ行く。
 気を付けるようなことはまずないと思うが、しかしリノキスは違う。

 彼女はこの後学院を出て、冒険家としてデビューし、稼いでくる予定だ。

 狙う魔獣も、魔獣が棲む浮島へ向かう飛行船も、当然冒険の準備も、事前に済ませてある。
 日程は、三日から五日。
 次にリノキスと会うのは、数日後である。

 リノキスはまだ「雷音」を習得していないが、未完成の「雷音」でもそれなりの威力がある。標的に選んだ魔獣くらいなら、特に心配はいらないだろう。

 ――それより、今後の金策の目途になるので、一回の冒険でどれだけ稼げるかは非常に気になる。
 初回の冒険は、今後の基準になるだろう。

 二年で十億か。

 選択肢なんてない。
 迷う余地などない、やるしかないのだ。

 だが、どうなることやら……




 そんな小学部一年生の二学期が始まる。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...