狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
104 / 405

103.私にしかできない方法で手勢を増やす

しおりを挟む




 だいたいの予想や予測は立てたつもりだったが、それらに反して、リノキスが不在となることで動き出す者が現れた。

 はっきり言って誤算である。

「ニアお嬢様。私にも稽古を付けていただけませんか?」

 授業が終わり寮に戻ると、彼女はまだそこにいて、私の帰りを待っていた。
 そして、リノキス不在の間、私の部屋の掃除や身の回りの世話をするよう頼んでいた彼女に、そんなことを言われた。

 兄専属侍女リネットだ。
 確かリノキスと同級生で、彼女とは冒険科でパーティーを組むこともあったらしい。

 今は同じ雇い主に雇われている侍女だが、職務形態からして、私と兄が接する機会がないと会えない二人は、ほとんど話もしていなかったそうだが。
 私の学院での生活が始まると、私や兄がいない時に会って、よく話をしているとか。きっとお茶しているのだろう。

 ちなみにリノキスとリネットは、レリアレッドの侍女エスエラとも会っていて、意外と仲が良いらしい。
 私が知らない間に、付き人同士で情報を交換するコミュニティが出来上がっていたわけである。

「稽古? なんの?」

「――二年前からお嬢様には注目しております。木剣で木剣を斬ろうとした、あの時から」

 木剣で木剣を……?

 ああ、あれか。
 まだ病気で不自由していた時に、兄の剣術訓練に割り込んで見せたあれか。そういえばリノキスもあれが好きだったな。

「随分と古い話を持ち出して来たわね」

 あの頃は弱り切っていたこの身体・・・・のことに意識を向けていたので、いまいち他所事の印象が薄い。毎日が精一杯だったから。

 今ではこんなに元気だが。

「私は構わないけれど、あなたの時間がないんじゃない?」

 リノキスは私付きだったから、まだ時間の捻出が簡単だった。なんなら私が彼女に合わせれば済むところもあった。
 しかし、リネットはそもそも付いている相手が違うのだ。

「ニール様は毎日遅く帰りますし、かなり早めにおやすみになります。それ以降なら、少し時間が取れますので」

 少し、か。

「それに、私もリノキスに頼まれていますので、その方が都合がいいのです」

「リノキスに?」

「はい。お嬢様が宿題をするのをちゃんと見届けろ、と」

 …………

「それと、お嬢様が魔法映像マジックビジョンで有害映像を観ないように見張れ、とも言われています。あと夜間は私が魔晶板を預かり、持っていきますので」

 …………

「お嬢様が宿題をしている間、私は稽古をする。どうでしょうか?」

 …………

 リノキスめ!
 私が密かに楽しみにしていたすべてを台無しにしてくれたな!
 
 ……いや、まあいい。仕方ない。

 師の命令で弟子ががんばっているのに、私ががんばらないわけにもいかない。約束事や規則くらいは私も守ろうじゃないか。

 学院から出ない、ちゃんと宿題はする、予習復習も忘れない、毎日風呂に入る、夜更かししない、魔法映像マジックビジョンで禁止されている番組は観ない、毎朝髪を梳くのが面倒ならせめて結ぶ。

 それに、いざという時はレリアレッドの侍女に話を通してあるから、彼女を頼れ、と。
 リネットは兄と一緒に貴人用の男子寮住まいなので、距離もあるし、夜間などは呼べない時もあるからと。

 思い返すと、結構約束しているものである。はいはいと流したら何度も念押ししてきていたから、なんとなく憶えてしまった。

 ――わかった。私は全部守るぞ、リノキス。

「じゃあそれでいいわ。どうせ私の監視も兼ねているんでしょう? 可能な限り傍にいなさい」

 私には「脱走して闇闘技場へ」という前科があるので、リノキスの心配と警戒が尽きることはないだろう。
 まあ兄の生活に障らない程度に、好きなだけ見張っていればいい。

 ――それに、ちょっと思いついたことがある。

「リネットはアレよね? 兄の侍女で、つまりリストン家の味方ということでいいのよね?」

「もちろんです」

「もし仮に、仮によ? 兄に十億クラム貢いでくれって言われたらどうする?」

「可能か不可能かは別として、可能な限り貢ぎます」

 ――合格。

 躊躇なく答える辺り、リネットからもリノキス張りの不信感を感じる。
 その上疑問も質問も口にしない辺りと、視線が動かず表情も変わらず感情さえ揺れない微塵の動揺も見えない態度に、兄に対する言い知れない狂気さえ感じる。

 ならば、彼女は大丈夫だろう。
 この先の諸々で、私が英霊であることがバレるかもしれないが、彼女は大丈夫だ。

 もうこの際、私に拘わる者は皆、私に十億クラム貢がせる者として鍛えようではないか。手伝いは何人いてもいいし、拒む理由もない。

 そうと決まれば、真っ先に目を付けて然るべきガンドルフも巻き込んでしまおう。
 そうだ、この部屋ではちょっと狭いので、修行場所として天破流のあの道場も貸してもらうとするか。




「――もちろんですとも! 隅から隅まで師がご自由に使っていただきたい!」

 次の日の放課後。

 リネット同伴で天破流道場を訪ね、ガンドルフに「修行するからここを貸してくれ」と場所の提供を求めると、二つ返事どころか自ら差し出すような勢いで承諾した。

 いや、ほかの門下生もいるんだし、夜間だけでいいから。今道場にいる子を追い出そうとしない。いいから。その子たちの面倒は見なさい。

「そのついでで、本当についででいいので、なんとなく気が向いたら俺の修行も……どうか……!」

「いいとも。実際の実戦を交えて必ず強くなれる実戦形式で手取り足取り実に簡単に強くなれる方法で教えようではないか」

「おお、おお……師よ……!」

 ――この身体だ、ガンドルフは荷物持ちにちょうどいい。浮島に魔獣狩りに行った際は、彼には仕留めた魔獣を運んでもらおう。

 荷物持ちを主体に、ついでに強くなってくれれば、強くなった分だけ丸儲けである。もちろん彼にとっても悪い話じゃないだろう。荷物持ちの報酬で強くなれると思えば。

 ……実際、下地はしっかりできているんだよな。

「あの、何か……?」

 うーん……この腕の太さ、太腿のガチガチさ……一切たるみのない筋肉の塊だ。速度はまったく出そうにないが、これはこれで悪くないな。

 リノキスのような速度重視のタイプには弱いだろうが、それも鍛え方次第で……うむ、ガンドルフは化けそうだ。

 来る二年後の大会に向けて、強い者はいくらいたっていいのだ。むしろいた方が盛り上がる。

 リノキスに勝ってほしいと思うのは変わらないが、対抗馬がいないのは見る方もつまらないし、リノキスも鍛える張り合いがないだろう。

「鍛え甲斐がありそうだなと思って」

「は、はい! どんな苦行も荒行も耐え抜く所存です!」

 うん、がんばってほしい。




 こうして兄の侍女リネットと、本当に天破流を捨て去りそうなガンドルフという頼もしい人材を得た。

 シルヴァー家三女リリミと、二学期になってから相変わらず立ち合い稽古を求めてくる中学部のサノウィル・バドル辺りも、こっちに引き込めそうな感じであるが、ひとまず様子見だ。

 稼ぎ頭が増えれば、十億クラムもきっと夢ではないはず。

 リノキスは今、リノキスにしかできないことをしている。
 だから私も、私にしかできないことをしようと思う。

 ――そう、リノキスに続く強者を、この手で育てるのだ。

 ――私の代わりに稼がせるために。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...