狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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104.紙芝居の件はこうなった

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「――待っていましたよ」

 あ、ヒルデトーラだ。

 今日もようやく授業が終わった。
 レリアレッドの話を聞きながら校舎を出たところで、同年代くらいの男女に囲まれるという人気っぷりを見せつける第三王女が声を掛けてきた。

「ああいうのないわね、私たち」

 私もレリアレッドも、地元以外で人気で囲まれたことがない。
 学院内では、入学当初からあまり変わらず遠巻きに見られている、というのが現状だ。

 地元では人気あるんだけどな……通りすがりの老婆がよく飴や果物をくれるんだが。

「うーん……お姫様の肩書きかな? 私たちはしょせん貴人の子だし」

 レリアレッドの言葉は一理ある、気はするが…………

「人柄じゃないわよね?」

 人柄の差が人気の差というわけではないよな?

「あたりまえよ」

 レリアレッドもその辺はこだわりたいのか、頷く動作は力強い。

「ニアは見た目はともかく中身はアレだけど、私は見た目も中身もすごく良いから」

「色々聞き捨てならないけど、私がアレって何?」

 そんなことを話している間に、ヒルデトーラがファンの子たちを解散させてこちらへやってきた。

「企画の相談をしたいのですが、よろしくて?」

 ああ、恒例の企画会議をするために待っていたのか。

 ――つまり、多少は私と同じ気持ちを抱いたのだろう。

「あ、ヒルデ様。私は今回は遠慮してもいいですか? 今シルヴァー領うちはとても忙しいので」

 いつもより高いゴキゲンな声でにこやかに拒否したレリアレッドは、優雅にヒルデトーラに一礼して、スキップ交じりにかろやかな足取りでさっさと行ってしまった。

 ――うむ。

「お手本のような調子の乗りっぷりね」

「……わたくしは正直、反感より先に素直に羨ましいですが」

 そうか……そうかもな。

 私は観るのを禁止されている番組が多いので詳しくは知らないが。
 ヒルデトーラの出る番組はだいたいの傾向が決まっていると、王都撮影班代表のミルコ・タイルが言っていた。

 やはり王族という立場上、あまりふざけた内容の番組には出られないらしい。
 新しい企画、新しい番組を考えても、かなりの確率で王様周りの権力者が、政治的判断で却下するのだとか。

 ヒルデトーラ本人ももどかしく思っているのだろう。
 だから「羨ましい」だ。

「良い悪いは別にして、反響はすごいみたい」

「ですよね。学院でも噂で持ち切りです……あまり魔法映像マジックビジョン関係には口を出さない国王でさえ、あれには触れたくらいですから……」

「え? あの王様が? なんて言ったの?」

「『これは王都の放送局でやるべきではないのか』と。……『なぜおまえらはこれを考えつかなかったのだ』とも。嫌味を言われましたよ……」

 はあ、とヒルデトーラが溜息を吐く。

「――美形の登場人物と、臨場感のある音楽と、異様に良すぎる声で、アルトワール王国建国物語を紙芝居でやりましたからね。あんなの反則ですよ……」

 そう――まだ夏休みが明けてすぐだというのに、シルヴァー領……ヴィクソン・シルヴァーは、紙芝居の企画を形にして見せた。

 その反響はすごかった。

 ヒルデトーラの言った通り、紙芝居の内容はアルトワール王国建国記だ。
 あえて名前は「アルトワール王国建国物語」と称し、ある程度の脚色や割愛をして、ドラマチックで恋愛要素もあるストーリー仕立てに仕上げた。

 アルトワール王国の国民なら、誰もが大筋くらいは知っている建国記である。

 それを大胆かつダイナミックに、あるいは豪華に、あるいはしっとりと繊細に、もはや挿絵のある小説のように組み立て、放送された。

 おまけに次女リクルビタァのやたら高い画力が、ぐいぐい物語に引き込んでいく。

 絵に描いた美男と、絵に描いた美女が漂わせるロマンスの香りは、リアルな割には肉体的な生々しさがない分だけ、生々しさのない美しい関係性を垣間見せた。
 あれは現実の人には出せない世界観のように思えた。

 ――あの紙芝居には「やられた」と、私も思った。

 初手で何を、なんの物語を紙芝居でやるかで、視聴者への認知度や浸透性は大きく変わっていただろう。

 その大事な初手を、ヴィクソン・シルヴァーはしくじらなかった。
 というか、これ以上ないほどベストな選択をしたと言える。

 だからこその大きな反響。
 だからこそのヒルデトーラの落ち込み。
 だからこそのレリアレッドの上機嫌である。

 やれやれ……逃がした魚はとてつもなく大きかったか。

 まあいい。
 後追いはさせてもらおう。今頃はベンデリオだってくどい顔をしながら大急ぎで企画を固めているはずだ。

 いつまでもシルヴァー領だけに独占させてなるものか。

「ねえニア。わたくしもあの紙芝居のように、新境地を開拓したいのです」

 それは私も同感だ。

 私とレリアレッドとヒルデトーラは、魔法映像マジックビジョンを普及させる目的を持つ仲間である。
 だがそれと同時に、やはりライバルでもあるのだ。

 あの紙芝居は、間違いなくシルヴァー領が頭一つ抜きん出る一歩となった。
 私たちが地道に積み重ねてきた努力を、またいで通るような、大きな一歩となった。
 
 ――負けてられない。

 私はいつでも勝てる相手に負けてもなんとも思わないが、勝てないかもしれない相手に負けるのは嫌なのだ。
 元来、武闘家なんて負けず嫌いが多い、そんな生き物である。

 このままではいられないと思うのは、ヒルデトーラだけではない。
 私もだ。

「ヒルデ。外へ行きましょう」

「え?」

「私は『絵を見た』ことで、紙芝居を思いついたの。いろんな物を見に行きましょう。いろんな経験をするのもいいと思うわ。
 企画を考えるのは散々やったでしょ? 今度は考えないで、探しに行くのよ」

「そ、……そうですね! 行きましょう!」

「よし、私についてこい! ――いや先に行ってて! 荷物を置いて侍女を連れて行くから!」

「はい! 正門で待ってます!」

 負け犬のような顔をしていた彼女は、見事に立ち直る。
 瞳に強い力を宿したヒルデトーラは、小走りに行ってしまった。

 ――私も気合いが入ってきた。

 正直レリアレッドの紙芝居の自慢話とか、もう聞き飽きていたのだ。
 次は私が彼奴に自慢話をお見舞いしてやる番だ。

 よし、今日は企画を探すぞ!




 と、まあ。
 そう都合よく見つかるなら、苦労はしないという話である。




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