狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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169.相談しよう

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 よくよく考えてみると、準放送局の現場監督ワグナスの着眼点は、きっと悪くないのだろう。

 アルトワールではまだまだ知名度が低い単船競技ウィングロードだが、彼はいずれこの国でも流行ることを見越して、シャールを準放送局に入れたのだ。

 シャール自身も、ウィングロードの広報活動をする目的で所属したそうだ。魔法映像マジックビジョンで取り上げられれば、知名度はあっという間に上がると見越して。
 ――まあ、今は準放送局自体が軌道に乗っているとは言い難い上に、王国武闘大会で国中が慌ただしいので、どうとも動けないのが現状らしいが。

 ウィングロード。
 飛行皇国ヴァンドルージュで生まれ、昨今じりじりと人気を上げている、単船を使った競技の総称。

 内容を詳しく聞くと、大きく分けて三つの種類があるそうだ。

 一番人気があるのがレース。
 複数名が参加して決められたコースを走り、単船同士で速度を競うものだ。これもロングだのショートだのと言った種目があるそうだが、一括りにレースと呼んでもいいらしい。
 ウィングロードと言えばこれ、というくらい人気があり、もはや代名詞のような競技なのだとか。

 二番目は、トリック。
 磨きに磨いた単船技術を披露する、いわゆる曲芸技のようなもの。単船で宙返りや側転をするといわれても、いまいちよくわからないが。

 そして三番目は、フォーメーション。
 チームを組んだ数台の単船で魅せる、一糸乱れぬ編隊飛行だ。要するに群れで飛ぶ渡り鳥のようなものだろう。

 これら三つ……もしかしたら将来的には増えるかもしれないが、とにかくこの三つの総称が「翼の通過点ウィングロード」というそうだ。




「ふうん。単船で競争ねぇ」

 シャールの説明を聞き終え、私は頷く。

「さすがは飛行皇国って感じね」

 ヴァンドルージュでは禁止されていなかったが、ここアルトワールでは、街中で単船に乗るのは禁止されている。

 まあ、特別な許可があれば、街中でも単船に乗っていいそうだが。港などでは大きな荷を運ぶための単船はよく見るし。
 が、それはあくまでも荷運びなどに使われているだけ。まず速度ではなく力……積載量という馬力を求められる。いわゆる労働力としての単船だ。

 しかし、ヴァンドルージュで生まれたというウィングロードは、速度を争うための単船を使用するという。

「面白いぜ。とんでもない速さで単船が目の前を走り抜けるんだ」

 へえ。

 単船がとんでもない速さで目の前を爆走するのを見たことがないから、どうにも想像ができないが。
 しかし、楽しげに語るシャールからして、彼を魅了するに足るものであることは、間違いないのだろう。

「俺は中学部を出たらヴァンドルージュに行く。そしてウィングロードの選手になる」

 ほう。そんな野望があるのか。

「でもってアルトワールにもウィングロードを広めて、いずれは他の国にも広めて、将来的には世界共通競技にするつもりだ。どの国でも人気のある競技にな」

 ……ほほう。本当に野望じみた大きな目標だな。

 …………

 世界共通競技、か。

 全世界で人気のウィングロードを放送するチャンネルはリストン領だけ――おいおい、悪くないじゃないか。まっくもって悪くないぞ。

「……って俺はなんでガキ相手にこんな話してんだ」

「私が聞いたからでしょ」

 シャールも話したかったのかもしれないが、それ以上に私が聞きたかったのだ。もうこの話は彼の主導ではないのだから。

「それで? 最初の話に戻すけど、何が必要だって?」

 とりあえず、この話は一時預かりだ。

 うまくいけば大事業になりそうな話を聞かせてくれた礼に、負担にならない程度にシャールの応援はしよう。芽が出そうなら全力でサポートしてもいいだろう。資金面も無理がない範囲で出資するのも悪くない。

 ――最初の話である「ウィングロード用の単船の部品の名称」をメモに起こすと、シャールは部屋から出ていった。

「お嬢様、あの男は?」

「聞いての通りよ。これからすぐにセドーニ商会に行くわ」

 早速シャールが取り寄せてほしいと言った部品を、仕入れるよう注文しに行こう。

 そして、果たしてアルトワールでウィングロードは流行るかどうか、ぜひ商人の意見を聞きたい。
 私はもうやる気しかないが、商人の目から見たらどう思うか、非常に気になる。

 うまく行くようなら、セドーニ商会にとっても悪い話ではないはずだ。仕入れの幅が増えるのだから。
 
「いえ、お嬢様、さっきの男は誰で、お嬢様の何なんでしょうか?」

「ただの知り合いよ。それより早く準備を」

「ただの知り合いにしては仲が良さそうでしたね?」

 …………

 隠れて会ったのがリノキスにバレると面倒臭いとは思ったが、目の前で会っても面倒臭いことは変わりなかったようだ。

 道中話すから準備しろ、と言い放ち、私は先に部屋を出た。




「申し訳ありません。現在、主人は外出しておりまして」

 いや。

「急に来たこちらが悪いわ。気にしないでください」

 リノキスの追求から逃げるようにしてセドーニ商会本店に向かうと、会頭であるマルジュ・セドーニは留守だと告げられた。

 代わりに応じてくれたのは、来るたびに用件を聞きに来たり応接室に案内してくれた、初老の執事のような人である。
 名前は知らないが、年齢からして、それなりの役職の人なのではなかろうか。

「私はダロンと申します。もしよろしければ私めがお話を聞きましょう。後ほど私から主人にお伝えする、という形ではいかがでしょうか?」

 まあ、それでもいいか。

 学院の門限があるので、いつ帰ってくるかわからないマルジュを待つわけにはいかない。
 それにまだ金が動く話ではない。意見を聞きたいだけなので、わざわざ時間を作ってもらうほどの用事でもない。

 了承すると、ダロンはいつもの応接室に通してくれた。

「忙しいのに相談なんかしてごめんなさい。手短に済ませるから」

 例の王国武闘大会の影響だろう。店内はそれなりに客が入り混雑していて、店員が慌ただしく動いていた。
 街中の活気もすごく、早くも外国から来たであろう旅行者らしき姿も多く見られた。「大丈夫か? 冬の武闘大会当日までこの活気が続いて大丈夫か?」と、心配になったくらいである。

「ははは。セドーニ商会はお得意様のためなら、いくらでも時間を割きますよ」

 と、手ずから紅茶を淹れてくれたダロンは、私の向かいに座る。

 お得意様か。
 十億の件が終わったので、今は正確には客でさえないからな。これからお互いそうなるといいのだが。

「それで、どのようなお話でしょう? まだ相談だという話でしたが」

 うん。

「学院の門限があるから手短に言うわ。この国でウィングロードを流行らせたいのだけど、どう――」

「――ニアお嬢様」

「どう思う?」と言いかけた私の言葉に被せるように、ダロンは穏やかに微笑みながら、穏やかに言った。

「僭越ながら、薄才の私めには荷が勝ちすぎる話だったようです。そのお話、主人に直接お願い致します。お嬢様の都合の良い時に場を設けますので、どうか」

 ……ん?

「出直せって意味?」

「はい。此度の相談も・・・・・・、話が大きすぎるのです。主人でなくば判断できかねますので」

 ……此度の相談も、ね。

「それがあなたの意見なのね?」

 ダロンは答えない。なるほど、それが答えということか。

「わかりました。出直しましょう」

「ありがとうございます。そして申し訳ございません」




 此度の相談も大きい。
 十億の話も、このウィングロードの話も、という意味だとすれば。

 少なくとも、ダロンの意見としては、「ウィングロードを流行らせることは可能、大きな仕事になるから会頭と直接話せ」といったところか。

 ふむ――俄然やる気が湧いてくるじゃないか。



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