狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
226 / 405

225.クランオールが来た

しおりを挟む




「あ、あのう……本日はお日柄もよく、絶好の謝罪日和と言いますか……」

「――挨拶はいいから着替えてきて。シィル、連れて行って」

 よし。とりあえず一人、である。




 昨日の話をしに行くと王城いえに帰ったシィルレーンは、姉クランオールを連れてきた。
 即日即決の対応は、王族とは思えないほど迅速だ。

 クランオール・シルク・マーベリア。
 一歳違いとは思えない体格こそあるが、顔立ちはシィルレーンとそっくりである。雰囲気だけならシィルレーンより柔らかい気もする。

 そんな彼女は、姉妹揃って動きやすい格好となって庭に立ち、私の前に並んでいる。

「話、聞いた?」

「あ、はい。あの、孤児をどうにかしたいとかなんとか……」

 ふむ。
 どうもまだ全容を理解しているわけではなさそうだが、まあそれは追々でいいだろう。

 ちなみに兄リビセィルと副隊長イルグは、東の未開拓地の調査に行っているそうだ。
 予定ではまだ帰らないそうなので、とりあえずクランオールだけが来たという形である。

「あなたも機兵より強くなりたいのよね?」

「それは、もちろん」

 なんだか私に怯えていたような彼女だが――そう返事をした時だけは、揺らがない意志を感じさせた。

「私たちは虫を殲滅する。そのためにはどうしても力がいる。だから機兵が必要だった。でも、力が得られるなら機兵じゃなくても構わない――少なくとも私は」

 強くなりたい。
 その一念においては、気持ちはシィルレーンよりも強いかもしれない。

「いいわ。クラン、これからあなたを鍛えるから」

「クラ……あ、はい。――私も呼び捨て?」

「――姉上、細かいことは気にしない方がいいです。どうせ思い知るので」

「――思い知る?」

「――力の差ですよ」

 小声で話すならもう少し声を落とせ。聞こえているぞ。まあ、聞こえていないふりをするだけの分別は私にもあるが。




「あなたはメイスを使うのね。じゃあ振ってみて」

 おしゃべりをするために呼んだわけではないので、さっさと本題に入ることにした。
 挨拶もそこそこに、まずはクランオールの腕を見てみることにする。

 メイスか。
 重さを活かした打撃武器だな。単純に破壊力が出る武器だ。

「はっ!」

 いざ訓練となれば気合も入ったのか、私への遠慮はなく。

 クランオールは、振り回す腕の遠心力と武器の重量を利用し、その武器が持つ特色を生かした威力の高い一撃を輪切りの丸太に振り下ろした。

 がすん、となかなかいい音がした。

 ――なるほど。悪くはないな。

 それこそ強くなりたいという気持ちが反映された一撃だと思う。
 力任せに振り回しても強い武器だが、そこを工夫して、力任せより威力の出る使い方を研究したのだろう。

 きっと機兵に乗った時も、これに類する武器を使っているのだろう。

「あなたはどこをどう破壊したいの?」

「えっ?」

「――貸して」

 クランオール持参の訓練用のこん棒を受け取る。おお、重いな。重量を上げる鉄輪は伊達ではないか。

「いい? 基本的に、打撃には外部破壊と内部破壊の二種類があるの。私にとっては拳打や単純な蹴り技なんかがそれに当たるんだけど」

 軽く振り回してみる。持ち手を基軸にくるくる回してみる。

 ――うん、いい重さだ。もう少し重くてもいいが、数を相手にするなら小回りが利く方がいいんだろうな。

「か、片手で持てるの? 私でもそんなには……」

「あなたもすぐにこうなるわよ。それより見てなさい」

 こん棒を水平に寝かせ、構える。

 ただならぬ気配を感じたのか、クランオールとシィルレーン、そして離れたところで訓練しているミトもこちらを見る。リノキスはおかし作りのため不在だ、修行は夜である。

「さっきあなたがやったのは、外部破壊しつつ衝撃が内部に至るもの。でも打撃の本質は、いかに効率よく、必要な分だけ、狙った場所に打撃と衝撃を破壊力に変換して加えるか。

 ――目指すのは、基本的には内部破壊よ。虫を相手にするならね」

  パァン!

 横振りに走るこん棒が丸太に触れると、打撃面の後方・・・・・・が弾け飛んだ。
 打撃面の傷は小さく、衝突音もそこまでなかった。

「硬い外殻に阻まれて破壊力が殺されるから。打撃ではなく衝撃で内部を破壊するの。ああ、ついでに見せておくけど」

 私はもう一度こん棒を構え、今度は外部破壊の一撃を見せた。

  パァン!

 弾けるような音こそ同じだが、丸太の上部三分の二が木片と化した。まあ丸太の強度では全破壊になるよな。

「これが外部破壊。打撃面に破壊力を加えるもの。
 強くなりたいなら打撃を知りなさい。あなたはまだ入り口に立っているだけよ」

 クランオールは驚いた表情を隠そうともせず、木片と散った土台しか残っていない丸太と私を交互に見る。

 そんな彼女に、私はニヤリと笑ってみせた。

「――どう? 外国には私みたいな者が他にもいるかもしれない。マーベリアは今のままで本当に大丈夫なのかしら?」

 さあ、この不安を王城いえに持ち帰るのだ。機兵ばかり見てないで外を見ろ。開国するのだ。




 そんなこんなで、クランオールまでうちに入り浸るようになった。

 暇さえあれば、教えたばかりの「氣」の修行と、素振りと、修行が大好きなシィルレーンに勝るとも劣らず没頭している。

 強くなりたい者というのは、わかりやすくていいものだ。
 最初こそ……というか出会いこそ引っかかるものでしかなかったが、目指すべきものが同じなら、許し合える時も来たり来なかったりするものである。

「――ニアちゃん! 試作機の設計図ができたよ!」

「――ニアお嬢様! 見て見て! 僕も考えたんです!」

 この小癪な女とは大違いだ。
 いざ馬なしで走る馬車の開発に難色を示すようになれば、双子の兄バルジャを味方につけてきて。実に小癪。狡猾である。

「どれ」

 アカシのニヤニヤ笑いはどうでもいいが、期待に満ちた子供の視線を向けられて、見ないでいられるわけがない。……あ、しかもこれ、結構いいような……?

「二輪なの? 馬車じゃなくて?」

「正確には三輪なんだぁ。前の一輪はハンドルと直結してて、こう左右に曲げると連動して向きが変わるの。
 後ろは二輪で、荷台になってて、荷物をたくさん積めるようになってるよぉ」

 ほう。

「前回の、緩やかにしか曲がれないところを改善したのね?」

「そう! そうなんだよ! 今度はうまく行くよ!」

 ……試作機どうこうより、すでにアカシが信用できないんだよなぁ……あ、そうか。

「外でやりましょうよ。街の外で」

 石畳があって平らで手軽だったから家の前でやっていたが、ここらは人通りこそ少ないが、全然いないわけでもない。誤って人をはねたりしかねない危うさがある。

 こうなったら、安全に実験できる場所があれば、少なくとも向かいの老夫人をこれ以上怒らせることもあるまい。

「外は遠いよぉ」

「いい加減ぶっ飛ばすわよ」

「でも場所は移そうか。学校とかよくない? 広いし、工具も工房もたくさんあるし。事故ってもシィル様の名前があればなんとかなるだろうし」

 私の威嚇を華麗にスルーし、アカシは時点案を出す。……チッ、まあまあ悪くない案じゃないか。小癪な小娘め。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...