狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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226.調子に乗り過ぎたのである

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「――ニア! ニア!」

 おお、いたいた。
 この前会った、イースを含む掃討科の四人だ。

 先日掃討科の教室にお邪魔した時、放課後はいつも学校の敷地の片隅で訓練をしていると聞いていたので、顔を出してみた。

 機兵科が訓練に使う広場の脇の、ほんの一握りというわずかなスペースである。
 まあ、機兵は大きいので広い場所が必要なのはわかるし、人が訓練するなら内容によっては場所を選ばないので、この辺はいいだろう。

 実はこの後、アカシの試作機の試乗実験がある。
 街中ではさすがに何かあった時まずい、ということで運転させてもらえなかったが、ここならいいだろうと私も運転する予定だったりする。

 まあ、ニア・リストンのこの身体は魔力関係が壊れているので、まともに動かせるとは思えないが。

「これから用事があるんだけど、ちょっと時間があってね。せっかくだから訓練している姿を見せてもらおうと思って」

「よし! 見ろ! 見ろ!」

 うん、言われなくてもちゃんと見るから。落ち着けイース。
 
 久しぶりに会った飼い犬のようにはしゃぐイースと、まあそれなりに歓迎している感のあるミケ・エンカードと、ダイオン・イベース。前に会った時と同じくホロウ・ギブンスは何も言わない。

 四人とも動きやすい格好となり、訓練用の武具を持ってきている。
 これから始めるところだったようだ。

 いつもはどうしているのか、と問うと、ミケが答えてくれた。

「ひたすら一対一でやりあってるよ。素振りだの走り込みだの、一人でできることならそれぞれでやるから。四人が集まるのはこの時間だけだし、今しかできないことをやるようにしてるよ」

 ほう。一対一を。繰り返すと。
 確かに基礎体力を作ったり、型を身体に馴染ませたりは、一人でできる。そもそもそれぞれの武具が違うようなので、一列そろって画一的な訓練はするのは合理的ではない。

 いいじゃないか。
 結局、実戦に勝る訓練もないからな。身体も、反射神経も、そして頭も使う真剣勝負の形は、非情に有効だと私も思う。

 こういうのは力量差があると得るものが少ないんだよな。
 力が均衡していればいるほど、互いにとっていい経験になるのだ。

 もう始めるというので、少しだけ掃討科の訓練を見学してみることにした。




 ――うん。

「いいわね」

 機兵科と勝負する話がどうなったかはわからないままだそうだが、少なくとも今は、彼らはそれに向けて訓練をしている。

 その証拠に、結構本気でやり合っている。
 受けそこなったり避けそこなったりすれば、怪我をするような速度で木剣だのなんだのを振り回していた。

「――」

 実際細かいのは何回も身体に当たっているが――ホロウが回復魔法を使えるようで、ある程度はその場で治せるようだ。

「ニア! イース、どうだった!?」

 うん。

「いいと思うわ」

 イースの武器は、シンプルな木剣。つまり片手剣である。
 動きが早く、また意外と器用なイースはうまく剣を扱えていると思う。
 この年齢でここまで強いのは稀だろう。アルトワールのサノウィルといい勝負をしそうだ。

 ミケの基本に忠実な片手剣と盾も。
 ダイオンの大盾と槍も。
 ホロウの細剣も。

 立ち回りは非常に良いと思う。動けている方だし、年齢からすれば強い方だろう。

 ――ただ、常識内に納まっているが。

 機兵と勝負か……結果は厳しそうだな。このままいくなら、対機兵を突き詰めた作戦が必要不可欠だろう。
 何のプランもなくぶつかれば必ず負けると思う。

「どう? 今度は私とやってみる?」

 武器の扱いはあまり得意じゃないが、このくらいの相手なら、まあ充分だろう。

 少しだけ、上の世界を見せてやろう。
 こういうきっかけを与えることで、急激に伸びる者もいるのだ。

 ――特にイースは、きっかけがあれば、すぐにでも化けそうな気がするからな。

「やる! やる! ニア、イースより強い! でもイース負けない!」

 はっはっはっ。そうそう、やる前から負けることなど考えるな。

 誰からでも構わなかったが、自然とイースからという流れになったので、彼女と同じ木剣を持つことにする。
 ミケから借りて、少し振り回して感触を確かめ、イースと向き直る。

 緩んでいた空気がピンと張り詰め――たその時。

 ガシャンガシャンと金属音を鳴らして、機兵たちがこちらへやってきた。




 さすがに大柄な人間より縦も横も大きい機兵だけに、近づかれると威圧感がすごい。

「おい、お掃除科! 機兵科の訓練の邪魔だ、失せろ!」

 やってきたのは二機で、やってくるなり失せろと来たか。

「なんだ、噂の留学生も一緒か」

 ん? 私か? ……イースも留学生か?

「どんなインチキしたのか知らないが、まともに機兵と戦えば無事じゃ済まないんだ。あまり調子に乗るなよ」

 あ、私の方だな。ふうん。

「ロック! サンエ! 訓練の邪魔だ、どっか行けよ!」

 お、優しいお兄さんらしからぬミケの発言が。

「そんな邪険にしなくてもぉ、いいじゃなぁい。ねえホロウお姉さまぁ?」

 左の機兵は男子のようだが、右の機兵は女子が乗っているようだ。……で、ホロウの関係者か。

「黙れ! ホロウに話しかけるな!」

 ミケが吠え、ダイオンがその身体の後ろにホロウを隠す。

「えぇ? なんでぇ? わたしたち親戚同士なのよぉ?」

 うん、アカシとは似ているが若干異なるねちっこい口調である。厭味ったらしいな。

「――ねえ」

 とりあえず、だ。
 話に入れる間があったので、割り込んでみる。

「もう用事は済んだ? 悪いけど、私はあまり時間がなくてね。この後の予定もあるの。だから邪魔しないでもらえる?」

 ねちっこい女子の方に言ったのだが、反応したのは男子の方である。

「――おまえシィル様に何したんだよ」

 ん? シィル?

「みんな言ってるぞ。おまえのせいでシィル様が普通科に移ったって。シィル様を返せよ」

 ……うん。前に機兵科が教室に乗り込んできたことといい、思った以上にシィルレーンが慕われていたのがよくわかる。

 機兵科一の機兵乗りでもあったし、それ以外でもいろんな人の憧れでもあったのだろう。正真正銘のお姫様でもあるわけだし。

「シィルが欲しいの? なら私を倒してみなさいよ」

 言ってから、ふと思う。

 ――あれ? 結婚の許可を取りに来た娘の恋人に対する父親のような言い分だ、と。もしくは全てを力で勝ち取る系の剣闘士だ。

「ダメ!」

 そして反応するのは、冷めた目でこの状況を黙って見ていたイースである。

「ニア、イースが倒す! こんな弱い奴らとやらせない! でもイースはシィルいらない!」

 …………

 なんだかややこしくなってきた気がする。

「イース」

「なんだ!」

「今はいいじゃない。今は放っておいて。ややこしいから」

「やだ! ニアはイースが倒す! 戦士は戦士と戦う!」

 ……ああもう面倒臭い。

「……え? ん? なんだ? なんだ?」

 私はイースの背後に回り、彼女が持っている木剣の上から、私の手を重ねて握る。――要するに背後から張り付いて両手を掴んでいる状態だ。

「はい、注目。今からやるのは私じゃなくてイースだから。いいわね? 見てるわね? 誰がどう見てもイースがやっているわね?」

「い、いや、君が無理やり」

 ミケが何か言い出す前に、私はぐいっとイースの身体に「氣」を流し込み、彼女自身の「氣」を無理やり操作して身体ごと動かす。

「――」

 イースの言葉のない戸惑いと興奮が伝わるが、構わない。

「これはイースがやっていることだから! いいわね!? 全員いいわね!?」

 そう言いながら、イースの両手を上げて木剣を上段に構え――彼女の「氣」を総動員して振り下ろす。

  ドン!

「ぐあっ」

 まるで向かいの屋敷の塀にぶつかった時のような音を立て、切れ味のない飛ぶ斬撃・・・・が、男子の乗る機兵の正面装甲にぶちあたった。

 装甲がへこんだ程度の威力なので、乗っている男子にダメージはないだろう。
 が、それでも衝撃そのものは大きかったようで、機兵は強く押されたかのように後方へ倒れた。

「危ないじゃない! イースが素振りしている時に来るから悪いのよ! 今度はそっちにも飛ぶかも! 早く逃げた方がいいんじゃない!?」

「えっ、えっ? えっ」

 もう遅い。
 何が起こっているのかわからない女子の機兵にも、飛ぶ斬撃・・・・を見舞っておく。

「これは不用意に訓練中に近づいたあなたたちが悪いんだから仕方ないわよね! ねえ! 仕方ないって言いなさいよ! 言わないともう少し素振り・・・させるわよ!?」

 段々楽しくなってきたので、がんがん斬撃を飛ばしてみた。

 結果、機兵二機は装甲全体に沢山の傷を付けられて、私が聞きたかった言葉を吐いて帰っていった。
 具体的には「自分たちが邪魔しましたすみません」的なことを言って。

 よし。

「これでしばらくはこないでしょ。これからはゆっくり訓練を……」

「「…………」」

 …………

 どうやら調子に乗り過ぎたようだ。掃討科三人の怯えた目が心に刺さる。

「…………」

 あと、イースは強制的な「氣」の使い過ぎで、意識を失っていた。
 道理で全て思い通りに動いてくれると思えば、そりゃ抵抗もしないはずである。

 …………

 さーて!
 気分を切り替えて、アカシの試作機の様子を見に行こっと!



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