狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
276 / 405

275.空賊列島潜入作戦 2

しおりを挟む




 陽の暮れる夕方までさらし者にされた私含む奴隷たちは、最終的な値踏みをされた。

「――……」

 荒くれ風の小間使いを侍らせ、身形のいい男……だがまとっている剣呑な雰囲気から堅気じゃない細身の男が、端から一人ずつ奴隷を見ていく。

 そして、一人一人「中級」だの「下級」だのと言っては、連れている小間使いが檻に木札を掛けていく。
 恐らく奴隷にランクを付けているのだろう。

「……ふうむ……」

 細身の男が、私の檻の前にやってきた。

 マフィアの幹部って感じだな。
 いい歳の取り方をしているようで、渋い中年男性だ。ここで生活してきたと思うと反吐が出るな。

 私は座して目を瞑り、その無遠慮な視線を受け続ける。

「目の色を見せなさい」

 今はまだ反抗の機ではない――私は言葉に従ってまぶたを開いた。

「黒髪に青の瞳……珍しい組み合わせですね。東と西のハーフですか?」

「……」

 いや、生粋の西方出身だ。髪は染めている。教えてやる義理はないが。

「――答えろガキ! ごぶっ」

 小間使いの男がガンと檻を蹴ると、振り返りざまに細身の男がその男を殴った。いい拳だ。反吐が出るな。

「いつも言っているよな? 商品は丁重に扱え」

 冷たい声で言う。

「おまえの代わりはいくらでもいるが、商品の代わりはない。次はないと思え」

「へ、へい……すんません……」

 …………

 奴隷商なのかなんなのか知らないが、反吐が出るほど奴隷の扱いに慣れているな。この男もいずれ始末しよう。

「ふむ……汚れてはいるが、肌の白さから育ちは良さそうだ。顔立ちも悪くないし手も荒れていない。もしや下級貴族の娘か……?」

 さりげない暴力を経て、非常に暴力的なことを考えている私への、反吐が出る審査は続く。意外と鋭いな。

 細身の男は小間使いから書類を取り上げて見て――顔をしかめた。

「即金が必要、か……これだから価値のわからない弱小空賊は。この子なら綺麗にして上級でも売れそうだが、仕方ありませんね。――下級だ」

 こうして私のランクが決定した。




 値踏みが終わると、今日入荷した奴隷たちが運ばれていく。

 向かう道が違うのは、恐らく、付けられたランクで売る場所が違うからだろう。
 ランクが一つ上がるたびに、競売の金額レートに大きく差があるに違いない。

「残念だったなぁ、嬢ちゃん。せめて中級ならまだいい並の暮らしができただろうになぁ」

 私の檻を乗せた単船を操縦する、奴隷の首輪を着けたおっさんがそんな声を掛けてきた。
 彼がどんな立場なのかは知らないが、私のこれからを思って同情しているのだろう。見た目は十歳前後の子供だから。

 何せ下級ランクだもんな。
 ろくに金を持っていない奴が破格の捨て値で買って、ろくな扱いをしないで使い潰すために仕入れるんだろうな、というのが嫌でも想像できる。

 私はどうとでもなるが、私以外の子供なら、地獄でしかないだろう。

「これからどこへ行くの?」

 答えなんて期待せず、とりあえず聞いてみた。

「下級奴隷市場だよ。これから嬢ちゃんは競売に掛けられるんだ。……どんなにつらくても、逃げることだけは考えない方がいいよ。成功しても失敗してもその後が悲惨だから」

 そうか。
 私にその気はないから安心だな。




 檻の中から見ている限りでは、まあまあ普通の街のように感じられた。
 唯一明確に違う点を挙げるなら、そこかしこを行く連中が全員堅気に見えないくらいである。

 それとなく操縦しているおっさんに「意外と普通の街っぽい」と漏らしたら、彼はこう答えた。

「四空王が支配する島は、それなりに秩序と規則があるんだよ。ほら、せっかく帰ってきても食い物も飲み物も接待する人もいないんじゃ、来てもつまらないだろ。この島に住んでる連中は四空王の支配下で生活しているんだ」

 ――なるほど。

 言い換えるなら、彼らを接待するためにこの島は普通の街のようになっていると。
 簡単かつ単純な領土制という感じだな。

 本当に反吐が出る理屈である。

 夕陽に染まる街並みをゆっくり進むと、広場のような場所に入った。
 そこにはすでに商人らしき男たちが何十人も集まっていて――なるほど、これからここで競売をするのだろう。

 下級奴隷市場か。
 よもや屋根もないような、市場でもないただの広場で売り買いされるとはな。

 また一つ嫌悪する理由が増えたな。

 どれ――できるだけ商人どもの顔を覚えておこうか。どいつもこいつも欲に塗れた顔をしおって。人をなんだと思っている。おまえらも絶対許さんからな。




 ――かろうじて、なんとかがんばって二、三人の顔をしっかり覚えたところで、競売が始まった。

 もう色々面倒臭いから全員この場で手早く……という暴力への渇望を必死で抑えていると、結局私は三十九万飛んで三千五百一クラムでハンマープライスされた。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...