狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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276.空賊列島潜入作戦 3

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「ぐはははははぁ! 今日から俺様がおまえの主人バイラス様だ!」

 うむ。
 思わず感心してしまうくらい、絵に描いたような悪党面の奴隷商だ。

 ぼさぼさの髪に伸ばし放題のヒゲに、過剰にまとうごてごてした装飾品の数々。絵に描いたような悪趣味な身形である。

 大方、空賊をやめて奴隷業に鞍替えしたような小悪党だろう。理性も知性も感じさせない、本当に悪役を絵に描いたような男だ。
 もはや「小悪党であろう・小悪党でありたい」という当人の意思、意向でもあるんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。

 こいつが、私を四十万足らずで落札した者である。

 見た目はちょっと成金の小悪党で、小悪党らしく女連れである。金髪の美しい女を連れている。首輪があるので彼女も奴隷のようだが。

 ――競売が終わった商品たる私は、落札された後すぐに裏手に連れられ、買い取った奴隷商と会っていた。

 下級奴隷市場だけに、もう面倒な手続きだのなんだのは省略し、手早く金と奴隷のやりとりを済ませてしまうようだ。
 まあ、そこまで高額が動くわけではないので、これくらいゆるくても問題ないのだろう。これが数百万から数千万の取引なら、横取りを企てる者も出てきそうだが。

 ……それにしても、だ。

 通常を良く知らないからなんとも言い難いが、下級の競売では一クラムずつ上げていくせせこましいやり方が普通なのか?

 三十五万を超えた辺りから、あまりにも上がる金額が小さすぎて、最終的には目も当てられない泥仕合のようになっていたが。

「オリビエ、俺様は先に帰る! おまえはそのガキに俺様のやり方を教えておけ!」

「――かしこまりました、バイラス様」

 小悪党バイラスは、連れていた奴隷美女と私を置いて、ぐははと笑いながらとっとと行ってしまった。

「……ふう」

 バイラスの背中が見えなくなったところで、奴隷美女は溜息を吐いた。そして私に向き直ると中腰になって視線を合わせてくる。

「――ああ見えて、比較的奴隷の扱いはマシな方なのよ。性欲の化け物だけど。でも暴力は振るわないから」

 性欲の……ああ、まあ、精力はみなぎっていそうな顔ではあったが。

「バイラス様は娼館の経営者なの。かわいそうだけど、あなたもすぐに身を売ることになるわ」

 ふうん。
 まあ、空賊の島に自分から・・・・売りに来た身・・・・・・としては、今更という感じである。

 すでに身体どころか命を売っているからな。
 まあ、私の命に見合う支払いができる者などいないとは思うが。

「あなたも奴隷なの?」

「ええ。私はバイラス様の……まあ、お気に入りかしらね。名前はオリビエよ。さ、行きましょう」

 と、奴隷美女ことオリビエは私の手を取った。

「私から離れないでね。首輪をしていない子供は、誰に何をされても文句は言えないから」

 …………

 逃亡するな。
 成功しても失敗しても地獄だから、か。

 まあ、逃げる理由はないが。

 娼館か。寝る場所があるなら好都合だな。
 まずはその娼館を制圧して、当面の拠点にしようではないか。
 
 とにかく情報が足りない。
 下手に動くとすぐに正体が知られてしまいかねないので、空賊列島に関するある程度の予備知識は必要だ。

 それに、私が本格的に動くのは、リグナー船長率いる黒槌鮫ハンマーヘッド団が空賊列島を離れる二日後の夜からだ。

 現段階で私がやらかした場合、私を連れてきた彼らに類が及ぶ可能性がある。
 彼らはすでに足を洗っていて、今回は無理を言って協力させたのだ。これ以上迷惑は掛けたくない。

 ――よし、それでは情報収集と行こうか。

「オリビエ、色々聞いていい?」

「ええ」

「従業員は何人? 用心棒はいるの? 男の数は?」

「……え?」

「バイラスの娼館はすぐに支配するつもりだけど、何か注意することってある?」

「……えっ?」

「あと個人的な恨みからこいつだけは一発殴っておきたいって奴いる?」

「それはバイラス様だけど」

 それは即答か。まあ、色々あったんだろう。

 夕陽が沈みゆく街並みに長い影を落としながら。
 私とオリビエは手を繋ぎ、これから私の拠点・・・・となる娼館へと向かうのだった。




「――というわけで、この店は私が制圧したから」

 バイラスの娼館は、路地裏の片隅にあるようなボロい小さな二階建てだった。

 まあ、下級奴隷市場で商売をする女を買うくらいのオーナーなので、それを扱う店だって知れたものである。

 オリビエの話では、構成は受付の男と用心棒、そしてバイラスという三人で店を回しているようだ。
 少ないようにも感じるが、本当に店側の者は三人だけらしい。

 その情報は間違っていないようだ。
 何せ三人揃って、男手全員で私を出迎えてくれたからな。

 ――「このガキは四十万もしたんだ! 絶対に元手を取り返すから、てめぇらどんどん売り込んでいけよ!」と。バイラスはそんなことを言うために集めておいたらしい。

 そして、だ。

 バイラスが従業員に吠えている間に、バイラスも従業員たちも一瞬で寝かしつけてやった。

 情報源として利用価値がありそうなので全員生かしているが、ひとまず縛ってどこかの部屋に放り込んでおくことにする。地下室でもあればいいんだが。

「…………」

 目の前で男三人を昏倒させた私を、オリビエは見ていた。

 が、オリビエの反応は、ない。
 一緒に娼館に帰ってきた時から、まるで動いていない。

「これからは私がオーナーだから。今後は私のお気に入り・・・・・・・としてがんばってよ。ねえ。……あれ?」

 本当に動かないな。そんなに驚いたのか? ……まあ、驚くか。こんな十歳くらいの子供が大の男を三人も倒したのだ、普通に驚くことだろう。

 だが、それじゃ困るんだ。

 これから、ここを拠点に色々とやっていくんだ。
 ある程度手伝ってもらわないと、困る。

 やることは山積みなのに。



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