狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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304.空賊列島潜入作戦 合流後 4

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「――レイソンとバンディットから連絡が来た」

 朝手紙を出して、夜には届いた。即日の返事である。

 聖剣王レイソンとは裏で手を結んでいるので返答が早いのはわかるが、白猫王バンディットの返答がこんなに早いのは少々意外だった。

 昨夜と同じように旧フラジャイル邸で夕食を取りつつ、各自集めた情報を交換する。
 それらの最後に、ガウィンが告げた。

 他の島の支配者から連絡があった、と。

「内容は……まあ簡単に言うと、バンディットが明日の朝、赤島に来るってさ。レイソンは夜来るそうだよ」

 手紙を隣の四国代表を回しつつ、概要を手短に語る。

「朝?」

「そ、明日の朝。ちなみにリリーは、今日の朝も戦ったのか?」

「ええ。まあ、もう向かってくるのはだいぶ少ないけどね」

 大抵の空賊団は、二回くらいやられたら実力差を思い知る。
 これは逆立ちしても勝てないぞ、と。

 近頃は腕自慢たちの復讐リピーターと、戦うついで・・・に引き抜き勧誘を行う強かな連中ばかりだ。

「たぶんその時間に合わせてくるんじゃないかな。俺は行くし、できればリリーも来てほしい。ほかのみんなは自由参加でいいからね」




 青剣王レイソンと白猫王バンディット。
 この二人は奴隷反対派という共通事項から、それなりに交友関係が築かれているのだとか。

 レイソンからの手紙で、白猫王バンディットはレイソンが止めている状態だったらしい。
 曰く「いずれ連絡が来るまで赤島の異変に関わるな」と。「狂乱のリリー」の立ち回りを邪魔させないよう静観させていたのだとか。

 ならば味方になりうる。
 明日の話し合いで、事態は大きく進展しそうだ。

 ガウィンは考えつく限りのバンディットの出方と今後の動向を予想しつつ、深まる夜を過ごした。




 そして翌日。

「あれじゃない?」

「あれだな」

「猫か?」

「猫だね」

 朝から港に集まるガウィンとニア・リストンと侍女リノキスと――ほか全員。
 自由参加とは言ったが、今後に大きく影響しそうなイベントなので、皆それなりに気になっていたのである。

 特に本職がある者は、作戦進行度は元の仕事に帰る時期に関わる。
 すでに空賊になって一ヵ月近くが経っている。一ヵ月もの間、本職を放置している状態なのだ。なので元の生活を少し気にしている者が多かった。

「何? 何が起こっているの?」

 見るからにわくわくしている目隠し聖女に、聖騎士ライジが「猫の像を飾った船が来ています」と告げる。

「あら? 猫? 可愛らしいわね」

 まあ、一部本職を忘れてただひたすら楽しそうな者もいるが。

 ――そんな個々の事情はさておき。

 船首に猫の彫像を据えたあの中型船こそ、白猫王バンディットの船であろう。

 今朝の空賊きゃくは、もう追っ払った後である。
 一応港で働く奴隷たちに、危ないからしばらくここから離れるよう告げ、彼らが港に到着を待った。




 猫を掲げた船がゆっくりと港に着け――二十名ほどの船員が降りてきた。

 全員獣人である。
 猫もいるし、熊もいる。鼠もいる。虎もいる。立派な枝角があるのはシカだろうか。男女も種別も問わない多様な集団である。

 そして――

「はっはっはー! 雪毒鈴蘭スノー・リリーども、待たせたな!」

 船首の猫の彫像の上に立ち、高らかに笑う少女。

 歳は十代半ばくらいだろうか、非常に小柄である。艶やかな黒い髪を風に遊ばせ、ほのかに輝く青い瞳で港にいる全員を見下ろしている。

「吾輩が白猫王バンディット! 本名アニアニ! 九明島の支配者である! ――とうっ」

 よく通る声で本名まで名乗りを上げると、バンディットは船首から港に飛び降りた。

 かなりの高さがあるのに、音もなく着地する。
 その身の軽さはまさしく猫である。

 ただ――

「白猫……?」

「黒猫じゃないのか……?」

 見た感じ、どこをどう見ても白猫ではない。長い髪も、揺れる尾も、黒毛である。

 ……まあ、疑問もあるが、さておき。

「待ってたよ。じゃあ早速話し合いをしようか」

「は? 話し合い?」

 ガウィンの言葉を受け、バンディットは偉そうに胸を反らし腕を組む。

「空賊が空賊と出会ったのに、話し合い? ――新入りども、寝ぼけてるのか?」

 ニタリ。
 バンディットが剣呑な雰囲気を放ちながら、笑った。

「ここは空賊列島。吾輩は白猫王。そして貴様らも今や空賊の王の座に居るのだ。
 まずは決闘と行こうではないか。我らの挨拶などそんなものでよかろう」

「え? やるの?」

「あたりまえだろう。吾輩らが勝ったら――この島の獣人奴隷はすべて貰い受ける。構わんな? 話がしたければその後だ。聞いてやる」

 この威圧感と存在感。

 年若い小娘にしか見えないが――その壮大かつ厳粛なる佇まいは、確かにそこらのゴロツキや荒くれとは一味違う迫力がある。

 だが――

「……やめといた方がいいんじゃない?」

 ガウィンは、本当に親切心で言った。

 正直、これまででニア・リストンを始めとした「同じ師を持つ同門の弟子」連中の強さが異常すぎるというのが、よくわかっている。

 なるほどバンディットは強いのだろう。
 あの姿形で異常なほどの圧を感じる――四空王の椅子に恥じない実力があるのだろうと思う。

 だが、こちらの連中は、競い合う強さの桁が違う・・・・のだ。

「貴様らが呼んだのだ、今更引けるか。

 吾輩の獲物であるフラジャイルを殺った『狂乱のリリー』とはどいつだ? 吾輩と一対一サシで勝負しろ。
 何、他の連中には手は出さんし、うちの連中にも出させんから安心するのだ」

「――へえ。面白いわね」

 どう言って止めようかと思案するガウィンの気持ちを無視し、ご指名を受けたニアが笑いながら歩み出た。

「あなたの語る悪党なりの美学、嫌いじゃないわ。要望通り少し遊んであげる」

 














「そろそろお話ししましょうか?」

「はいっ」

 こうして、白猫王バンディットは雪毒鈴蘭スノー・リリーに下った。



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