狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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310.空賊列島潜入作戦 合流後 10

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「仕込み武器、全部潰れた」

 と、フレッサはついさっき根元から折れたナイフの柄を捨てた。

 数本のナイフ、寸鉄、ナックル、投げナイフ、ワイヤー、組立式メイス、鎖分銅、金属製カード、ブーツに仕込んだナイフに爪先の鉄板、濡れ布巾と、仕込んでいた暗器類の全てを使い切った。飲食店勤務だけに忌避し、昨今は毒類の仕込みはしていない。

 細かい傷は数えきれず、空賊ライクに整えた服もボロボロだ。
 特に靴の仕込みが全部イカれたせいで、一瞬裸足になり、手頃な女空賊からサンダルを奪い取っている有様である。

 大規模戦闘の経験もなかったが、ここまで追い込まれた戦闘はフレッサも初めてだった。そろそろ拾った武器で戦うしかないと思っていた頃だった。

「高い服なのによ……台無しだ」

 こんな時でもきっちりスーツを着てきたアンゼルは、見る影もないほどラフなスタイルになっている。

 袖は千切れるわ至る所を裂傷しているわ、パンツも腿や膝が破れたり切れていたりとボロボロだ。
 彼はもう服として扱うことを諦めたようで、煙草を咥えながら上着だったものを脱ぎ捨てた。シャツには点々と己の血が滲んでいる。

「良い経験になった」

 同じく、ボロボロではあるがガンドルフは満足げである。

 ここのところ人相手・・・では戦える相手がおらず、出稽古と称して魔獣狩りばかりしていた。
 そんな理由で、本人にその気がないまま、アルトワールでは有名な冒険家として顔が売れつつあった。

 そんな彼でも、ここまでの人数の人を相手に戦うのは、初めての経験だった。滅多にあることじゃない貴重な体験だったと思っている。

 特に、撃たれた傷は初めて負った。腕と足に一発ずつだ。痛かった。

「お疲れ」

 リノキスは意外と平気だった。多少のかすり傷を負い、多少疲れた程度である。

 これなら毎日の訓練と同じくらいだし、マーベリアで出会った武猿との戦いに比べれば生易しいとしか言いようがなかった。

 知らない間に、まだ常人と呼べる空賊との差がこんなに付いていたことに驚きつつ、またここまで強くなる気がなかっただけに内心複雑でもあった。

 本当に、どこまで強くなってしまうのか。
 いや――どこまで強くされてしまう・・・・・・のだろうか。




「――おいどうなってやがる! 船が動かせねぇ!」

「――こっちもだ!」

 陽が暮れた。
 南の広場の戦闘が終わり静まった頃、今度は周囲が騒がしくなってきた。

 広場での戦闘から逃げた者や、一度やられて退散した者などが、いっそ「玄関の島」から逃げるために空賊船に逃げ込み――機関部を動かすキーコードが書き換えられていることに気づいたようだ。

 そんな声が至る所から上がり出した頃、完勝で広場での戦闘を終えた四人も、自分たちの船に戻ってきた。

「おーい!」

 船の上から様子を見ていたガウィンが気づき、手を振る。

「ちょうどいいタイミングで帰ってきたな! そろそろ時間だ!」

 それを聞いて、疲れの残る身体に鞭を打って、四人は船に乗り込む。

 別動隊はすでに仕事を終えていて、広場で戦闘したリノキスらを待っている状態だった。

「――お帰り。心配はしてなかったけど、全員無事ね」

 ニア・リストンも待っていたようだ。
 心配してないとは言ったものの、やはり少しは心配していたようだ。

「お嬢様会いたかった」だの「師匠見てこれ二発撃たれた」だのとやっている間に、ドクロと花束を背負った船は、暗い空をゆっくりと浮上していく。

「玄関の島」では、ようやく色々な異変に気付いて騒ぎが起こってきているが、騒ぐにしても気づくにしてももう遅い。

 すでに準備は完了している。

「そろそろ始まるぞー」

 ――後は高みの見物だ。



 




 雪毒鈴蘭スノー・リリーの船員たちと、ようやく目隠しを取った聖女が甲板に並ぶ。

 眼下には、騒々しい空賊たちのたむろする島。
 全方位を囲むように存在する港と、ずらりと並ぶ空賊船が異質でもあり、また自然に馴染んでいる気もする。

 まだ多くの空賊が、南の広場で倒れているはずだが、それでも元気な者は元気である。

 狙い通り、原住民に近い奴隷に手を出す空賊は、いないようだ。
 雪毒鈴蘭スノー・リリーの目的の中に、奴隷解放という理由があることを悟られては、人質に取られたり誘拐されたりしただろう。

 雪毒鈴蘭スノー・リリーは空賊団で、四国の回し者ではない。
 政府、あるいは軍部の関係者だと見破られても、また奴隷たちを人質に……と考える者も出てきただろう。
 訳あり奴隷は赤島だけにいるだけではない。その辺を理解している空賊がいれば、かなりややこしいことになっただろう。

 だがこの分なら、ちゃんと最後まで誤魔化しきることができたようだ。

「お、来た来た」

 時間である。

 南側から順に、ふわりと空賊船が動き出した。

 一隻目から始まり、二隻三隻と続く。
 それは南から東側へ向かって連なり、まるで波のように後を追っていく。

 自動運航で設定したものである。
 別動隊が船に細工を施し、この時間に一斉に飛ぶように仕掛けたのだ。

 一隻ずつ離れると、空賊たちに気づかれる可能性がある。
 だから、一斉にだ。

 あまり遠くまで飛ばすと後々の回収が面倒なので、「玄関の島」の上空や周辺に程近い場所で停止するようにしている。


 これで空賊たちは島に残されたり、あるいは船に乗ったまま分断された。

 逃げ場はない。
 あとは捕らえるだけだ。

 後に出す合図で、赤島で準備させている奴隷たちが「玄関の島」に攻め込み、弱っていたり分断されている空賊たちを捕縛する手筈となっている。

 だが、その前に――




「「おおー!」」

 島から解き放たれた千隻もあろうかという数の空賊船が、ほぼ同時に光を発した。

 それは甲板を照らしたり、前方を照らしたり、合図を送ったりするための光なのだが――

 島の周囲に灯る無数の光は、空の彼方で輝く星々のごとく綺麗で、まるで島ごと星空のど真ん中で星明かりを浴びているかのようだ。
 手を伸ばせば届きそうなほど近い星の瞬きは、たとえその正体を知っていようとも、なかなか幻想的だった。

 滅多に見られない、数多の飛行船の輝き。
 それはとても美しく、心に残るものだった。








 ――美しいだけでは済まないものではあったが。
 
 その合図・・を契機に、赤島で準備していた奴隷たちが「玄関の島」へと飛び立った。

 これから、空賊を憎む赤島の奴隷たちによる、空賊狩りが行われる。
 半数以上は広場の戦闘で負傷し、また伸びているので、数の上では奴隷たちが圧倒的に有利だ。
 もちろん雪毒鈴蘭スノー・リリーも参加する予定だ。

 そして、赤島だけではなく、青剣王レイソンと白猫王バンディットも動き出した。

 レイソンとバンディットは、それぞれの傘下の空賊たちを連れて逃走する予定だ。今は不要な敵は遠ざけた方がいいという判断である。
 ちなみにレイソンは逃げると見せかけて戻ってきて、空賊狩りに参加する予定である。

 結局帰ってこなかった無頼王キートン・レターグースと彼の者が支配する島は、特に動きはなかった。
 レイソンの読み通りである。
「玄関の島」の状況次第では、向こうにいる空賊たちも空気を読んで逃走するだろう。




 作戦決行日を決めた後、四国には空軍を回すよう要請を出してある。
 恐らくは、明日中には到着するだろう。

 周囲に空賊船を浮かせたのは、四方向から迫る軍船に、島に備え付けてある大砲を向けさせないためである。要するに飛ばした空賊船は弾避けの盾でもあるのだ。

 あとは流れのままに。
 それで空賊列島は制圧されるだろう。



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