狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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323.二年ぶりのカメラ

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 あたりまえのことではあるが。

「ニア!」

「うわ! ニアだ! 本物だ!」

 子供にとっての二年は、とても大きい。

 飛行船の甲板から身を乗り出し手を振るヒルデトーラとレリアレッドは、一瞬誰だかわからないくらいに成長していた。




 ウーハイトンに移って三週間ほどが過ぎた。
 ここでの生活にも慣れてきて、もうじき留学生としての務めである学校通いが始まる直前。

 ヒルデトーラとレリアレッドが遊びに来る日がやってきた。

 私がアルトワールから追放され、マーベリアに移動してからも手紙でのやり取りはしていたが――かれこれ二年以上会っていない二人である。

 今年で……目の前の秋で十二歳になる私とレリアレッドは、順当に行けば、来年の春にはアルトワール学院の中等部に進学していたことだろう。
 レリアレッドは予定通り進学し、そして私はウーハイトンでそのまま進学する運びとなるはずだ。

 二才年上のヒルデトーラは、十四歳になっている頃だ。ちなみに兄ニールはヒルデトーラと同い年である。

 アルトワールでは、十二歳から大人になる準備が始まる。

 庶子であるなら、十二歳で義務教育である学院生活が終わり、働きに出たり進学したりと次の展望に進む。
 貴人であるなら、そこから貴人らしい振る舞い作法を学び、遅かれ早かれ社交界デビューを果たす。

 昔はもっと貴族貴族した、子供の頃から貴族らしい英才教育が始まっていたらしいが、ゆるくなった昨今のアルトワールではそれで充分なんだとか。

 ――明かすことはないだろうが、小さい頃の彼女らを知っている私の心境とすれば、あの二人は孫に近い感覚がある。

 私などに何かできる機会も少なかったが、がんばったり踏ん張ったり必死になって進もうとする彼女らを、何かあった時の助けになればと近くで見守ってきたつもりだ。

 そんな二人と二年ぶりに再会するのだ。
 嬉しくないはずがないだろう。




「ニア!」

 ウーハイトンの下台の港に着けた飛行船。
 タラップを駆け下りてくるなり、燃えるような赤毛の少女は飛び込むように私の首に腕を回して来た。

「ニア・リストン! 久しぶりですね!」

 一足遅れでやってきた淡い金髪の女性が、赤毛の少女の上から覆いかぶさってくる。

「うん。元気そうで何よりだわ」

 子供の二年は大きい。

 私の記憶にあるレリアレッドとヒルデトーラとは見た目が大きく違うことに戸惑いを覚えると同時に、子供の成長とは早いなとしみじみ思う。

「大きくなったわね。二年前はまるで子供だったのに」

 今では二人ともすっかり成長し、女性らしさを感じさせる。二年と言葉で言えば短いが、実際の年月は決して短くはないと実感させられる。

「あんたもね」

「というか、それは年長のわたくしこそ言っていい言葉だと思いますが」

 二人が離れ、成長した互いの姿を確認する。

 改めて見ても、大きくなっている。

 レリアレッドは、背も髪も伸びているが、勝ち気そうな灰色の瞳はあの頃とあまり変わっていない。
 というか、二年前に見た彼女の姉のリリミにすごくよく似ている。あとちょっと変わった格好をしている。まるで配達員の小僧のような……あとで直接聞いてみよう。

 ヒルデトーラは……こちらは特に成長著しく、もう立派な淑女という感じだ。
 蜂蜜のような長い金髪も二年前より美しく輝き、秘術によりアルトワールの王族に施される赤い点を打った神秘的な緑色の瞳は一際彼女の美貌に彩を添えている。

「ニアも大きくなったね」

「そう?」

 自分ではよくわからないんだが……まあ、確かに成長はしているようだ。リノキスが時々「大きくなりましたね。服を新調しましょう」とか言っていたし。
 
 ――ところで、だ。

「なぜカメラが回ってるの?」

 甲板の上から、カメラを構えた者を筆頭に、明らかに撮影班の連中がゆっくりとタラップを降りながら私たちに近づき……今目の前にいるのだが。目の前で堂々とカメラを私に向けているのだが。

 というか、懐かしいな。
 この嫌でも緊張感が背筋を伸ばす、絶対に気が抜けなくなる感覚。
 撮影中はいつだって真剣勝負だ。

 どうやら私の職業病は、二年くらいではこの身から抜けなかったらしい。

「もちろん撮影よ?」

「ん?」

 してやったりという顔で勝ち誇るレリアレッドは、当然のように言った。

「二年ぶりの再会よ? 突如魔法映像マジックビジョン界から姿を消した、二年ぶりのニア・リストンの姿よ? 撮らないわけないでしょ?」

 …………

 まあ、逆の立場なら同じことをしたかもしれないが。

「こちら、ニアのご両親から預かってきました」

 にっこりと、少女の儚さも然ることながら王族としてのしたたかさをも感じさせる笑みを浮かべて、ヒルデトーラが手紙を差し出す。

 うわ……ご丁寧にリストン家うちの印璽で封がしてある。これ見よがしに。

 ご丁寧にペーパーナイフまで渡して来たので、カメラが向いているそのままで、手紙を開けてみた。

 見覚えのある父の文字で、手短に書かれていた。


 ――『リストンチャンネルの夏休み特番だよ。ぜひ皇帝陛下から撮影と放送の許可を取ってね。』と。


 ……夏休み特番、か

 予想できた流れではあった。
 だが予想しなかった。

 私も随分気が抜けていたようだ。

「ちょっと止めてください――」

 と、ヒルデトーラが手をかざしてカメラを止めさせる。

「突然のことで驚きかと思いますが、色々と事情がありまして。それは後程ちゃんと話しますので、これからしばらくは……」

「え? ああいや、別に大丈夫よ」

 手紙を見て無言になってしまった私の心境を慮ってくれた彼女に、私は首を振って笑う。

「ただ、二年ぶりだから不安があるだけ。アルトワールを出てからは、撮影も視聴も全然だったから」

 勝負勘とかそういうのは、磨かねば鈍っていくものだからな。

 果たして二年前の私にできたことが、今の私にできるかどうか……
 あの頃は自然と表情や発声は作れていたが、その必要がなかった期間としては、二年はちょっと長いだろう。

 正直、やはり不安だ。

「大丈夫だって。ここに第一線で活躍する演者が二人もいるのよ?」

「まあ、そういうことです。今回はあなたがゲスト扱いなので、気楽にやってください」

 そうか。
 じゃあお言葉に甘えて、気楽にやろうかな。

 …………

 でもまあ諸々その前に、皇帝に許可を貰いに行ってからの話だな。



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