狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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322.新たな弟子ができた

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「――おはようございます、ニア様」

 来客があったので門の扉を開けると、そこには真顔のリントン・オーロンが立っていた。

「おはよう。もしかしてジンキョウ?」

「……やはり来てますか?」

 うん、来てるね。
 そして寝てるね。

「今日、私がジンキョウ様をニア様と引き合わせる約束をしていたのですが、聞けば朝早く外へ飛び出したと聞きましたので」

 もしやと思い来てみたら案の定、というわけか。

「皇族が一人で出歩くってウーハイトンでは普通なの?」

 どうぞ、と立ち入りの許可を出しながら問うと、「普通ではないですが、ジンキョウ様はよくやります」とのことだ。
 まあ、宮殿とこの屋敷の場所、近所みたいなものだしな。

 ……いや近所でもダメだろ。

 敷地内に入ってきたリントンは、石畳の開けた場所で倒れている裸の少年を見て、溜息を吐いた。

「……結構強めにやりました?」

「いえ、私は何もしてないわ。あれは完全燃焼で寝ただけ」

 ジンキョウは、彼の武の全てを見せてくれた。その結果燃え尽きたのだ。
 まあ全部私がかわしたせいかもしれないが。

 面白い逸材だ。

 武の才はそこそこだ。
 飛びっきりでは決してない、なくもない程度である。

 あのくらいの才覚ならウーハイトンには掃いて捨てるほどいると思う。もしかしたらこのリントンの方があるかもしれない。

 だが、彼が唯一誰にも負けない点が、凡才な彼を龍へ育て上げる可能性は高い。

 ただ若く元気なだけの鯉が一丁前に滝を登ろうとしているところ、といった感じだろうか。

「あの子、武術が好きすぎない?」

 そう、ただその点だけが異様に優れている。

 あの年齢で、あの才覚で、あそこまでの実力を有するなら、きっと朝から晩まで武術漬けの毎日を送ってきたのだと思う。

 好きだから努力するし、好きだから続けられる。

 強さを求めるから、あるいは強さを振るうために武に走る者は多い。
 だが、ああいうただただ単純に好きだというのは、結構珍しい。

 ……いや、ウーハイトンではもしや珍しくないのかな?

「そうですね……きっとその表現が一番近いんでしょうね。小さな頃から、寝ても醒めても自分を鍛えることしかしないような方なので……」

 ウーハイトンでもあそこまで没頭している者はそういないのです、とリントンはどこか諦めの入った笑みを浮かべる。

「どうでしょう? 面倒を見ていただけませんか?」

「ええ、もちろん」

 元々そういう話だったし――あれは少し危ういしな。好きのベクトルが少しずれるだけで簡単に道を踏み外しかねない。

 子供の頃なら純粋な気持ちのまま武と向き合っていていいのだろうが、ジンキョウはもう純粋なままでいていい年齢と実力を少し過ぎている。
 
 武に対する己を形成させないと、ただのゴロツキかチンピラまで落ちかねない。

 ――まあ、上にリノキスがいて下にミトがいるこの状況は、ジンキョウにはいい刺激になるだろう。

 己を考えるいい機会になるといいのだが。




 そんな感じで、ジンキョウという弟子ができた。

 予想はしていたが、本当に朝から晩まで武術ばかりの少年で、この私が呆れるほどひたむきである。
 リノキスとミトは完全に引いている。
「あの人あぶない人なんじゃないですか」と、別個二人に言われたほどである。

 十四歳で「氣」を習得したというのも納得できるほど、本当に朝から晩までだ。

 毎日疲れ果てるまで動いて、気絶するように就寝し、また次の一日を同じように過ごす。その繰り返しである。

 正直に言えば、私もちょっと引くくらいのめり込んでいる。
 よくもまあ目標もないのに、ただ好きだというだけで、ここまでやれるものだ。ほんと引く。嫌いじゃないけど引く。

「――お代わり! リノキスの鞭了麺はうまいな!」

「――今日はミトが作りました」

「――そうか! じゃあお代わりだな!」

「――もう八杯目ですけど大丈夫ですか……?」

「――動くと腹が減るんだ! だからお代わりな!」

 だがまあ。

 よく鍛え、よく食べ、よく休む。
 そして性格は、最優先がわかりやすく、明るくからっとしている。

 裏表も皇子らしさもない彼が私たちの生活に馴染むのに、そう長い時間は必要なかった。




 そんなジンキョウのいる一週間と少しが過ぎた頃、アルトワールの友人たちから手紙が届いた。

 夏休みの終盤二日間、遊びに行くという内容のものだった。

「リノキス。お客さんが来るから準備をしておいて」

 そうなるかもしれないと思っていただけに、私はなんの抵抗もなく、すんなり彼女らを受け入れることにした。




 ――これがとんでもない騒動を起こすことになるのは、ほんの少しだけ先の話である。



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