狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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366.アルトワールアンテナ島開局セレモニー 05

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「はいはい、そこまで」

 パーティー会場で妙な動きがあるその頃、アンテナ島の港では各国の船乗りたちが酒や食い物が振る舞われていた。

 昼の部の立食パーティー用の料理なのだが、ああいう場で半分減ったのはなかなかの成果である。アルトワールの王宮料理人の腕は確かだ。
 残りの半分は、物は確かだし捨てるのももったいないので、大部分がこちらに回ってきていた。

 酒も、船乗りたちに振る舞う用に仕入れてきた、程々に高級な酒である。
 この辺でも国の面子に関わってくる。安酒など用意して侮られないよう、しかし高級すぎても鼻に付くので、程々のものが却って好ましい。

 貴族たちは国の看板を背負ってきているので滅多なことにはならないが――船乗りたちは違う。
 庶民出もいれば気性の荒い者も少なくない。

 それこそ、兼ね合いの悪い諸外国の者と介せば、しかもそこに酒まで入るとなれば、必然的に小競り合いも揉め事も起こるというものだ。

「おたくら飲みすぎだよ」

 そしてこれも必然か、アルトワールから護衛として雇われてきた酒場のアンゼルは、今晩は港の警備を任されていた。

 いがみ合う船乗りたちを仲裁したり、時には力ずくで抑えつけたりしたりして、起こる騒ぎを程々に抑えていた。
 
 昼の立食パーティーのような気取った雰囲気はなく、どこまでも食い物と酒を楽しむだけの庶民向けの安いパーティーだ。
 火を焚き、冬空の下でも構うことはない――酔い潰れた者はさすがに回収しないとまずいが。翌朝冷たくなっている可能性が高いから。

「どこの国も酔っぱらいは変わらねぇな」

 肩を組んで歌い出す荒くれたちに、飲み比べをする酒豪自慢。
 わざわざよその船乗りたちに絡みに行く者もいれば、軽くどつきあってなぜか古くからの友のように仲良くなる者もいる。
 
 己が安酒場を思い出す光景に、苦笑しながら煙草を咥え――

「んだこらてめえこら!」

 煙草を戻した。

 大声や怒声は至る所で上がっているが、本気の怒りを感じるものはほとんどない。

 しかし、今聞こえたのはそういう類のものだった。
 こういうのを放置すると、刃傷沙汰や殺しにまで発展する。間違いなく警備案件である。

「――はいはい、そこまでそこまで」

 五人と四人の荒くれ同士が睨み合っていた。胸倉を掴み合っている二人の間に、アンゼルは強引に割って入った。

「なんだてめえは!」

「警備員だよ」

 この場でスーツを着ている者は、皆警備か船番代わりにこちらに参加している下級貴族くらいだろう。
 もっとも下級貴族たちは、揉め事に巻き込まれないよう船の中にいるか、宿として解放している屋内にいるかで、ここにはいないが。

「止めるな! こいつがケンカ売ってきたんだ!」

「は? 田舎者のエスティグリアの雑魚が粋がってんじゃねえって言っただけだろ!」

「それがケンカ売ってるってんだ馬鹿野郎! それくらい田舎者でもわかんだよ!」

「まあまあ、まあまあ」

 ――酔っぱらいの戯言である。酒が入って気が大きくなった結果、こういう言いがかりを付ける奴など儘いる。

 ただ、品位は低い。
 そこが気になる。

「あんたらハーバルヘイム王国の者だよな?」

 ケンカを買おうとしている氷上エスティグリア帝国は、氷上と付くだけあって、永久凍土の大地の上に成り立つ国だ。

 年中通して寒いという自然環境の厳しさと、その環境に適応した魔獣の手強さもあり、そこで生きるために人も強くならざるを得ないという場所である。
 生きるための力を重視する彼の国は、それゆえに最大軍事力を築くに至った。そしてその軍備が向いているのは、凍土で生きる魔獣たちである。

 ケンカを売っている方は、貴王国と言われる階級制度が強く残る国だ。
 魔力が強い貴族が国を築き上げてきた歴史があり、今でも魔法主義が色濃く残っている。

 ケンカになるから言わないが、アルトワール育ちのアンゼルからすれば、ハーバルヘイムも充分旧態依然とした田舎だと思うが。

 ケンカになるから言わないが。

 ただ、問題はそこだ。

「あんたら大丈夫かい?」

「なんだよ」

「あんたらの雇い主に言われてない? よその連中と揉めるなよ、って。貴王国の名を汚すような振る舞いをするなとか。俺に恥を掻かせるな、とか」

「う、ぐ……」

 どうやら言われているらしい。

 そう、ハーバルヘイムは上下関係が厳しい。
 それを考えると、ケンカを売ろうとしていた船乗りたちは今、主人の言いつけに背いて揉め事を起こそうとしていた、ということになる。

 そこが少し引っかかるが―― 

「今ならまだただの交流・・・・・で片付くから、ここまでにしときなって。はい、解散解散」

 散れと言わんばかりに手を振ると……双方不承不承な感はあるものの、大人しく引っ込んだ。「命拾いしたな、魔法頼りの非力どもめ」だの「あんな野蛮な田舎者のいる場所にいられるか、帰り支度だ」だのと言い合いながら。

「……やれやれ」

 一つ息を吐き、警備に戻る。

 ――そんなアンゼルは、もうすぐ、飛来する水晶竜ブルードラゴンをいち早く発見することになる。



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