368 / 405
367.アルトワールアンテナ島開局セレモニー 06
しおりを挟む「なんの騒ぎだ」
今し方マーベリアの客人と挨拶をし、別れた直後。
さりげなくニア・リストンの結婚相手に自国の王族を……というマーベリアの王弟と第三王女クランオールの話題を華麗に流したところだ。
音楽隊の奏でる邪魔にならない演奏を圧し潰すような雑音が聞こえた。
庭の方が少々騒がしく、会場の要人たちがそちらへ流れている。
それを不審に思ったアルトワール王国第一王子アーレスは、まるで独り言のように言葉を発し――臨時で入っている給仕のメイドがさりげなく近づき囁く。
「――エスティグリア帝国のダンダロッサ・グリオン様が、ウーハイトン台国のリントン・オーロン様に武術外交の是非を問いました」
夜会に参加している給仕は、ほぼ全員護衛や警備も兼ねている優秀な者を揃えているので、動作も素早ければ判断も的確だ。
アーレスとしても、本当に何気ない話題を隣の王太子妃ミューリヒに振ったつもりだったのだが、まさか返事が来るとは思わなかった。
平然であり泰然としたポーカーフェイスを保っているが、実際は結構驚いている。これほど気配を感じさせず背後を取るのか、と。
「ふうん?」
内心を押し殺して「なるほど」と頷くアーレスの横で、ミューリヒは扇の下で笑った。度胸的な意味で言えば王太子妃の方が据わっている。
「武術外交なんて久しぶりに聞いたわね、アーレス様」
「ああ。ここ十年以上はなかったはずだが」
しかし氷上エスティグリア帝国ならばこの話の流れはあり得る、とも思う。
彼の国は、あまり外交や国交には熱心ではない。
かつての機兵王国マーベリアほど外国を敵視していたわけではなく、自分たちの国の内部のことで手一杯という感じだった。
もっと露骨に言うと、暮らすだけで精一杯という感じだ。
エスティグリアは最大規模の土地面積を誇るが、周辺もろとも厳しい環境の浮島なので、戦争を仕掛けて手に入れるメリットが少ない。
また、備えている軍備も脅威なので、下手にちょっかいを出す国は存在しなかった。
そんな外交に乗り気じゃなかったエスティグリアの者が、他の国の要人に絡んだわけだ。
――このパーティーに参加したこと自体、何かしらの目的があったのだろう。それがこの騒ぎである可能性が高い。
今のところ、ダンダロッサ・グリオンの目的はわからないが……
「――止めますか?」
「そうだな……フレッサに頼、ああ、君がフレッサか」
すぐ後ろにヒタリと付いていたメイドを振り返ると、所望しようとしたフレッサがそこにいた。
――こういう不測の事態に備えて、自国の腕利きを臨時で雇って連れてきていた。
この他国籍の来賓に富んでいるパーティーで問題が起こると、即座に国際問題である。
彼らは国の威信と誇りと責任を負ってきている。
だから、ある程度は黙認するのも悪くない――が、アルトワール主催でありアーレスらが主催側であり全ての責任者でもある以上、一線を越えるような揉め事は起こさせたくないし、仮に起こったとしても大事になる前に解決してしまいたい。
もしも、万が一にも人死にが出るようなことがあれば、間違いなくアルトワールと王太子アーレスの瑕疵になる。
アルトワールの次期国王はパーティー一つ満足に開けないのか、と確実に言われ侮られることだろう。
そう、こういう時のために雇ったのが、フレッサたちである。
今回臨時に雇った者たちの中では、特に女性の中ではこのフレッサはダントツに強い。
アルトワールの暗部が知っていたくらいで、裏社会に精通しており、また裏社会のルールを厳守する、完全なるプロである。――まあ、本業はとっくに引退しているらしいが。
貴族の前に出せる最低限の礼儀ができている者はこちらに、そうじゃない者、主に男性は屋敷の周辺や港の警備に付かせている。
「多少の小競り合いは許す、だが彼らがやりすぎそうになったら止めてくれ。怪我くらいならさせても構わん。
その後、君は私の命令で捕らえられ本国送還の措置となり――帰りの船に乗ったら仕事は完了だ。船旅を楽しんで帰ってくれ」
あとは本国で処刑したことにして、エスティグリアとウーハイトンには責任を取らせたという形で終わらせる。
国際問題においては、尻拭いをするための生贄があれば、わりとすぐに納まる。
――たとえ処刑が嘘だと、誰しもに知られていたとしても、だ。こういう落としどころが必要なのだ。
なお、裏社会に精通しているフレッサには常識ってくらいわかっているとは思うが、念のためにそれからの流れも語っておいた。
事情を説明しなかったせいで、フレッサが勘違いして拘束に応じず抵抗し逃げた場合……彼女にアーレスが恨まれる可能性が出てくる。
この女性は、いろんな意味で敵に回したくない。
たとえ不幸な偶然が重なるような不測の事態が起ころうとも。
「――ではそのように」
そんな返事をしたや否や。
すぐ傍にいたはずのフレッサは、一瞬で姿を消した。
いろんな意味で、絶対に敵に回したくないものである。
「フフッ。やはり揉め事が起こったわね?」
「小競り合いくらいで済むならいいんだが」
――国王ヒュレンツは、アルトワールが目障りな諸外国は、開局セレモニーで必ず仕掛けてくると言っていた。
魔法映像が……ひいてはアルトワールが世界に進出するための一手が、このアンテナ島の存在である。
「ここで出鼻をくじくか、あるいは潰しておかないと、更なる躍進の足掛かりとなる――と、考えないようなおめでたい連中ばかりなら楽なんだが」と、ヒュレンツはニヤニヤしながら語った。
まるで思わぬチェスの一手を食らった時のように。
その様子は明らかに楽しんでいた。
父の感性や性癖は理解できないが、思考についてはアーレスも同感だった。
アンテナ島に放送局ができる。
そしてアーレスの認識では、アンテナ島を含めた旧空賊列島は、四国の文化を無理やり一国にまとめたような、巨大な繁華街のようなものになると思っている。
恐らく、長期バカンスに特化した……四国の楽しい文化だけを詰め込んだ、遊べる場所になるだろう。
きっと世界中から人が集まる場所になる。
人が集まり、物資が集まり、文化が集まり――流行の最先端を行く発展を遂げると予想して射る。
ここを訪れる多くの者が魔法映像を知り、それを欲する。
人気が高まれば高まるほど人が集まり、人が集まれば集まるほど強国となる。
これを脅威を見るかどうか、という話である。
「見に行きましょう?」
「ああ」
ミューリヒに腕を引かれて返事をしつつ、アーレスの視界には確かに入った。
――そして、こういう時のために、撮影班はすぐに動けるようにしてあるし、何かあったら撮影して記録しろと命じてある。
あとで言った言わない、何をした何をしてない、などの証拠を押さえるために。
まあ、この場の撮影班は優秀なヒエロに任せてあるので、何があろうと抜かりはないだろう。
「――なんか下が騒がしいな」
氷上エスティグリア帝国のダンダロッサ・グリオンと、武勇国ウーハイトンのリントン・オーロンが庭先に出てきて、あらゆる情報を欲する要人たちがそれを追う。
そんな騒ぎが今、寒空の下にあるバルコニーの更に下で起こっているのだが。
「――気にするな」
幸いというかなんというか、大人たちの大人げない揉め事は、二階の子供たちのパーティー会場には伝わっていなかった。
だが、仮に何かが起こっていようとも、人目を避けるようにしてバルコニーに出てきたハーバルヘイム貴王国アルコットらには、構っている時間がない。
「――早く脱出だ。ぐずぐずしてられない」
護衛たちの聞き逃せないフレーズが出たので、
「こんばんは、アルコット殿下」
このタイミングで、ニア・リストンは三人の前に姿を見せた。
思った以上に近くに誰かがいたことに、護衛二人もアルコットも驚いていた。
そう、それこそ、話し声が聞こえそうなほど間近にいたから。
「どう、して……」
かすかに奮えるアルコットの声に、ニアは首を傾げた。
「それはどちらかと言うと私のセリフでは?」
まだ見られただけ。
バルコニーに出てきただけである以上、何を咎められることもない。
だが、きっと聞かれた。
ならば、かわいそうだが――
護衛二人が密かに視線をかわす。
「脱出とはどういう意味ですか?」
白髪の少女がそう問うた瞬間、護衛二人が懐に隠していた短剣を抜いて襲い掛かった。
40
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる