私がネズミになって世界の行方を見守ってみた

南野海風

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15.平凡なる超えし者、置いていかれる……

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 西回りと東回りに別れた冒険者たちの真ん中を、私はモンスターを掃討しながら北へ進む。

 魔素を吸う花の種を弾丸にして「狙撃」するのも使えるが、やっぱり「直撃」の方が回転率がいいかな。

 「直撃」は、直接、直に、ネズミの身で「成長促進させながら種を植える」こと。「植える」と言ってもモンスターの身体に押し付けるだけで充分だし。
 この辺のモンスターなら、一秒触れば足が奪えるほど根を伸ばせるし、三秒触れれば根こそぎ魔素を奪える。

 まあ中堅どころの冒険者が、二・二で別れて行動できる程度の難易度のフィールドなので、モンスターの強さも推して知るべしって感じだけど。あんまり強くないよね。回収できている魔素もあんまり多くないと思う。
 この分じゃ、森全域を駆け回っても、集められる魔素量は知れているかな。

 もう少しモンスターが強いフィールドの方が効率はよさそうだね。
 手始めに攻めるには、丁度よかったかもしれないけど。

 ……というか、このネズミの身体がチート過ぎるだけか。特に森では滅法強いみたいだし。

 お、野生の木いちごっぽい実があるぞ。
 あれ? 今って木いちごの時期だっけ?
 まあいいや、いただきまーす……うわ、超すっぱい。テンション下がるわー……

 あれ? あそこに見覚えのない木の実があるぞ。いただきまーす。
 おえっ。
 ……なんで赤く熟れてるのに苦いんだよ……テンション下がるわー。でも毒とかはないっぽいな。口の中が苦いだけで害はないのかな。

 おおっと、ご立派なキノコが生えてるぞ。
 大きなエリンギみたいな奴だ。
 これは図鑑で見たことがある気がする。確かナタリキノコとかいういただきまーす。……味付けしてないだけに味がしない。風味は悪くないけど。テンション下がるわー。
 



 色々と拾い食いしながらテンションを下げつつモンスターを狩ったり狩らなかったりしながら北を目指し、だらだらと時間調整をして冒険者たちの到着と併せてみた。

 だいたい三時間くらい掛かったと思う。冒険者たちは探し物をしながらだから、ちょっと時間が掛かったみたいだ。
 問題は、その探し物が見つかっているのかって話だよ。生やすよー。都合よく目の前に薬草を生やしちゃうよー。

「――薬草、あったか?」

「――なかった。そっちも?」

「――ああ、空振りだった」

「――誰かが先に来てるかもな。あんまりモンスターと遭遇しなかった」

「――うーん……受けられそうな依頼書が残ってたから、その線は薄そうだが……確かにこっちもあんまりモンスターと遭わなかったな」

 あ、薬草なかったの? じゃあ生やしまーす。あとモンスターはたぶん私のせいでーす。

 顔を合わせる四人の足元に、これみよがしに「狙撃」してみた。よーしパパがんばって家族サービスするぞー。三本くらいでいいかー? 四本かー? 四本いっちゃうかー? 四本……イヤしんぼめっ。

「――あれ? アーキン、その足元の草って……」

「――え? ……あれ!? あった!? こんなとこに生えてたっけ!?」

「――なかったと思う。さすがに足元の物に気付かないことはない、が……でも、あるね。生えてるね。四本も生えてるね。群生しない草のはずなのに」

「――なんでもいいよ、あったんなら。薬切れてるんでしょ? 急いで届けてあげようよ」

「――そうだな。緊急の依頼だったし、早く届けてやった方がいいよな。……もう切り上げていいか? なんかやることあるか? 採取とかしたいか?」

 ああだこうだと話し合うも、今強いてこのフィールドでやることはないみたいだ。
 どうやら急ぎで薬草が欲しいって依頼を受けたみたいだね。薬草だけに、誰かの薬になるんだろうね。
 そうだね、そういう事情があるなら早く帰るといいね。
 私も口に入れるもの口に入れるものがアレすぎてテンション下がっちゃってるし、ぶっちゃけ早く帰りたいんだよね。そろそろカワイイ本アクロに会いに行きたいし。あと帰って寝たいんだよね。

「――じゃあ帰るか。カーナ、頼む」

「――うん」

 あっ。

 まずい、と思った瞬間、私は慌てて駆け出すが、余裕で間に合わなかった。
 私の目の前で、四人は忽然と消えてしまった。

 ……帰りは帰還魔法かよ。なんだよ、魔法陣まで戻らないのかよ。




 まさか置いていかれるとは思わなかった。てっきり帰りも「転送魔法陣」を使用すると思っていたのに、帰還魔法で帰ってしまった。

 魔法か。
 この世界では、誰もが何かしらの魔法が使える。
 もちろん冒険者や専門職張りに強力なものが使えるかどうかは別問題だけど、持っている属性に沿った一番弱い魔法くらいは誰もが使えるってことになっている。

 で、実は、色々試してみた結果、百花鼠は一般的に知られる魔法は使えないようだ。

 魔力自体は重要な、百花鼠を百花鼠たらしめるほどの大事な要素であることは想像するまでもないが、魔法自体を使用することはできない。

 魔法が使えないこと自体はいいんだよね。
 問題は、「人間用の魔法だから使えないのか」って話なんだよね。
 「種を生み出す」だとか「成長促進」だとか「変身」だとかは、魔法というよりは百花鼠の特徴・特性みたいなものだと思うし。

 現段階では、魔法が使えないのではなく百花鼠用の魔法があるかもしれない、って疑惑があるわけだ。
 例の「大陸を駆ける」っていう気になるフレーズも謎のまま置いてあるし、いまいちできることとできないことがはっきりしない。多少の知識を仕込んだ今だからこそ、強く思う。

 ……でもまあ、今は帰ることだけ考えた方がいいかな。

 この辺は小雨がパラつく程度の天気だ。
 森に入れば木々が遮るので、雨が降っているって印象も薄い。

 だが、王都では雨だった。
 ってことは、やっぱり結構離れた場所にいるっぽいよねー。

 森の中は把握できるが、森の外は管轄外だ。
 どこか森の外を見ることができる場所に出て、欲を言うなら遠目に王都が見えると理想的だなぁ。……理想なんだけどなぁ。

 …………
 
 あ、じゃあ、考え方を変えようかな。

 今の状況なんて、結局電車だのバスだのを一本乗り過ごしただけの話だ。
 ただ置いていかれただけなんだし、次を捕まえればいいじゃない。

 かなり広い森みたいだし、土砂降りってわけでもないし、他に潜り込んでいる冒険者もいるだろう。その人たちに連れて帰ってもらえばいいじゃない。

 意識を薄く広げるようなイメージで、森の空気と同調させる。

 生き物の気配を探る。

 どんどん同調する範囲を広げていく。
 端から端まで私の庭、どころか私の腹の中くらいにイメージして、探っていく。

 ――いた。

 目の前の断崖絶壁の上に三人パーティーだ。
 
 今度こそ置いていかれないよう、ぴったりマークしよっと。






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