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16.平凡なる超えし者、知った顔を発見する……
しおりを挟む絶壁を登ると、そこもまた森だった。
ただ、雰囲気はかなり違う。
なんというか、緑が濃い。
つまり、大地に宿る魔素が強い。
魔素は生命エネルギーのようなものだ。それが強いということは、まあ、単純に強いモンスターが多いってことになる。
モンスターもそうだが、この森に生きる動植物も、強いってことになるのかな。少なくとも崖の下よりは。
うーん……ゲームをやり込んでいれば、冒険フィールドの名前や特徴くらい覚えていたかもなぁ。生憎私はシナリオしかチェックしてきてないからわからないんだよね。
まあ、わかったところで私が取る行動に違いが生まれるとも思えないけど。
さて、目当ての冒険者たちにはまだ遠い。
置いていかれると難儀しそうなので、適当にモンスターを狩りながら急ぎ合流しようじゃないか。今度置いて行かれると非常に困、る……
え?
何あの木の実?
ヤシの実? にしては大きいな……食えるの? それともココナツミルクが中に? おいおいやめろよー。今度まずいものだったらテンション下がりすぎてやる気なくなっちゃうよー。…………食べるけどさー。
――案の定激マズだった、そもそも食用でさえなさそうだったヤシの実もどきをオエッとしながら、私は深い森を駆け抜ける。
世界観の問題になるんだろうけど、この世界の害獣は基本的に二種類になる。
モンスターと、野生動物だ。
魔素絡みのなんやかんやで自然発生するモンスターと、地球のように生態系を積み上げて進化してきた野生動物。
この二種は、同列のように扱われはするものの、やはり根本は違う存在なのである。
実はこのモンスターと野生動物は、「人間とモンスター」の関係くらい対立していたりする。簡単に言えばモンスターは野生動物を襲うって話だね。
ただし、だ。
こういう強い外敵がいる世界で生存競争を生き抜いてきた野生動物たちは、非常に強い。
モンスターとやりあって勝てるくらいに。
そりゃそうだ。そうじゃないと、動物によっては絶滅しているんじゃないかな。
それと当然のことながら、倒しても光の粒子になって消えるなんてこともなく、死体は血肉の塊としてそこに残る。
で、モンスターより強い野生動物は、当然のように人間も襲う。
敵の敵は味方とは言えないわけだね。
何が言いたいかと言えば、森に住む野生動物は、森の一部のようなものだということだ。モンスターは違うけどね。
私は別に、無益な殺生をしたいわけじゃないからね。
だから動物は相手にしてなかったけど、森に入ってからわかったことがある。王都で黒猫に睨まれた時はまだわからなかったけどね。
野生動物は、私を、百花鼠を襲わない。
森の中を動く存在(えさ)として追いかけられることはあっても、目が合うと引き返すのだ。
敵、あるいは食物として認識されないみたいだね。
どんな理由で、というかどこをどう見分けているのかはわからないけど。
鳥も目が合うと諦めるみたいだから、あの時丸呑みされたのは運が悪かったってことなんだろう。私も鳥も。
それにしても面白い。
この世界の野生動物は本当に強い。
モンスター相手に戦って勝ち残ってきただけに、生存競争を生き抜くために必要な進化を遂げた姿は、非常に興味深い。
鋭い角が生えたウサギは、きっと一矢報いるために、額に武器を身につけたんだろう。
木の上に潜んでいた山猫は、大型犬くらい大きかった。
リスは大きさも形も地球で見られるアレと一緒だが、かすかに毒の臭いを感じた。たぶん毒持ちだろうね。
インドネシアに生息するコモドオオトカゲみたいなのが、普通に生息しているのも驚いた。この世界ではドラゴンってことになるんだっけ? 地龍種ってやつだよね。
虫なんかもなんか大きいんだよね、全体的に。
甲虫なんかの甲殻も分厚いみたいだし、そういや見かけた冒険者の防具にも素材として使われてた気がするなぁ。
バッタとか全長30センチくらいある奴がいたし。カブトムシはいないのか。ヘラクレスはロマンがあるぞ。
もっと色々観察したいところだが、今はそれどころじゃない。
崖下で遭遇したイノシシの色違い、ヌルヌル動く肉食植物、トゲトゲが生えたアルマジロみたいなやつ、オーソドックスなスケルトンと。
遭遇するモンスターを片付けつつ、目的の冒険者たちへと突き進む。
――あれ?
あと30分も走れば遭遇しそう、という距離になって、冒険者たちが猛然と移動をし始めた。
これまではゆっくり移動したり止まったりと、繰り返し、順調に歩を進めているなーと思っていたのだが。
ここにきて急激にして急速なる移動をし始めたとなると、緊急事態が起こった可能性が高い。
何かに追われているとか、そんな感じかなぁ。
…………
モンスターのレベルもそこそこ高い崖上のフィールドで、奥の奥まで進める実力があるんだよなぁ。
ということは、目指す冒険者たちのレベルはかなり高いと推測できる。
で、そんなレベルの高い冒険者たちが、急に移動しないといけない事情が発生したと。
……あ、もしかして、結構ヤバめの緊急事態だったりする?
あんまり人様の冒険だの事情だのに横槍を入れるのは好きじゃないけど、まあ、帰れなくなると困るしね。目の前で死なれるのも気分悪いし。
状況を見て、少しだけ手を貸すか。運賃程度は働こうかね。
状況は、私が思っていた以上に、悪かった。
「――走れ! 早く!」
「――走ってるよ! どこまで行くんだ!?」
「――考え中だ! いいから走れ!!」
ある程度のスピードを維持したまま、森を爆走する冒険者が二人。森を走れるってなかなかいい腕してるなぁ。難しいんだよね。
まあ、それはさておきだ。
私は木々の上を走って彼らと並走しているが、観察していて驚いたことが二つある。
一つは、三人の冒険者の中、一人だけ見覚えのある顔があったことだ。
――あの子、グランだよね? 年下の攻略キャラのグラン=トトールくんだよね?
ほかの二人は見覚えがないけど、茶色の髪に子供っぽさを残した顔立ちの子犬系イケメンは、間違いなくグランだろう。
ほほう……さすが乙女ゲーの世界、イケメンキャラは容赦ないほどイケメンな顔立ちだ。フゥー。ちょっとテンション上がったね。たとえるなら、パンツにドルねじ込んでやりたくなるようなイケメンだね。いいね。
パーティー構成は、三人だ。
一人は、将来は盾の騎士になるグランくん。
ゲームでは防御型の戦士になるのかな。あいつがいるだけで生存率が上がるから、地味に良キャラだった。
もう一人は、ベテラン風の男の冒険者だ。
ギリギリ十代だと思う。私が一緒に来た冒険者チームと同年代くらいだろう。
そしてあと一人は、グランが背負って走っている。
見た感じ意識があるのかどうかわからない。女子みたいだけど、それ以上はちょっとわからないな。
ベテランの冒険者を先頭に、グランが背中を追いかけるようにして走っている。
そしてそんな三人を追いかけている、不快な音の群れ。
――あーあ。
――何やったかしらないけど、ヘタ打ったんだろうねー。
数十を越える蜂の群れが、森中に羽音を鳴らして迫ってきている。うーん……羽音で仲間を呼んでいるみたいだから、どんどん増えてきているっぽい。
ちなみにモンスターじゃなく、ただの虫のようだ。
一匹10センチを越えるほど大きいけど。ミツバチっぽいけど、たぶん違うんだろうね。
…………
助けてあげたいけど、手段がないなぁ。
さすがに蜂の数が多すぎて「狙撃」じゃ間に合わないだろうし、そもそも当たる気がしない。蜂って複眼でしょ? たぶん普通に避けられるんじゃないかな。
せめて不意打ちならまだしも、蜂たちは完全に戦闘態勢入ってるからなぁ……
さて、どうすりゃいいのかね。
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