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しおりを挟む青い顔色が、真っ白になってきちゃった……この骸骨ジジィ、心の内はもう崩壊寸前だネ。
さぁ、リスクを冒して、もう一押し!
「ふふっ、知ってます? 足が不自由でもビニール紐か何か、ベッドの端にひっかけて体をずらせば首を吊れるンですよ」
「黙れっ!」
怒号と共に、思わずバットを振り上げる。
それが巧妙な取り立て屋の罠である事は、この時、末松も悟っていた。床の間の脇、抜け落ちている警備機器のコンセントが一瞬、視界をよぎったのだ。
おそらく末松への挑発が録音されるのを危惧し、マイクの電源を切る為、小細工を弄したに違いない。
警備・監視機器も停止。
浅子を連れ込んだ際、門と玄関の鍵を開け、そのまんまにしているから、「ご近所」は乱入し放題。
何もかも計算済みだとしたら……
愛嬌のある体形と臆病そうな物腰の裏に、何と狡猾な頭脳を秘めているのだろうか。
怒りと裏腹にこみ上げてくる浅子への恐怖が、暴力へ身を委ねかけた末松に、ほんの少しの冷静さを取り戻させた。
「……お前だろ? お前が敬一の奴を自殺させたんやな」
「は?」
「部屋の同居人に気付かれず、夜中に首を吊るなんて芸当、あいつが一人で思いつく筈無いわ」
「あ~、その事」
ほくそ笑む横顔に純粋な悪意が躍る。
「別にビジネスの後、ターゲットがどうなろうとボク、知ったこっちゃ有りません」
「正直に答えろ!」
「ん~、彼があんまり泣き言を言うモンですから、ボク、便利な自殺の豆知識、レクチャーしましたけど」
「……やっぱり」
「やれ、と言った訳じゃない。法律上の自殺教唆にも該当しない、軽~いアフターケアですね。正直、少し清々しました」
「清々した!?」
「誰だって鬱陶しいでしょ、あの手の負け犬……あぁ、末松さん流に言うと、アンポンタン、ですかね?」
今度こそ我慢の限界を超え、末松は雄叫びを上げて、逃げる浅子の背中を追った。
もう止まらない。腸が煮えくり返り、一度解放してしまった憤怒の奔流にブレーキなんか効かない。
良い様に弄ばれた息子の為、せめて一矢報いようと、末松は腹を決めたかに見えた。
「おら、待たんか!」
「ひょえっ!?」
浅子の悲鳴は相変わらず弱々しく響き、同時に極めて大袈裟で、何処かしら芝居がかっている。
スマホを握ったままだから、自分に都合の良い部分だけ音声記録を残そうとしているのかもしれない。
「……沈めたる、地獄の底へ」
力一杯振り回したバットの端が浅子の額を掠め、縦に細長い傷を作った。
そこから吹き出す血の滴が目に入ったらしい。
片手で目頭を抑えたまま、メタボ気味の体が古いテーブルの上へ倒れ、ジタバタもがく内に脚が折れて大きな音を立てる。
「な……何、モタモタしてンですか、三好のおばちゃん……早く来てくれないと、ボク、もしかして本当に……」
「もしかせんでも、キッチリ息の根、止めちゃるわい!」
スマホを握った浅子の指が蠢く。
「お、今の声、録音したな」
「あ……わかります?」
「息の根を止めるって辺り、後で警察に聞かせる気やろ、え?」
「ふふ、御名答」
「なら、これはどや?」
末松は浅子が言い終えるより早く、その手中にあるスマホへバットの先端を垂直に押し付け、掌の骨ごと潰れる音がするまで体重を載せた。
グキッ……
今度は芝居っ気無しの悲鳴が上がる。駆け引きの余地など無い単純な暴力が浅子の余裕を奪い、口元の冷笑を剥ぎ取っている。
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