緋の残像 伝説の殺人鬼が恋人の心の奥で蘇る

ちみあくた

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虚ろなる羊の内に 4

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 一方、隣の研究室でも一つの結論が出つつある。

「う~っ、やっぱ、あんばい悪いっちゃ!」

「出たっ、ネィティブ訛り」

 余計なツッコミをする正雄へ苛立ちの視線を投げる余力も、文恵には残っていない。

 三つのパスワードを再構成したり、他のポップアップ・スイッチを探してみたが、全て空振り。
 
 一時間近く悪戦苦闘し、午後十時も半ばを過ぎた頃、文恵は匙を投げた。

 臨が申し訳なさそうに彼女の肩を揉みだした時、診察室から晶子と守人が出てくる。
 
「あ、お邪魔してます」

「俺ら、臨ちゃんの助っ人なんで、お気になさらず。それと高槻、お前、もうちょい講義へ顔出せや」

 毎度騒がしい正雄に守人は肩を竦め、晶子は「薄気味悪いサイトね」と呟きながらパソコンの液晶画面を覗き込む。

「アレ、じゃないんだね」

 及び腰で『隅 心療内科』の表示を見る守人は意外そうな顔をした。

 アレ、というのは『タナトスの使徒』HPの事だろう。深夜に自室で見た惨い動画がトラウマになっているらしい。
 
「アレはうまく開けなくて、弄ってたらコッチへ来ちゃった」

 臨の言葉に続き、文恵が晶子へ訊ねる。

「あの、先生、サイトの背景に絵が沢山飾られてるんです。見て、何かお気づきになる点はありませんか?」

「奥の大きな額が気になるわね。まっ黒に塗り潰した感じが意味深だわ。それに他の額縁に比べて、縦横の比率が独特」

「横幅が妙に長いんですよね。それ以外の絵については?」

「う~ん……私、芸術系は苦手なのよ。好きな物以外ど~でも良いって言うか、およそ目に入らないタイプで」

「あ、見るからに、そんな感じ」

 相変わらず無粋なツッコミをする正雄を、「えぇい、不埒なっ!」と文恵が軽~く引っ叩く。

 晶子が吹き出し、守人も硬い表情を崩した。

 若干戻ってきた和やかな雰囲気に、臨はほっとした顔で、文恵に代わりデスク前の椅子に座る。

「埒が明かないから一旦、飛ばされる前のサイトに戻ろうか」

 戻るリンクは無い為、改めてブラウザを起動。いつもの面倒なプロセスを経て、表サイト版『タナトスの使徒』のコンテンツを表示させようとするが……

「うわっ!」

「や、ヤバい奴やん、コレ!?」

 皆が一斉に声を上げた。

 『タナトスの使徒』に繋がったのは良いが、不気味なメニュー画面の代りにオンラインライブの動画ウィンドウが開き、正雄でさえ息を呑む「ヤバい」映像が流れている。

 それも犯罪を扱う類のヤバさではない。ハードロックの音楽に乗り、裸の男女が絡み合うアダルトサイト顔負けの濡れ場だ。

 過激なダンス・パフォーマンスのつもりだろうか?

 何処かに固定されたカメラで隠し撮りしているらしく、女の方は撮影を意識していない。男はチラチラ振返っているから、この盗撮配信の仕掛け人なのだろう。

 全身へ奇妙なメイクを施し、顔が画面へ映り難いアングルを保っているものの、垣間見える男の容貌に若干の既視感がある。

 臨、守人、文恵、正雄、それに晶子まで画面に食い入り、
 
「あ、この人!?」

 最初に晶子が驚愕の声を上げた。

「私の講義を邪魔した闖入者にそっくりだわ」

「あ、確かに」

「スマホで写真、撮りまくってた奴よね」

 記憶を辿り、正雄、文恵が相槌を打つ。

「講堂のガードマンが追いかけて、結局逃げられたって言う報告を受けていたの。で、その後……」

 臨と守人が顔を見合わせた。

「ええ、僕と能代さんの前に現れ、メモを残していった奴に間違いありません」

「あたし達、身近であいつの顔を見てますし」

 と言いつつ、臨は頬を赤らめ、目を伏せている。

 お年頃の女性には露骨過ぎる営みの類が繰り広げられており、正視するのは憚られるらしい。舐める様に鑑賞しているのは正雄だけだ。

「つまり、このエロオヤジは自分が裏サイトの情報を管理するだけじゃなく、サイトのコンテンツに直接関わっている訳か」

「何せ、出演までしちゃってる位だもんねぇ」

「手がかりがあるかもしれんゾ。コリャ最後まで見とかんと」

「あのね……太閤さん、目的が不純に見えるんですけど」

 シニカルな口調で語りつつ、文恵はパソコンにインストールしてある画像の記録ソフトを素早く作動させた。

 『タナトスの使徒』の動画には録画を拒む何かの仕組みが施されているらしいのだが、ストリーミングで流す動画の一部なら工夫次第でキャプチャできるのでは、と思いついたのだ。
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