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CURTAIN CALL 2
しおりを挟む「俺と五十嵐さんが話し合い、独自調査の続行を決めた点は二つ、一つは高槻守人についてだ」
「あ~、そうですね。二つの人格がどうこうって、俺もピンと来てないンす」
「本来の人格と隅に育まれた人格が統合され、今の彼を作っていると言う点では、わしは納得しとるよ」
五十嵐が話に割り込んだ。
「とは言え、隅がやろうとしていたのは詰まる所、ごく平凡な少年をサイコパスに作り変える実験だ。それがどこまで進み、どういう結果を生んだか、未だよう判らん。何しろ、自首してからの高槻にゃ凶暴性の欠片もないからの」
「それ、シンプルに実験失敗! じゃないンすか?」
「ん~、どうかなぁ? 例えばコレなんか、笠松君、どう思う?」
富岡が付けていたエプロンを取り、無地のTシャツをはだけて、左胸に残った傷跡を見せる。
ちゃんと塞がってはいるものの、抜糸の後が生々しい。見ていて気持ちの良いものではなく、笠松はさり気なく目を逸らした。
「高槻が富岡さんを小学校の講堂で刺して見せたのは、来栖晶子を騙して爆弾のスイッチを取上げる為だったんでしょ?」
「まぁ、一応、そういう事になってる」
一応、という言葉を吐く時、富岡は苦い表情を浮かべた。
「あの時……来栖に拳銃を向けた俺の背後へ高槻が忍び寄ってきた時、左胸へメスを突き立てながら、あいつは俺の耳元へ囁いたんだ、大丈夫、と」
「刺しといて、大丈夫も無いもんだ」
「チラリと来栖晶子が握っているスイッチボックスの方へ、あいつは目くばせした。その時、俺があいつを信用したのは、他に選択肢が無かったせいでもあるが」
富岡は再び、自分の左胸の傷跡を指した。
「この傷跡、幾つに見える?」
「一つだけでしょ。決まってるじゃないスか」
「いや、ここには本来、二つの傷跡がある筈なんだ。十年以上前の古傷と、二月前に刺されたばかりの傷と」
笠松は怪訝そうに傷跡を覗き込んだが、どうみても傷は一つにしか見えない。
「つまり二つの傷は重なっている。隅亮二にやられた以前の傷とそっくり同じ位置、寸分たがわぬ角度で高槻はメスを突き立てた」
「偶然……じゃ、ありませんよね」
「宝くじ並みに低い確率だと思うよ、それ」
「狙ったって事ですか?」
「しかも急所を外していると俺に伝え、来栖からスイッチを奪うまで動くな、と仄めかした。実際に奴はその段取りで動いたから俺達は助かった訳だが、後になってつくづく俺は高槻が恐ろしくなった」
「いや~、ホントに狙ったんだとしたら凄い技術っすね」
「なら、わしの傷も見てみるか、若造」
話に割り込みざま、五十嵐もグレイのポロシャツをたくし上げ、訝し気な笠松の方へ左胸を晒した。
これまた、あまり見たい光景ではない。
包帯が取れたばかりでまだ生々しい傷痕へ笠松が渋々目を向けると、意外な事に気付かされた。
同じ凶器=古いメスに依る物とは言え、傷の位置、形、角度、そしておそらく深さまでが富岡と似ている……いや、そっくり同じに思えるのだ。
「あ……」
「意図的だよ。三度も続けば、間違いないさ」
富岡の言葉に笠松も頷かざるを得ない。
「高槻は、別人格で行動している間、隅と来栖晶子に育てられたと言う。だが、それであそこまで隅の個人的スキルを、外科医としての技術まで含め、会得できてしまうものだろうか?」
「はは……まさか、富岡さん、本当に隅の魂が高槻守人の中で蘇ったなんて言わないでしょうね」
「そりゃ、俺もあり得んと思うが、ね」
「不気味なのは確かじゃろ?」
「ええ」
「わしゃ暫く、あいつの身辺を富岡と交互に見張ろうかと思うのよ。どうせ富岡は長期謹慎中。当分の間、職場へ戻れんじゃろうし」
「あ、俺、今の話、全部聞いてない事にします。頼むからこれ以上、巻き込まないで下さい」
「その口上、何度目かな、君?」
富岡の軽口を聞き流し、五十嵐は猪口の酒を飲み干して、笠松へ言った。
「そして、もう一つの調査続行を決めた理由、こいつがなぁ、お前に聞かせたものか、どうか」
「……そこまで言われたら、気になるじゃないスか」
「巻き込まれたくないんだろ?」
富岡にツッコまれ、ポリポリ頭をかきながら、笠松が溜息をつく。
「実はな、マンションをぶっ飛ばされる前、わしが方々飛び回って掴んだ飛び切りのネタなんだがな」
五十嵐の思わせぶりな口調に笠松は緊張し、唾を呑み込んだ。
酷く嫌な予感がする。
聞かないで、今すぐ部屋から逃げ出した方が利口なのだろう。だが、刑事としての使命感が、いや、ずっと持て余して来た胸のつかえがそれを許さない。
「……教えて下さい」
「引き返せなくなるかもよ」
「構いません」
富岡は小さく頷く。
「今回の事件の真犯人について、さ」
笠松は一瞬、富岡の言葉がまともに受け止められなかった。
隅亮二の遺志を継ぐ来栖晶子がネットで募った仲間を利用し、起こした殺人実験。二か月前に事件の評価はそう定まり、世間も納得、忘れかけているのに……
何か、別の解釈がありうるのだろうか?
晶子以外の真犯人なんて、今更!?
笠松は口をポカンと開けたまま、次の言葉を待ったが、富岡は憂鬱そうな面持ちでしばらく沈黙していた。
五十嵐も何も言わない。
窓の外に広がる青空と裏腹に、暗い闇の領域が再び広がり始め、晴れたと思った世界を覆いつくす様に笠松には感じられた。
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