世界を変える女

momo

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第一章

第5話 清洲城の経済軍師

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 静寂が広間を包んでいた。

 織田信長おだ のぶながが言い放った言葉――

「今日より織田家に仕えよ」

 その一言は、まるで雷のように家臣たちの耳を打った。

 広間に居並ぶ武将たちが顔を見合わせる。

 ざわめきが広がる。

「殿……」

「女ですぞ」

「しかも素性も知れぬ」

 年配の家臣の一人が前へ出た。

 厳しい顔をした武将だ。

 柴田勝家しばた かついえである。

「殿」

「この者、妖術使いの類かもしれませぬ」

 確かに。

 部屋に積み上げられた米俵。

 つい先ほどまで何もなかった場所に突然現れたものだ。

 常識では説明できない。

 だが――

 織田信長おだ のぶながは笑った。

「だからどうした」

 その一言で場が静まる。

 信長のぶながは米俵を蹴った。

 どすん、と重い音。

 本物の米だ。

「妖術でもよい」

「奇跡でもよい」

 信長は言う。

「使えるなら使う」

 それが彼の流儀だった。

 柴田勝家しばた かついえは黙り込んだ。

 すると今度は別の武将が口を開く。

 知的な顔立ちの男。

 丹羽長秀にわ ながひでである。

「殿」

「もしこの者の申す通り、国の収入を増やせるなら……」

「それは確かに大きな力となりましょう」

 信長のぶながは頷いた。

「そういうことだ」

 そして。

 望月梓もちづき あずさを見た。

「女」

「名は何と言った」

望月梓もちづき あずさでございます」

「長い」

 信長は言う。

あずさでよい」

 唐突だった。

 だがそれが信長のぶながだ。

あずさ

「おぬし、国を豊かにできると言ったな」

「はい」

「ならば見せてみよ」

 信長の目が鋭く光る。

「どうやってだ」

 あずさは少し考えた。

 証券会社で鍛えた思考。

 そして歴史オタクとしての知識。

 この男には――

 **理屈より結果だ。**

 あずさは言った。

「三つあります」

 家臣たちが耳を傾ける。

「まず一つ」

 あずさは言う。

「市場の開放です」

「市場?」

 丹羽長秀にわ ながひでが反応する。

「はい」

「今の尾張国おわりのくにでは、商人が自由に商売できません」

 この時代。

 多くの城下町では商売の権利が制限されている。

 座。

 特定の商人だけが独占する制度だ。

「それを撤廃します」

 ざわめき。

「誰でも商売できる町にする」

「商人が集まり」

「物が集まり」

「金が動く」

 あずさは言った。

「これを」

楽市楽座らくいちらくざと呼びます」

 その言葉に信長のぶながの目が光った。

 彼は小さく笑う。

「ほう」

 信長のぶながはこういう発想が好きだった。

 常識を壊すもの。

 それこそが革新だからだ。

「続けよ」

「二つ目」

 あずさは言う。

「物流です」

「道を整えます」

「橋を架けます」

「荷車を増やします」

「商人が移動しやすくします」

 物流。

 現代では当たり前の概念。

 だが戦国時代ではまだ未発達だ。

「すると」

「米」

「塩」

「鉄」

「布」

 すべての流通が増える。

 つまり――

「税収が増えます」

 家臣たちが顔を見合わせた。

 理屈としてはわかる。

 だが。

 実行する発想が今までなかった。

 信長のぶながは興味深そうに聞いている。

「三つ目」

 あずさは言った。

「金融です」

「きんゆう?」

 柴田勝家しばた かついえが眉をひそめる。

「簡単に言えば」

「金の貸し借りです」

「商人に資金を貸す」

「商売が成功したら」

「利子をもらう」

 つまり。

 銀行だ。

「すると」

「商人は大きな商売ができる」

「国は税が増える」

「双方が儲かる」

 信長のぶながは笑った。

「なるほど」

 そして言った。

「戦をするより儲かりそうだな」

 家臣たちが驚いた顔をする。

 だが。

 あずさは知っている。

 織田信長おだ のぶながは合理主義者だ。

 利益になるなら何でもやる。

 信長のぶながは言った。

「よし」

「やってみろ」

 そして家臣たちを見回す。

丹羽長秀にわ ながひで

「はっ」

「こやつを補佐せよ」

「承知」

藤吉郎とうきちろう

「へい!」

「町の商人を集めろ」

「任せてくだせえ!」

 次々と指示が飛ぶ。

 それを見ながらあずさは思った。

(早い……)

 決断が。

 異常なほど早い。

 これが織田信長おだ のぶなが

 戦国最強の革命家。

 信長のぶながは最後に言った。

あずさ

「はい」

「もし失敗したら」

 信長は笑った。

「首だ」

 冗談ではない。

 本気だ。

 だが。

 あずさは微笑んだ。

「大丈夫です」

「必ず成功します」

 証券会社で学んだ。

 市場の動き。

 資本。

 信用。

 それらすべてを使えば――

 この時代の経済など。

 **革命を起こせる。**

 清洲城きよすじょうの外では。

 城下町が広がっていた。

 まだ小さな町。

 だが。

 数年後。

 ここは戦国最大の商業都市へと変わる。

 そして。

 その変化はやがて。

 日本にほん全土を飲み込み。

 世界を震わせる国家へと繋がっていく。

 だがその時。

 あずさはまだ知らなかった。

 未来には。

 さらなる運命が待っていることを。

 美濃国みののくにの戦い。

 桶狭間おけはざまの戦い。

 そして――

 **本能寺。**

 そのすべてに。

 自分が関わることになるとは。

 まだ誰も知らない。
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