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第8話 情報という武器
しおりを挟む1981年、年明け。
昭和56年。
寒気の残る朝、私は新聞の一面を見つめていた。
「建築基準法改正へ」
――来た。
本来の歴史でも、この年に新耐震基準が導入される。
だが私は知っている。
それでも足りなかったことを。
通勤電車の中、私は手帳に走り書きをする。
“次は通信網”
災害時、最も混乱するのは情報不足。
電話回線はすぐにパンクする。
ならば――代替手段。
その日の夜、倉庫。
私はアイテムボックスを開いた。
中から取り出したのは、小型の魔導通信石。
異世界貿易で入手したもの。
鑑定。
【簡易遠距離通信媒体:半径10km】
「……使えない」
1981年の日本で、魔導石は完全にアウトだ。
私は苦笑する。
代わりに思い出す。
未来で普及する携帯電話。
そしてポケットベル。
候補企業。
日本電信電話公社。
まだ民営化前。
1985年にNTTへと変わる。
「ここに流れを作れないかな……」
数日後、田辺との会食。
「また変なこと考えてる顔だな」
「通信関連に投資したいんです」
「電話会社か?」
「はい。将来、個人が持ち歩く時代が来ます」
田辺は豪快に笑う。
「無線機でも持ち歩くのか?」
「いえ、もっと小さくて、誰もが」
未来を知る者の言葉は、どうしても荒唐無稽に聞こえる。
だから私は、現実的な理由を添える。
「災害時の通信確保は、国家課題になります」
田辺は黙る。
「……それは否定できん」
春。
私の防災事業は十社に拡大。
わずかな黒字。
証券の収益も安定。
だが同時に、違和感が増していた。
ある日、証券会社の上司が言う。
「最近、銀行の融資姿勢が変わった気がするな」
本来より、やや慎重。
私は胸がざわつく。
私が“崩壊”を匂わせた影響?
その夜、夢を見る。
震災の街。
だが以前より火災が少ない。
救急車の到着が早い。
「……備蓄?」
目覚めた私は、涙がにじむのを感じた。
完全には防げない。
だが、軽減できる。
私は新たな構想を書き始める。
“地域防災ネットワーク構想”
企業だけでなく、町内会単位での備蓄。
簡易無線機の導入。
候補企業の一つ。
三菱電機。
通信機器に強い。
まずは小規模から。
私は町内会長の家を訪ねた。
「若いのに感心だねぇ」
最初は怪訝な顔だったが、オイルショックの話を持ち出すと態度が変わる。
「確かに、備えはあった方がいい」
数か月後、町内会での簡易備蓄が始まった。
倉庫の一角に積まれる段ボール。
1981年夏。
新耐震基準が正式施行。
私は新聞を握りしめる。
「間に合った……」
だが未来の映像は、まだ消えない。
高速道路の一部は崩れたまま。
完全な改変ではない。
“緩和”。
ある夜、鑑定スキルを試す。
【未来改変進行度:27%】
「まだ三割にも届かない」
道は長い。
昭和の街は、バブルの足音をまだ小さく響かせている。
ディスコ、ブランド、輸入車。
浮かれ始めた空気。
私はその流れに逆らわない。
ただ、裏で土台を強くする。
倉庫の鍵を閉める。
冷たい金属の感触。
「情報は武器になる」
未来では、SNSが人を救い、同時に混乱も生んだ。
今はまだ紙と電話の時代。
だが種は蒔ける。
夜空を見上げる。
昭和56年の星。
私は二十歳。
中身は四十歳。
もう孤独ではない。
この時代で、生きている。
未来を完全に変えられなくてもいい。
被害を減らせれば。
救える命が増えれば。
私は静かに、次の一手を考えた。
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