『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo

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第9話 泡立つ兆し

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 1982年、春。

 街には明るい色のスーツが増え、景気の上向きを肌で感じる人が多くなってきた。

 証券会社の店内も活気づいている。

「真理ちゃん、この銘柄どう思う?」

 常連客が身を乗り出す。

 私は資料をめくりながら、慎重に答える。

「短期では上がる可能性があります。ただ、借入比率の高い企業は注意した方がいいです」

「また慎重論か」

 笑われる。

 けれど私は引かない。

 未来では、過剰債務が多くの企業を沈めた。

 

 

 昼休み、私はノートを開く。

 “バブル兆候チェック”

 ・土地価格上昇率
 ・銀行融資総額
 ・企業の自己資本比率

 数字を追う。

 まだ本格的な狂騒ではない。

 だが泡は確実に膨らみ始めている。

 

 

 夜、倉庫。

 備蓄契約は十五社に増えた。

 町内会も三地区に拡大。

 小さいが確実な前進。

 

 私はアイテムボックスを開き、水を補充する。

 時間停止の恩恵で、常に新鮮。

 

「もし1995年が来ても……」

 守れる人が増えているはず。

 

 

 そのとき、鑑定スキルが自動発動した。

【歴史干渉レベル:中→高へ上昇】

 

 背筋が冷える。

 

「……何が起きたの?」

 

 翌日、新聞の経済欄。

 「地方銀行、融資基準の見直し検討」

 本来より、やや保守的な動き。

 

 私は理解する。

 私の“崩壊可能性”の発言が、じわじわと伝播している。

 田辺経由で、業界内に。

 

 

 夕方、田辺から呼び出し。

「お前、どこまで見えてる?」

 開口一番。

「未来は分かりません。ただ、熱は必ず冷めます」

 

 田辺は腕を組む。

「最近な、妙に慎重な動きが増えている。お前の影響か?」

 否定できない。

 

「暴落を止めることはできません」

 私は静かに言う。

「でも、致命傷を避けることはできます」

 

 長い沈黙。

 

「……面白い」

 田辺は笑った。

「なら俺も、少し借入を減らす」

 

 それは大きな決断だった。

 

 

 その夜。

 夢を見る。

 1990年代初頭。

 株価暴落。

 だが倒産企業の数が、わずかに少ない。

 

「変わってる……」

 

 完全ではない。

 だが数字が違う。

 

 

 私は涙をこらえる。

 小さな波紋が、未来に届いている。

 

 

 しかし同時に、新たな問題が浮かぶ。

 バブル崩壊が緩やかになれば、逆に長期不況が長引く可能性。

 

「副作用……」

 

 未来改変は単純ではない。

 一つを救えば、別の形で影響が出る。

 

 

 私は机に向かう。

 “次の備え”

 ・失業対策
 ・再就職支援
 ・中小企業向け低利融資モデル

 

 そして、ふと思い出す。

 未来で急成長する企業。

 ITの芽。

 

 1982年。

 まだ早い。

 だが種はある。

 

 たとえば、半導体。

 候補の一つ。

 東京エレクトロン。

 

「ここは伸びる……」

 

 

 私は少額ながら株を仕込む。

 長期保有。

 未来の基盤産業。

 

 

 夜の街。

 ネオンが揺れる。

 人々は好景気を信じて疑わない。

 

 私はその裏で、静かにバランスを取る。

 

 

 鑑定スキル。

【未来改変進行度:34%】

 

 少し上がった。

 

 

 まだ道は遠い。

 震災、バブル崩壊、不況。

 乗り越えるべき未来は多い。

 

 

 倉庫の扉を閉める。

 金属音が静かに響く。

 

「私は神様じゃない」

 

 すべては救えない。

 だが、できる範囲で最大限。

 

 

 1982年の夜空に、星が瞬く。

 

 泡は膨らみ続ける。

 だがその下で、私は土台を固め続ける。

 
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