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第4話 : 全白の少女
しおりを挟む「デウス家の紋様、何色になると思う?」
「少なくとも黒無しじゃない?あの見た目で黒があったら逆に怖いんだけど」
「全青って噂よ」
好奇心と憧れ、そして嫉妬が入り混じった視線が、測定台の前にいる少女――デウス・エクスマキナに注がれていた
それも当然だった
デウス家は長く社交界から姿を消しながらも、公爵家として絶対的な地位を保ち続けている
その唯一の後継者、しかも歴代で顔が変わらないとも囁かれる存在
平民どころか、貴族たちですら彼女の美貌と背景に圧倒され、無意識に憧れと嫉妬を抱いていた
ついに、測定員が声を発した
「デウス・エクスマキナ様、測定をお願いします」
エクスマキナは無言で台に手を置いた
魔道具が淡く光り、その血統を読み取り、計測結果が投影される
──結果: 全白
その瞬間、広間にいた全員が、己の目を疑った
「全白」という血統は、記録上存在しない
教師たちは騒然とし、測定員たちは顔を見合わせ、次の瞬間には魔道具を取り囲んで故障個所を探し始めた
だが、エクスマキナの顔は微動だにしない。ただ、結果を見つめるだけだった
教養のある者ほど、その“異常”に心当たりがあった。
世界史に語られる四人の王――中でも唯一、子を成さなかったとされる『賢者の王』
だが、もし本当に子を成さなかったのなら、どうしてその末裔を名乗るデウス家が存在するのか?
デウス家は、代々「賢者の王の末裔」と称してきた
そして今、誰も見たことがない“全白”という結果を出した少女が、その家の当主である
──すべてが繋がり始めた。
測定員が制服を渡すと、エクスマキナはそれを受け取る
その瞬間、制服が淡く光を放ち、まるで意志を持ったかのように変形していく
白を基調としたデザイン、純白の生地に白銀の縁取り――エクスマキナ、ただ一人のために仕立てられた特注の制服だった
それが魔法なのか、測定魔道具の自動機能なのか、誰にも分からなかった
だが、伯爵以上の地位を持つ者には制服のカスタマイズの権限が与えられている
校則的にもなんら問題は無い、文句を言える者など、誰一人としていなかった
エクスマキナは制服を整えると、そのままアノセウスの元へ向かおうと歩みを始めた
しかし、その視線の先にもう一人の人物が現れる。今度は、“正統の王族”として知られる存在――第一王子、アルフレッド・ダークフレイムだった
彼がまっすぐエクスマキナのもとへ歩いてくるのを確認し、彼女は一歩手前で静かに立ち止まった
一方アノセウスはというと、広間の床にうつ伏せで倒れていた
だが、苦しんでいるわけではない。
彼は口元を石畳に押し付け、「(この地面の石デッカイな…)」とでも言い出しそうな顔で地面をぺろぺろぺろぺろ舐めていた
その様子はあまりにも滑稽で、見る者に「知能の低さ」「教養の無さ」を直感的に印象づけるほどだった
そんなアノセウスをチラリと見て、エクスマキナはほんのわずかにまばたきをした。
──(アノセウス様に対する情報の更新が必要ですね)
心のなかでそう呟くと、視線をアルフレッドへと向け直す。
「連れてきた奴隷といい、見たことのない血の特徴といい。ここまで賑わった特徴測定は帝国史上初じゃないか?エクスマキナ」
アルフレッド・ダークフレイム
帝国第一王子にして、正妃の嫡男。魔法と武の才を兼ね備え、民衆からも将来を期待される才子
その完璧な青年が、どこか楽しげに声をかけてきた。
その姿勢は柔らかく、口調もフランク
だが、その裏に潜む計算や政治的視線をエクマキナは見逃さない
王族の中でもとびきり“有能”である彼は、ただの挨拶一つにさえ意味を込める
「アルフレッド・ダークフレイム殿下、貴重なお言葉、感謝いたします」
エクスマキナは無表情のまま、機械的な完璧な礼節で応えた
「そんなかしこまらなくていい。学園ではただの先輩と後輩だ」
笑顔を保ったまま、彼は手を差し出す
「それに――お前にはぜひ生徒会に入ってほしい」
ただの先輩と後輩と言いながらも、その手には柔らかな圧力が宿っていた
学生という立場ながら政治の最前線に身を置く彼にとって、派閥づくりは当然のこと。むしろ『楽しい学園生活』の為には必須なのだ
ただ、その笑顔の奥にある陰――“素直に学園生活を楽しめない少年”の影を感じずにはいられなかった…しかし
「お誘いいただきありがとうございます。ただ、私にはやるべきことがございますので、お断りさせていただきます」
「やるべきこと……?」
アルフレッドの声が少し低くなる。
「なぁ、デウス家って、これまで何してきたんだ?何を目指してるんだ?」
彼の疑念は当然だった
公爵という地位に固執しながらも、何かを企てるわけでもなく、社交にも政治にも関与せず――何世代も“何もしない”まま存続しているデウス家
それは帝国にとって“未知の不気味さ”だった。
そして、目の前の少女が“全白”…賢者の王の末裔であるという事実
それは、不安定な帝国の均衡を乱しかねない“材料”であり、アルフレッドは自然と警戒を強めていた
「ただ、待っていただけです」
エクスマキナの返答はあまりにも静かで、空気の揺れすら感じさせなかった。
「待ってたって……何を?」
「――『愚者の王』、アノセウス様をです」
その一言が、重く、広間に落ちた。
空気が硬直する。
それほどまでに、その名には“重さ”がある。
「はははははっ!」
一拍置いて、アルフレッドは思わず笑い出してしまった。
「何を言うかと思えば……あの伝説のアノセウス? まさか、あの床舐めてる奴がか?随分と面白いことを言うな」
アルフレッドはアノセウスの様子を確認する
「見た目も全然違うし、そもそもアノセウスって、魔法の王に倒されたって話じゃなかったっけ?」
──歴史は、勝者によって作られる。
語り継がれるアノセウスの姿も、そして“最期”も、すでに正確さを失っていた。
誰も、真実を知らない。エクスマキナ以外は
しかし彼女は何も言い返さず、アルフレッドに背を向けるとアノセウスの元へ歩き出した。
「……16時から大講堂で説明会を開く予定だ。伯爵以上の貴族には、特に参加してほしい」
彼の声には、皮肉も、怒気も含まれていなかった。ただ、素直な“確認”だった。
「申し訳ありませんが――お断りさせていただきます」
あっさりと、王族の誘いを断るデウス家の当主
そしてその隣には、全黒の少年。
“愚者”と“賢者”、正反対の象徴の少年と少女に、視線と思惑と――陰謀の影が、複雑に交錯し始めていた。
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