無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

文字の大きさ
23 / 57

公爵令嬢の歓喜

しおりを挟む
 魔力というものを感じ取るには、まず自分も魔力というものを持っている必要がある。
 そのため、エミーリアは正直なところ、魔力というのがどんなものであるのかということをよく理解出来てはいなかった。

 先日目にしたザーラの絶剣ほど強大なものであればさすがに分かるものの、それは単純な力として感じたというだけだ。
 本当の意味で感じることが出来たとは到底言えまい。

 ただ、確実に分かってるのは、魔力というものが自分にとって一方的に不利になる要素だということである。
 それを使われたら最後、自分の攻撃は全てが弾かれるし、防御は全て無意味と化す。

 触れてしまった時点で弾かれてしまうのだから、受け流すことも出来ないのだ。
 きっと一般人が魔獣に挑む以上に、エミーリアとそれ以外の全ての間には高い壁がそびえ立っている。

 だがそれでも、眼前の光景が凄いということだけはさすがに理解出来た。

「……うん、確かに凄い。ここまで硬い防御魔法を見たのは初めてかも」

「……本気で褒めてくれてるってことは分かるんだけど、結構複雑な気分ね。まあ、悪くはないけど」

 イリスとリーゼロッテがそんなことを言い合っているのは、イリスの攻撃をリーゼロッテが防御魔法で防いでみせたからである。
 そう、世界最強である聖剣の乙女の攻撃を、リーゼロッテが防いだのだ。

 それがどれほど凄いことであるのかは、改めて言うまでもあるまい。
 無論本気ではないだろうが、それでも世界最強から放たれた一撃を完璧に防いだのである。
 イリスも本気で感心しているようであり、リーゼロッテもそれが分かっているのか、悪くはないなどと言いつつもそれなりに機嫌がよさそうであった。

 が、どうしてそんなことになったのかと言えば、理由は二つある。
 一つは、イリスを除く四人は昨日の手合わせでそれぞれの実力というものを目にしたが、イリスだけはそうではないということ。
 手っ取り早く実力を示すため、とりあえずはということで、リーゼロッテへとイリスが攻撃を仕掛けてみることになったのだ。

 しかしそれは、二つ目の理由へと繋がる前座のようなものでもある。
 聖剣の乙女を前座に使うとか恐れ多くすらあるが、そのおかげでリーゼロッテの防御魔法がどれだけ優れているのかということも分かった。

 で、その上で、レオンが先ほど言っていたことを実践してみせることとなったのだ。
 魔力を使うことなく、世界最強の一撃すら防いだ防御魔法を突破してみせる、と。

 これならば手っ取り早く理解出来るだろうとはレオンの言葉ではあるが……確かに、分かりやすくはあった。
 エミーリア自身は魔力を感じ取ることは出来ないが、それは他の三人がしっかり見極めることだろう。

 ザーラは楽しげに、イリスはどことなく興味深げに、そしてリーゼロッテはエミーリア同様真剣な目でレオンの姿を見つめている。
 それぞれ思っていることは異なるだろうが、それでもレオンの一挙手一投足を見逃すまいと注視しているのは確かだ。
 レオンが本当に魔力を使わないのかどうかは、しっかり見極めてくれるに違いない。

 エミーリア自身も固唾を呑みながら真剣な瞳を向け、レオンはそんな中を気軽な様子でリーゼロッテの前へと歩いていく。

「さて、それじゃあ今度は僕の番なわけだけど……準備はいい?」

「ええ、見ての通りよ。正直何をしようとしてるのかは興味深くはあるけれど……だからこそ、本気でやらせてもらうわよ?」

「うん、もちろんそうじゃなくちゃ意味がないからね。――じゃ、いくよ?」

 そう告げると、レオンはさらにリーゼロッテとの距離をつめた。
 無造作に、まるで握手をするために近寄るが如く、歩を進める。

 その姿は無防備にもほどがあり、だがリーゼロッテは警戒を緩めることはない。
 しっかりと盾を構え、エミーリアの目にも映る淡い光の結界がその周囲を包んでいる。

 まるでエミーリアとその他の全てとの壁を示すそうなそれに、レオンはやはり無造作に手を伸ばし――

「――崩拳」

 触れ、呟いた、瞬間のことであった。

 まるでガラスが割れたかのような音と共に、光の結界が砕け散ったのだ。
 さらにはそれだけでは済まず、ほぼ同時にリーゼロッテの身体が後方へと吹き飛ぶ。

 そうは言っても、ほんの二、三メートルほどのものではあったが、リーゼロッテはまともに受身を取ることも出来ず、そのまま尻餅をついてしまう。
 だが何よりも印象的だったのは、そんなことはどうでもいいとでも言わんばかりのリーゼロッテの顔であった。
 愕然とした、有り得ないものを目にしたような表情を浮かべていたのだ。

 正直なところ、あまりにも呆気なく、派手さの欠片もない光景に、エミーリアは一瞬やらせか何かではないかと思ったほどであった。
 しかしそうではないのだと分かったのは、リーゼロッテのその顔と、あとは他の二人の顔もである。
 ザーラはより楽しそうに笑みを深め、イリスは目を細めるとそれまでになかったほど真剣な様子でレオンのことを見つめていたからだ。

 本当にレオンは魔力を使うことなく、魔法を打ち砕き、魔力を打ち抜いたのだと理解するには、十分であった。

「とまあ、こんなところかな」

「はっ……なるほどな。こうして外から見るとさらによく分かるな……つーか、お前今魔力まったく纏ってなくねえか? オレ達はまず初めに戦闘を意識したら反射的に魔力を纏うように叩き込まれるはずだが」

「ええ、まあ、昨日魔力を纏わないで戦闘を行うっていう手本をじっくり見ることが出来たので。あの後色々と試して、何とかこのぐらいは出来るようになりました。さすがに本格的に戦闘に移行したらまだ反射的に魔力を纏ってしまうとは思いますが」

「……本当に魔力を全然使ってないように見えた。でも防御魔法が砕け、魔力を纏っているにもかかわらず吹き飛ばされた。……何をしたの?」

「だから、言った通りのことだよ。僕は魔力をまったく使わずに、リーゼロッテの防御魔法を砕き、その身体を吹き飛ばしたってわけ。ああ、ちなみにもちろんだけど、武器を使っても同じようなことは出来るよ? 拳を使ったのはリーゼロッテを不必要に怪我させないためだからね。下手に武器使っちゃったら、あの盾も無意味に壊しちゃいそうだったし」

 その言葉は軽い調子で口にされたが……いや、軽い調子だからこそ、真実なのだろうと思えた。
 実際今の光景を目にしてしまえば、否定することなど出来るわけがない。

 そして、何よりも重要なことは、他にある。
 ごくりと、緊張から思わず唾を飲み込んだ。

「……今のを、わたくしに教えていただけますの?」

 一方的にやられるしかなかったはずの自分に、今のと同じようなことが出来るようになるのか。
 自分でも今自分がどんな感情を抱いているのか分からないまま、僅かに震える身体を掻き抱くようにしているエミーリアへと、レオンは笑みを浮かべ頷いた。

「うん、さっきも言ったようにね。まあ、使えるようになるかは断言できないんだけど……正直そこはあまり心配してないかな。そこまで身体能力を鍛え上げられたなら問題はないだろうし、何よりも君達は努力を積み上げることの出来る人物だって、昨日分かったからね」

 その言葉に何故かさらに身体が震え……そこに割り込むように、言葉が挟まれた。

「達、ってことは……もちろんあたしにも教えてくれるんでしょうね?」

 愕然としたまましばし動きを止めていたリーゼロッテは、いつの間にか立ち上がっており、怖いぐらい真剣な瞳でレオンのことをみつめている。
 しかしそんな様子に怯むこともなく、レオンはやはりあっさりと頷いた。

「拒否する理由がないしね。まあただ、正直リーゼロッテに関してはちょっと迷ってもいるかな。教えるのはいいんだけど、何を教えるのがいいかなって。どうせならそこまで鍛え上げた防御魔法を活かせた方がいいだろうしね」

「別に気を使う必要はないわよ?」

「最初からそのつもりだけど? 別に気を使ってるわけじゃなくて、純粋に勿体無いって思っただけだしね。どうせなら無駄にしない方がいいに決まってるし」

「……そ。ならいいわ」

 そっけなくそんなことを言うリーゼロッテではあるが、その口元がほんの少しだけ緩んでいるのをエミーリアは見逃さなかった。

 とはいえ、気持ちは分かる。
 自分達の努力が、何よりもその結果得られたものに意味はあると認められたようなものなのだ。
 別にそのために努力を続けてきたわけではないけれど……それでも、やっぱり認められるのは嬉しいのである。

 と、そこでエミーリアは、ようやく気付いた。
 自分の身体が震えているのは、歓喜が理由か、と。

 いつかそうしてみたいと……そうしてみせると。
 思い描いていたことが実現出来そうなことに、心が喜んでいるのだ。

 だが、それを自覚したからこそ、エミーリアはそれを抑え込む。
 まだ可能性が提示されただけに過ぎないのだし……何よりも、本来そんなことは出来て当たり前のことなのだ。
 そもそもだから目指したのでもあり、いちいち喜ぶようなことでもない。

 しかし、そうは思っても、完全に抑えきることは出来ず、エミーリアの口元には僅かな笑みが浮かんでいるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...