無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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模擬戦

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 模擬戦と聞き反射的に身体が強張ってしまったことに、エミーリアは不甲斐なさを感じていた。
 それは貴族として相応しいものではなく、またこれまでに積み上げてきた努力を自ら否定するようなものだと思ったからだ。

 だがエミーリアが何を考えているのかなどは知ったことではないとばかりに、交流会という名の模擬戦は行われていく。
 ……まあ、それを模擬戦と言っていいのならば、の話ではあるが。

「んー……なるほど。何で交流会なんて名前を付けてまでこんなことをするんだろうと思ったけど……要するにこれは、立場を明確に突きつけるためのもの、ってことかな?」

「みたいね。学院に多少慣れた頃に、しかもわざわざ授業中にやるのも納得ってものだわ」

「ええ……クラス間の格差を示すのと同時に、騎士を目指すのであればあの程度は出来なければならないと思い知らせるためのものでもあるわけですわね」

 レオンとリーゼロッテの会話に同意を示しながら、エミーリアは眼下の光景に目を細める。
 模擬戦という名の、実質的にはただの蹂躙であるそれに、だ。

 この訓練場も、普段エミーリア達が使っているそれと同じように観覧席がある。
 模擬戦を行わない者達はそこで模擬戦を観戦することになっており、エミーリア達もまたそこで観戦していた。

 そして訓練場の上にいるのは、二組に分けられた者達だ。
 いや……より正確に言うならば、一人からなる一組と二十人からなる一組と言うべきか。

 圧倒的な人数差。
 普通に考えて戦いになどなるわけがなく、そこで行われているのは先も述べたようにまさに蹂躙だ。

 ただし、蹂躙されているのは二十人の方であったが。

「怪我は癒され体力も十分、やる気はむしろ漲ってるだろうに……思い知らされすぎて心折れちゃうんじゃないかな?」

「その時はその時で構わない、ってことなんじゃない? この学院はあくまで騎士となる者を排出するための場所だもの。あたし達はここで鍛え学ぶことは出来るけど、所詮それは建前。この程度で心が折れて上を目指すのを諦めるようならそこまで、ってことなんでしょ」

「まあ、それ自体は理解出来ることではありますわ。実際この程度で心が折れてしまうような方は騎士に相応しくはありませんでしょうし。それよりも……わたくしはやはり彼女・・の方が気になりますわね」

 新入生の交流会である以上は、当然と言うべきか現在戦っている者達は同じ新入生である。
 そして蹂躙されているのはBクラスの者達であり、蹂躙しているのはAクラスの者であった。
 格差であり立場というのは、そういう意味だ。

 だが本来ならば、BクラスとAクラスの間にここまでの差はない。
 実際これはAクラスとBクラスの間で行われる三度目の模擬戦なのだが、一戦目はAクラス側は十人、二戦目は九人と、ほぼ半分の人数ながらその結果は辛勝といったものであった。

 力の差は確かにあるものの、もう一度やれば勝てるかもしれない。
 傍目にもそんなことが感じられ、Bクラスの者達のやる気を漲らせるぐらいの接戦を演じることは出来ており……そこで出てきたのが彼女だったのだ。

 三戦目とはいえ、相手側は一人。
 これを提示されたBクラスの者達は、相手が誰であるのかを知りながらも憤り、やる気をさらに漲らせ……それでも、その結果はこれであった。

「さすがは成人に至る前だというのに公爵家の当主を継ぐことを認められただけはありますわね……」

「学院に一年早く入ることを認められたってことは、ある意味では聖剣の乙女と同格の評価をされたってことだものね。入学試験では彼女も魔獣を倒したって話だし、当然と言えば当然かしら」

 ユーリア・ヘルツォーク・フォン・ハーヴェイ。
 レオンの元妹であるあの少女とエミーリアは先ほども述べたようにあまり面識はない。

 ただそれは、エミーリアに限った話ではなかった。
 ハーヴェイ家の次期当主候補であった頃から、ユーリアは人前に出てくる事自体があまりなかったからだ。

 参加するパーティーは必要最低限で、参加する時間も必要最低限。
 参加者達に一通り挨拶はするものの、すぐパーティーを去ってしまう。

 その態度を傲慢だと、調子に乗っていると陰口を叩かれるのは毎度のことで、妾の娘の分際でという言葉を耳にした回数は既に覚えていない。
 エミーリアもパーティーにはあまり積極的に参加する方ではなかったが、それでもそれなのだ。
 実際にはどれほどの悪評が立っていたのかを考えれば、当事者ではないエミーリアも思わず溜息を吐き出したくなるほどである。

 しかしそんな彼女は、決して貴族としての責務を投げ出していたわけではないのだ。
 いや……むしろあるいは、誰よりもその責務を遂行しようとしていたのかもしれない。
 眼下で繰り広げられている光景は、何よりも雄弁にそのことを告げていた。

 Bクラスの者達から一斉に攻撃魔法が飛び交い、だがその全てをユーリアはあっさりと消し飛ばす。
 ついでとばかりの彼女達の防御が紙切れのように切り裂かれ、吹き飛んだ。

 圧倒的な力に、絶望的なまでの差。
 これまでに何度も繰り返されているそれは、しかしただの才能の差などではなかった。

 ユーリアが力を振るうたびに感じられるのは、そこに至るまでどれほどのものを積み重ねてきたのかということだ。
 次期公爵家当主となるのが濃厚であるため調子に乗って遊び呆けている?
 馬鹿を言うな。
 果てのない努力の末に手に入れた力であることは、これ以上ないほどに明確であった。

 そしてだからこそ、彼女達の心は折れかねないのでもある。
 ただの才能の差であるならば反発心も湧くし、何クソと思いもするだろう。

 無論彼女に才能がないわけではない。
 だが彼女が体現しているのは、才能が霞むほどの努力だ。

 Bクラスに所属出来るほどの才能を持ち努力も積み重ねてきた彼女達だからこそ、自分達のしてこなかった、そこまですることの出来なかったものが見えてしまい、心が折れかねないのである。

 そんな彼女へとエミーリアが抱くのは、親近感、というものが最も近いだろうか。
 事情はまったく異なるものの、同じく過剰なまでの努力を積み重ねた相手だ。
 もちろん心が折れるようなことはなく、どちらかと言えば心強いと言えるかもしれない。
 自分の思い描く貴族というものの姿がそこにはあったからだ。

 まあもっとも、親近感という意味ならば、自分よりもよほど強く感じている者がいそうではあるが。
 そんなことを考えながら、リーゼロッテの顔を横目で見つめる。

 と、そうしている間に、さすがにBクラスの者達に限界が訪れたようだ。
 吹き飛ばされたきり起き上がることが出来ず、死屍累々といった光景が出来上がっている。
 対してユーリアは汗一つかいている様子もなく、まさに圧倒的であった。

 その光景を前にふとエミーリアが声をかけたのは、ちょっとした好奇心からだ。

「……貴方はこの光景を前に、一体何を思っていますの?」

「うん? んー、そうだなぁ……まあ単純に誇らしいってとこかな」

「申し訳なさとかは少しは感じないわけ?」

「いや、全然? あれは彼女が自ら望んだ果てに手にした力だからね。申し訳なさなんて感じたら、それは彼女に対する侮辱だよ」

「……確かにその通りですわね」

 そんな話をしている間に、眼下では次の模擬戦への準備が粛々と行われていた。
 とは言っても、動けない者達を運び、次に戦う者達が訓練場へと姿を現す、というものであるが。

 ユーリアも引っ込み、だが代わりに現れたのは、見覚えのある者達であった。
 先ほどの一戦目で戦っていたAクラスの者だったからだ。
 ただしその数は八人に減っている。

 これが今回の交流会ということらしかった。
 要するに、Aクラスの者達と他のクラスの者達が模擬戦を行う場なのだ。

 模擬戦であるためになるべく対等に戦うためAクラスにはハンデがあり、それが人数差というわけである。
 今度戦うのはCクラスであるため、八人で十分と判断されたようだ。

 無論Cクラスの者達にも言いたいことはあろうが、抱いた何もかもは直後に一蹴されることとなる。
 先ほどのBクラスとの一戦目はAクラスの辛勝だったが、今度は圧勝だったからだ。
 これでもハンデが足りてないほどだと、明確なまでに示されてしまったのである。

 そのままCクラスも三戦を行ったが、結局結果は変わらず、それは続くDクラスEクラスも同様であった。
 五人三人と人数が減っていったにもかかわらず結果が大差なかったのは、それだけAクラスというものがどういうものなのかということを示すのに十分でもあっただろう。

 エミーリア個人としては、どちらかと言えば悪趣味と思えるようなものであったのだが……そんなことを考えていられる余裕は、すぐになくなってしまった。
 最後として自分達Fクラスの番がやってきたということと――

「うふふ~、先ほど言いましたように、またお会いしましたねえ、エミーリア様ぁ~」

 見知った少女の、粘つくような笑みを前に、エミーリアは思わずぎゅっと拳を握り締めていたのであった。
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