無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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新たな講師

 その場は驚愕に満ちていた。

 Aクラスの者がFクラスの者に負けたということ。
 何が起こったのかを誰も理解出来なかったということ。
 何よりも、それが男だということ。
 その全てが入り混じり引き起こされたものであった。

 以前から騎士科のFクラスに男がいるということは噂になっていたし、その男が入学試験で魔獣を倒したということも噂になっていた。
 だがそんな噂は誰もまともに受け取っていなかったのである。
 実際目にした者でさえ、何か裏があるに違いないと思っていた。

 Fクラスは確かに特別なクラスだ。
 聖剣の乙女が去年から在籍しているという時点でそれは明らかで、しかし今年Fクラスに在籍することになった男以外の二人は騎士になれない無能だったのである。
 ならば、何か理由があって仕方がなく学院に在籍させなければならず、そこで選ばれたのがFクラスなのだろうと、学院の者達の認識はそんなものだったのだ。
 男もその何らかの理由により魔獣を倒せたように振る舞い、そこにいるのだろうと。

 だが、その認識はたった今崩された。
 少なくとも、魔獣を倒したのは本当に実力だったのでは、という疑念が湧き上がっている程度には揺らいでいる。

 非常によくないことであった。

 Fクラスで本当に特別なのは、聖剣の乙女一人だ。
 そうでなくてはならないし、騎士に相応しくないものが学院にいるなど認められるはずもない。
 無能がいるなど以ての外だ。

「……ドサクサに紛れて始末してくれないかと期待したけれど、本当に使えないわねえ。まあ、いいわ。最終的に成功すれば、こっちのものだもの。精々今はそこで偽りの平和を享受していればよろしいですわぁ。……既に次の手は、打ってありますものねえ」

 それはそんな言葉を呟くと、眼下の光景に目を細め、その口元を歪めたのであった。





 無事、と言っていいのか分からないが、交流会が終わってから三日ほどが過ぎた。
 あれによって何かが変わるようなこともなく、レオン達はあの日以前と変わらぬ生活を過ごしている。
 まあつまりは、ひたすら訓練場通いというわけだが。

 ただ、レオン達自身に変化はなくとも、周囲には少しだけ変化があったようだ。
 寮で暮らしたり学院を歩いていれば必然的に他のクラスの者達とすれ違ったりすることもあるものだが、向けられる視線に明らかな変化があったからである。

 あの日以前は酷ければ蔑むようなものも多く、よくても無関心だったのに対し、今ではよく好奇心に満ちた目が向けられるのだ。
 今のところ話しかけられるほどではないものの、そのうち何かを尋ねられるようになるかもしれない。

 まだ話しかけられていないのは、何を尋ねればいいのかが定まっていないからだろう。
 あの日は結局、Fクラスだけは一戦しかすることはなかった。
 時間が押していたからだという話ではあったものの、まだ時間に余裕はあったように思えたが……まあ、Aクラスの者があれ以上負けるというのはさすがにまずいと判断したといったところか。
 そのおかげでレオンが何をしたのかがよく分からず、話しかけられていないのだから、こっちとしても都合がよかったと言うべきところではあるが。

 レオンはスキルのことをそれほど隠すつもりはないものの、積極的に教えるつもりはあまりない。
 この世界ではスキルのことが詳しく知られていない以上、教えるとなれば相応に時間がかかってしまうからだ。
 そんなことに時間を使うよりは、今は少しでも最強に近付くために時間を使いたいのである。

 リーゼロッテ達にだけは教えているのは、彼女達の努力に感銘と受けたのと、他人事には思えなかったこと、それと最終的には自分のためでもあった。
 多分この世界で最もスキルのことを知っているのはレオンではあるが、その大半は言ってしまえば我流だ。
 他人に教えたり他人が使っているのを見て気付いたりすることもあるだろうし、復習にもなる。
 だから彼女達にだけは教えている、というわけであった。

 まあ正直なところイリスにだけは教えたくなかったのだが……仕方があるまい。
 スキルを覚えることでさらに高みへと昇ってしまう可能性は高いが、それ以上の速度で追いかけるしかなかった。

 と。

「……あれ?」

 ふと首を傾げたのは、そんなことを考えている間に鐘の音が鳴り響きだしたからだ。

 ザーラはあれで割と時間厳守なところがある。
 むしろ早めに来るぐらいであり、少なくとも入学してからこっちずっとそうであった。

 そのザーラが、今日に限っては未だに姿を見せていないのだ。
 不思議に思うのは当然というものだろう。

「ザーラ先生がまだ来ないなんて、珍しいね?」

「そうですわね……もしや何か準備に手間取っている、とかでしょうか?」

「ああ、そういえば、昨日の帰り際に今日は少し趣向を変えるかもしれない、とか言ってたわね」

 エミーリアとリーゼロッテの言葉に、そういえばそんなことも言っていたなと思い出す。
 少し遅れて右隣からも頷く気配があった。

「……そういえば。でも、今までそんなことを言ったことはなかった」

「そもそも、去年ってどんな授業やってたの?」

「……今年と似たような感じ?」

「まあこれまでのことから簡単に想像出来るわね。っていうか、そんなんだったら確かに学年がごちゃ混ぜでも問題ないわね」

「イリスさんは去年あまり授業に出ていなかったから一緒でも問題ないとザーラ先生は言っていましたが……それ以前の問題でしたわね。進捗とか関係ないではありませんの。あ、そうですわ、進捗で思い出しましたけれど、レオンさん後で確認して欲しいことがありますの」

 それは突然の言葉ではあったが、レオンに驚きがなかったのは、ここ最近ではよくあることだからだ。

 交流戦以降、エミーリアは以前にも増して気合が入り、ちょくちょく質問などをしてくるようになった。
 以前も熱心ではあったが、さらに積極的になった、といったところか。
 交流戦以降、それも変わったといえば変わったところと言えるかもしれない。

 今回もまたスキル関係で何か聞きたい事でも出来たのだろうと思い、頷きを返す。

「うん? まあ了解。訓練場に行ってからね」

「ええ、よろしくお願いしますわ」

「相変わらず熱心よね……あたしもやる気では負けていないつもりだけど、色々考えちゃうせいか、そこまでひたすら前には進めないわ」

「ふふ、わたくしはこの前手本を示していただけましたもの。その通りに進むだけですから、きっとその分の違いでしょうね」

「……少し羨ましい。わたしも見たかったかも」

「別にそこまで見て面白いものでもなかったと思うけどね……っと、来たかな?」

 廊下から足音が聞こえ、教室の扉の前で止まった。
 直後に扉が開け放たれ……しかしそこでレオンが目を瞬いたのは、現れた人物が予想通りの相手ではなかったからである。

 見知らぬ人物であった。
 歳は二十台前半といったところか。
 講師であることは間違いないとは思うものの、学院内で見た覚えもなく……ただ、その水色の髪と琥珀色の瞳に、どことなく見覚えがある。

 髪は腰まで伸びているし、目は若干垂れ目がちだ。
 雰囲気もまったく異なり……だが、すぐ傍にいる人物と、その顔立ちは何となく似通っていた。

 その人物は、口元に笑みを湛えたまま、教壇まで歩みを進めていく。
 そして、こちらを一通り見渡すと、その口を開いた。

「皆さん初めまして……というわけでは、ないかしらね。ふふ、何人かは言われずとも分かっているでしょうけれど、忘れられちゃってるかもしれないから、自己紹介をしておくわね。私の名前は、ブリュンヒルデ。ブリュンヒルデ・エッシェンバッハよ。この学院で講師をやってるわ。よろしくね」

 その名前は、知っているものであった。
 というか、道理で見覚えがあるわけだ。

 エッシェンバッハという名前の通り、彼女もまたエッシェンバッハ公爵家の人間であり――

「…………姉様」

 驚愕と呆然と、他にも様々な形容しがたい感情を含んだ声が、眼前の講師の妹の口から零れ落ちたのであった。

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