無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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足掻きの果て

 その場の状況を見渡しながら、レオンは息を一つ吐き出した。
 夜中に一組の男女がひっそりと会うとか、甘酸っぱい展開が予想されるのが普通だと思うのだが……どうしてこんなことになっているのやらといったところである。

「でもどれだけ嘆いたところで、現実が変わることはない、か。ま、その通りのことが起こってたら、それはそれでどんな顔をしたらいいのか分からないところだっただろうけど」

 そんなことを呟きながら、何事かを言いたげなユーリアからは視線を外し、アロイスへと向ける。
 色々と言いたいことなどはあるものの、生憎とそういう状況ではあるまい。

 それに、向こうも向こうでどうやらこちらに聞きたい事がありそうである。
 興味深げに見つめてきながら、その口を開いた。

「……どうしてこの場に、とお聞きしても? 僕達は決して周囲に邪魔されないよう細心の注意を払っていたはずです。まあ、目的はそれぞれ違っていましたが……決して今日この時ということは悟らせなかったはずです」

「まあ実際僕も分かってたわけじゃないからね」

「……? では、尚更どうしてこの場に? まさか偶然ということはないでしょう?」

「そりゃあね。とはいえ、別に難しいことでもないよ? 単に毎夜出かけたりしないか探ってたってだけだしね」

 明らかに何かをしようとしていたのは確かだったのだ。

 しかし授業中にそれをする様子がなかったとなれば、授業外の可能性が高い。
 さらに言うならば、人目につく可能性のある昼間は論外だ。
 となれば、夜にこっそりと出て行くしかあるまい。

 一応学院寮は夜間の外出が禁止されているものの、レオンが見てみた限り出ようと思えば出られそうであった。
 だから、夜になるたびにどこかに出かけたりしないかと、気配を探っていたのである。

 スキルの中には他人の気配を探れるものがあり、学院寮の範囲ぐらいならば誰かが外に出ようと思えば分かるのだ。
 ついでにスキルの鍛錬にもなるし、一石二鳥でもあった。

「……なるほど、確かにそれではどれだけ隠していようとも意味はありませんね。とはいえ、普通やろうと思っても出来ることではないかと思いますが……やはり噂は確かだったというわけですか」

「噂……?」

「ええ、色々とありますよ? 入学試験の際に魔獣を倒したや、騎士科の主席は貴方であるということ、他にも交流会でAクラスの方を相手に圧倒した、という話もありましたか。まあ正直それほど信じられてはいないのですが」

 まあ同じ学院の中だということを考えればそういった話が向こうに伝わっているのも不思議ではないし、信じられていないというのは当然だろう。
 それがこの世界の常識なのだから。

 ただ、それにしては、気になる言葉があった。

「その割には、やはり、とか言ってたけど?」

「ええ。僕は例外ですから。少なくとも僕は、あの日貴方に出会った時点で、ほぼ噂は真実なのだろうと確信を持っていましたからね。……その程度のことを理解出来るぐらいには、努力を重ねてきたつもりですから」

「なるほど……?」

 それで信じられるようなものだろうかと思いつつも、個人的に気になったのは常識を疑えることの方だ。
 既存の常識を疑えるということの意味は、大きい。
 そのことを最もよく実感しているのは、おそらくレオンだろう。

 まあだからこそ彼も、魔王の一部と戦うことで自らの価値を証明する、とかいうこの世界の常識からすれば信じられないようなことを思いついたのだろうが……そのせいもあって、余計に思うことがあった。

「……惜しいなぁ。常識を疑えて、その上でしっかり常識を持ってるんなら、って思うよ。そうであったなら、君はそのうち本当に魔王の一部ぐらいなら倒せる程度になれていたかもしれないのに」

「そこまで評価していただけることは恐縮なのですが……何故、惜しい、なのでしょうか? 足りないところがあるのでしたら、僕は貪欲に学び取り入れるつもりがありますが」

「うん、だろうね。だからこそ、惜しいんだよ。――そんな君を、叩き潰さなくちゃならないんだから」

「……っ」

 瞬間息を呑んだ姿に、本当に惜しいと思う。
 レオンが何を言いたいのかを正確に理解し、それが可能なことまでも理解しているのだろうからだ。

 だがそれでも、見逃すことは出来ない。
 彼は、ユーリアに手を出した。
 許すことの出来ない理由としては、十分過ぎるほどであった。

「……もう一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うん? どうぞ?」

「おそらくその様子から、貴方はこの場で起こっていたことを全て見聞きしていたのでしょう。ならば、何故今更介入したのですか?」

 彼の言っていることは正しい。
 確かにレオンは最初から全てを見聞きしていたし、敢えて今まで介入することはしなかった。

 とはいえ、別にその理由は難しいものではない。

「何故、って言われてもね……彼女だって、子供じゃないんだ。自分がやったこと、やろうとしたことの責任は自分で取るものでしょ? まあかといって万一何かあったら困るから見てたわけだけど」

 そして、殺されてしまうというのは、その万が一に該当する。
 だから介入することにしたという、それだけのことだ。

「ま、だからこそ、君を叩き潰すっていうのは、ただの私怨なわけだけど」

 別に頼まれたわけでもなく、そもそもレオンとユーリアはただの他人なのである。
 新しい関係を築けていない以上は他人以外の何かであるわけがなく、だが完全な他人が何かをされたところで、心の底から怒れるほどレオンの感受性は豊かではなく、また優しくもない。

 ゆえに、私怨なのだ。
 特に理由はないが、気に入らないから叩き潰すという、それだけのことなのである。

「ははっ……なるほど、そういうことですか。……最後にもう一つだけ、お聞きしたい。貴方は本当に、僕が魔王の一部を倒せるようになる可能性があったと思っているのですか?」

「逆に聞くけど、君はその可能性があるってことをまったく思わなかったの? 少なくとも、僕は僕自身ならそれが可能だと思ってるし、むしろ魔王の本体だろうとそのうち倒せると思ってるけど? というか、そのうち倒すつもりだしね」

 心の底からの本音であったが、何故かアロイスはその言葉を聞いた直後に笑みを浮かべた。

 苦笑と自嘲を混ぜたような、そんなもので――

「もしも……もしも貴方に先に出会うことが出来ていたら、僕もそんな風に思えるようになっていたのかもしれませんね。――まあ、僕は今の自分で満足していますし、納得してもいるのですが!」

 ――限界突破リミットブレイク・絶対切断・一意専心・明鏡止水:斬魔の太刀。

 言葉と同時、巨大な火球が飛んでくるも、問答無用で斬り裂いた。

 跡形もなく霧散し、だが晴れた視界の向こう側にあったのは、さらなる火球。
 先のものよりも大きさは五分の一程度だが、それが数十はある。

 直後に一斉に放たれ……だが、何の問題もない。

 ――限界突破リミットブレイク・絶対切断・疾風迅雷・明鏡止水・乱舞:百花繚乱。

 爆ぜることも、火の粉の欠片も残すことを許さず全てを斬り裂いた。

「ははっ……なんて、出鱈目。……この光景を先に目にしていたら、僕は本当に別の道を歩んでいたかもしれませんね。ですがそれは、有り得なかった過去の話です。こんなところで持ち出したところで、何の意味もない。僕は今の自分をこそ、何よりも肯定しているのだから……!」

 もしもという言葉に逃げることなく、自分の信じたことを遂行するために足掻く。
 その姿に、三度惜しいと思うものの……だからこそ、手を抜くことは出来ない。

 それは、懸命に足掻く者に対する、侮辱だ。

 一際大きな、アロイスの身体もすっぽりと覆いつくしてしまいそうなほどの火球を目にし、レオンは息を一つ吐き出した。
 そして。

 ――限界突破リミットブレイク・絶対切断・一意専心・疾風迅雷:一刀両断。

 腕を振り抜いた直後、視線の先にあるのは晴れた光景。
 ゆっくりと残心を解いていくのは、はっきりとした手応えを得たからだ。

 真っ直ぐにこちらを見つめてきたアロイスが、すっきりしたような、何かを諦めたかのような表情で笑みを浮かべた。

「ははっ……貴方ならば、本当に全てを乗り越えられてしまいそうですね。それを目にすることが出来ないことだけが心残りではありますが……まあ、仕方のないことではありますか。貴方がどうなるのか……それを知る時を、楽しみに待っているとしましょう」

 そんな言葉を残しながら、ゆっくりとその身体が傾いていく。
 何やら意味深な言葉であったものの、既に問いただせる時間はなく、何よりもどうせ答えまい。
 だから、地面に倒れていくその姿をただ眺めていた。

 そうして残されたのは、レオンと相変わらず何か言いたげな様子のユーリアだけ。
 しかしレオンは、話は聞かず……あるいは、話す必要などないとでも言うかの如く。
 息を一つ吐き出すと、ユーリアに向けてただ肩をすくめて見せるのであった。

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