無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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新しい日常

 あのような自己紹介から始まったユーリアとハイデマリーを加えた新しいFクラスでの日々ではあるが、思っていたよりかは平和に過ぎていった。

 まあ、基本的にFクラスでの授業というのは、ほぼ自主鍛錬がメインだ。
 やろうと思えば他人とまったく関わらないということも可能なので、それも大きかったのかもしれない。
 実際ハイデマリーは、露骨なまでにレオンとは関わらないようにしていた。

 ある意味で以前までのユーリアと同じようなもので、ただユーリアとの決定的な違いは無視するわけではないということか。
 顔を合わせるようなことがあると思いっきり顔を顰めるし何だったら舌打ちまでするものの、それはつまりレオンという存在にしっかり反応を示しているということである。

 正直なところ、心労の度合いではユーリアの頃の方が遥かに上であった。

「うーん……まさか舌打ちされてまだマシだって感じる日が来るなんてなぁ……」

「その台詞だけ聞くと、ただの変態よね……」

「まあ、相手も関係しているのではないかと思いますけれど。ハイデマリーさんが無視してきたところで、レオンさんはそれほど気にしなかったのではありませんの?」

「ああ……それは確かにあるかもね」

 どれだけ元だと言い張ったところで、レオンの認識ではユーリアはやはり妹なのだ。
 妹から存在がないかのように無視されることと比べれば、嫌われるぐらい何ともないのは当然ではあった。

「ま、とはいえ相変わらず何で嫌われてるのかは分からないんだけど」

 言いながら、視線を彼方へと向ける。
 今は授業中で、ハイデマリーはユーリアやイリスと共に離れた場所にいた。

 ただ、ハイデマリーが何かをしたのではなく、彼女達は自ら望んで向こうにいるのだ。
 言うならば、こちら側はスキル組で、向こう側は非スキル組とでも言おうか。

 そう、彼女達はスキルを使うことを拒絶……と言ってしまうと言葉が悪いが、しかし実際にそうしたのである。
 スキルの有用性を知り、認めた上で、今までと変わらぬ道を選ぶことにしたのだ。

 まあ、レオンとしてはその選択もありだとは思う。
 今までやってきたことを捨て、まったく異なることを始めるというのは勇気のあることだし、レオンもスキルの方が一方的に優れていると言うつもりはない。

 魔法は魔法で優れているところがあり、スキルはスキルで優れているところがある。
 それだけのことで、レオン達はスキルの方を選び、彼女達は魔法の方を選んだ、というだけのことなのだ。

 レオン達の方はスキルを選ばざるを得なかったとも言うが、まあ大差はあるまい。
 結局のところ、選んだことに違いはないのだから。

 そんなことを考え、三人が鍛錬している様子を眺めていると、不意にリーゼロッテが呟いた。

「あんたが嫌われてる理由、ね……まあ何となく想像は付いてるんだけれど」

「え……そうなの? ってことは、知らず知らずのうちに僕が何かやらかしてたってこと……?」

 心当たりがないからといって、何もしていないとは限らない。

 そもそもレオンの現在の状況というのは、特殊も特殊だ。
 だからこそ色々気を使っているつもりなのだが……もしかしたら、何か気に障るようなことを無意識でやってしまっていたのかもしれない。

「風呂に入る時はしっかり水を張り替えた上で前後で掃除までしてるし、寝る時にはイリスの寝顔を見ちゃわないようにイリスよりも先に寝て後に起きるようにしてるし、登校時は最後に寮を出るようにしてるんだけど……いや、もしかしてそれが駄目だった……? むしろ先に出るべきだった……? でも朝食の時間の関係でそれは無理だしなぁ……」

「……あんた、そんなことしてたの?」

「逆に気を使いすぎだと思いますわよ……?」

「え、そう……? 数百人の女性の中に男一人だし、このぐらい気を使って当然な気がするんだけど……」

「最初の頃はまだしも、最近では完全にあんたがいることに慣れてるし、そこまで気を使う必要はないわよ。まあどっちにしろ、そういうことじゃないから外れよ」

「じゃあ、どういう……?」

「どういうも何も、見たままだと思うけれど?」

 そう言ってリーゼロッテが視線を向けた先にあるのは、鍛錬を続けている三人の姿だ。
 だが先ほども見ていたのと何一つ変わらない光景に、レオンは首を傾げるしかない。

「えーっと……あれが?」

「見て分かる通り、物凄くイリスのこと慕ってるじゃない。むしろ崇拝に近いんじゃないかってぐらいに。ユーリアのことも慕ってるみたいだけど……だからこそ、ああして一緒にいるとより顕著になるわよね。で、そういう人達は騎士の中にも割といるわけだけど……そういう人達が嫌うのは?」

「あー……なるほど?」

 つまりは、ザーラと同じ扱いをされていた、ということだろうか。
 剣を使っているというのならば、レオンも同じだ。
 確かにそうなったところで不思議はない。

 ただ、まったく意識していなかったのは、今までそういう扱いをされたことはなかったからだろう。
 学院の中にもイリスのことを慕っている人達は確かに多く、そういった人達からザーラがよく思われていないということは知っている。

 だがレオンは、そういう意味での嫌悪などを向けられた記憶はない。
 多分、彼女達に一個人として認められてはいないからだ。

 子供が誰かの真似をしたところで、余程のことでなければそこに嫌悪を覚えたり、嫌ったりすることはあるまい。
 彼女達にとってのレオンは、きっと未だそういう扱いであり……ハイデマリーはそうではなかったということか。

 とはいえ、何となく違和感もある。

「んー……というか、そもそも彼女からは初対面の時点で嫌われてた気がするんだけど……?」

「誰かから聞いてたか……あるいは、あんたの知らないところで一方的に見たことがあるとかなんじゃない? まあもしくは、寮で同室だから、ってことが原因かもしれないけれど」

「そっちはちょっとどうしようもないっていうか、出来るんなら僕がどうにかして欲しいぐらいなんだけど?」

 最近ではさすがに多少慣れたが、それでも未だ嬉しさよりも戸惑いとかの方が強い。
 代わってくれるというのならば、喜んで代わるというものである。

「まあ、わたくしも彼女が関係しているということは同感ではありますわ。あとは、彼女が男嫌いだから、というのもあるのかもしれませんけれど」

「うん? そうなの?」

「それはあたしも知らなかったわね」

「厳密には、そういう噂がある、というだけですけれど。ただ、レオンさんへの接し方を見ていると、噂は正しかったのでは、とは思いますわ」

「うーん、そうかな? 僕は違うんじゃないかって思うんだけど」

「そうですの? 傍目には理不尽に嫌っているようにしか見えませんでしたから、そう思ったのですけれど……」

「まあ、あくまで感覚的なものではあるんだけどね」

 先の違和感にも通じるのだが……嫌われている、とレオンは言っているものの、厳密には少し違うのではないかと思っている。
 ハイデマリーがレオンに向けているのは、どちらかと言えば憎しみに近いように思えるからだ。

 まあ、そんなことを口にしたところでいいことなどないだろうから、誰にも言うつもりはないのだが。

「ま、でも何にせよ、イリスが関係してるのは確かだと思うわよ? イリスと話してる時のあんたを睨んでる時もあるし」

「別にイリスと話してなくても睨まれてる気がするんだけど……?」

「普段以上に、ということですわ。そういう意味でしたら、程度は違いますけれど、ユーリアさんとの時も、ですわね」

「僕ユーリアと未だにまともに話せた記憶がないんだけど……?」

 そんなことを言いつつ、三人の姿を眺める。

 完全に同意することは出来ないが、二人が言うのであれば、確かにイリスが関係しているということなのかもしれない。
 まあだとするならば、どうしようもないということにしかならないが。

 出来れば彼女から嫌われたりしたくはないものの、そのためにイリスから離れていくというのは論外だ。
 どちらかを諦めなければならないと言うのなら、レオンは迷いなくハイデマリーを切り捨てるだろう。

 とはいえ、好き好んでそうしたいというわけでもない。
 何か妥協点のようなものでも見つかればいいのだが……難しそうである。
 そんなことを思い、目を細めつつ、レオンは息を一つ吐き出すのであった。

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