最強Fランク冒険者の気ままな辺境生活?

紅月シン

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3巻

3-3

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 ◆◆◆


 受付から離れたロイは、思わず息を吐き出した。
 一通りの話を聞いた……というか、聞かされたことで、さすがにわずかな疲れを感じたのだ。
 とはいえ、聞かなかった方がよかったとは思わないし、色々とためになる情報を得ることは出来た。
 それに、受付嬢の言っていたことも、間違いではないのだ。
 好きこのんで首を突っ込もうとは思わないが、確かに、何らかの形で関わることになるのだろうと、覚悟していたのは事実である。
 関係者のあの少女がわざわざ自分に話しかけて来たのだ。
 顔を見に来ただけだと言っていたが、本当にそのためだけに来たと思うほど、ロイは楽天的ではない。

「邪神、か……」

 彼女達がここに来た目的を思い出し、つい溜息が漏れる。
 と、その時であった。

「――あれ? ロイさん、ですか?」

 不意に聞こえた声の主へと、反射的に視線を向ける。
 その先にいたのは、見覚えのある桃色の髪の少女だ。
 ロイがお世話になっている宿の看板娘である彼女――セリアは、ロイのことを見つめながら僅かに首を傾げる。
 ロイもまた、彼女とここで出会ったことに疑問を覚えた。
 何故彼女が、普段より遅い時間にギルドにいるのだろうかと思ったからだ。
 彼女がここに来ていること自体は、それほど不思議なことではない。
 ひと月前から毎日のように通い、彼女の父がのこした街の結界についてなど、色々なことをあの受付嬢から学んでいるからだ。
 ただ、彼女の家が宿屋を営み、それを手伝っている関係上、彼女が自由に使える時間は少ない。そのため、ギルドに来るのはもう少し早い時間のはずだが……と、そこまで考えたところで、ふと思い出した。

「ああ、そっか……そういえば、今日は少し遅くなるとか言ってたっけ?」
「あ、はい、今日うちに泊まる方々への準備のために、朝は少し忙しかったので。冒険者ギルドから直々じきじきに頼まれてしまいましたし……宿泊客が誰なのかは教えてもらえませんでしたが、念のため、しっかりとした準備をする必要があると思いましたので」
「ああ、うん、今朝そういう話を聞いてたのを、今思い出したよ」

 自分には大して関わりのないことだろうと思って、あまり意識して聞いてはいなかったが……なるほど、と一つ息を吐き出す。
 それが一体何者なのか、今のロイには簡単に予測出来た。
 だがそうだと決まったわけでもないので、一先ひとまずそれを伝えることは控えておく。

「で、その後でギルドで勉強、か……相変わらず頑張ってるね」
「わたしがやりたくてやってることですから。ところで、そういうロイさんこそ、今日は戻るのが早くないですか? ……もしかして、何かあった、とか?」
「いや……単に今日はフルールの用事で、早めに切り上げることになったんだ」

 ロイがそう告げると、セリアはそうですかと安堵あんどの息を吐き出した。
 彼女自身も巻き込まれた、この街を襲った事件からまだひと月程度しか経ってはいない。
 ついそれを思い出し、もしやまたかと思ってしまったのだろう。
 まあ、ある意味でその懸念けねんは外れてはいないのだが……ここでそれを告げる必要はあるまい。
 聖神教の人達がこれからどうするつもりなのかは、まだ分からないのだ。
 特に何もせずに訪問を終える可能性だってある。

「……ま、さすがにそれは、ちょっと都合よく考えすぎだろうけどね」
「ロイさん……?」
「ああ、ごめん。独り言だから気にしないで」
「そうですか……?」

 不思議そうに見つめてくるセリアを一瞥し、さてと呟く。
 本来ここに来た目的である素材の換金は既に済んでいるし、もうギルドに用事はない。

「それじゃ、僕はそろそろ行こうかな」
「あ、はい……ごめんなさい、邪魔をしてしまいましたよね」
「いや、僕は別に構わないんだけど、セリアはそうじゃないでしょ?」
「わたしも一応約束の時間にはまだ余裕があるのですが……いえ、こちらは教えをうべき立場なのですから、確かになるべく早く行っておいた方がいいですよね」
「まあ、程度にもよるだろうけど……ちょうど今は暇そうだしね」

 言いながら先ほど離れた場所へと視線を向ければ、件の受付嬢の前には誰の姿もなかった。
 そのせいか、顔には受付嬢らしい笑みを浮かべてはいるが、どことなく暇を持て余していそうな雰囲気がある。
 と、彼女と不意に目が合った。
 かと思うと、受付嬢はほんの僅かにその口元を持ち上げる。
 どことなく意味ありげなその様子に、自然と先ほどの話が思い返され、ロイは溜息を吐き出した。
 やはりと言うべきか、楽天的に考えるべきではなさそうである。

「……ロイさんって、もしかしてあの人と以前からお知り合いだったんですか?」
「うん? どうしたの、突然?」
「いえ……何となく目と目で分かり合っているように見えたもので……」

 むぅ、とどことなく不満気にそう口にするセリアに、ロイは苦笑を浮かべた。
 確かに、何となく向こうの言いたいことが分かったのは否定しないが――

「少なくとも、僕はあの人とここで初めて会ったかな」
「そうなんですか? ……それにしては」
「親しそうに見えてるんだとしたら、気のせい……だとは言わないけど、多分思ってるような関係じゃないのは確かだよ。まあ、少なくとも今は、冒険者と受付嬢って認識が一番しっくりくると思うけど」

 それ以上でもなければ、それ以下でもない。
 しかし、その言葉はセリアにとって納得のいくものではなかったらしい。
 不満そうな視線を向けられたままで、ロイは困った表情をする。
 それ以外に言いようがないのは事実だ。

「むぅ……まあ、いいですけれど。それではわたしはそろそろ行きますね」
「うん、また後でね」

 そう言って去っていくセリアの後ろ姿を見送る。
 この場でやることは既になくなり、手持ち無沙汰である。
 一瞬、ここに残って、受付嬢がセリアに余計なことを話さないか見ていこうかと思ったが、さすがにやめておく。
 いくら何でも彼女にまで、むやみやたらに色々と話すことはしないだろう。

「うーん……ない、よねえ……?」

 今日自分がされた対応を思い返してみれば、いまいち信用出来ない気もしたが、そこは信じるしかあるまい。
 自分が同席しようものなら、むしろあの人は嬉々として余計なことを教えそうだ。
 まだひと月程度の付き合いしかないものの、そういったことをする相手だということは十分に理解出来ていた。

「ま……とりあえずは、帰るとしようかな」

 別に帰ったところで何か用事があるわけでもないのだが……と、そこまで考えたところで、ふと気付く。
 帰る、という言葉を当たり前に使ったことに。
 どうやらロイの中では、セリア達家族の営むあの宿が、自分の帰る場所だという認識になっていたらしい。当初はもっと色々な宿を試すつもりだったのだが……まあ、居心地のいい宿を見つけることが出来たのだから、問題はあるまい。
 他にもっと居心地のいい宿もあるのかもしれないが、あそこで十分満足している。
 敢えてあるかも分からないものを探す必要はない。
 そう考え、ロイはすっかり馴染みとなった宿へと帰るべく、ギルドを後にするのであった。


 ◆◆◆


 宿へと向かうまでの街並みは、相変わらずの賑わいであった。
 下手をすればひと月前に滅んでいたとは思えないほどの盛況ぶりで……いや、あの頃よりもさらに賑わいは増しているかもしれない。
 それはきっと、ギルドがひと月前に発表したことと無関係ではない。
 停滞していた開拓事業を再開すると、発表したのだ。
 正直ロイにはいまいちピンと来ないのだが、それは多くの人達に驚きとともに喜びを与えるものであったらしい。
 そしてそれによって、この街には、ひと月前より多くの人達が訪れるようになったのだ。
 それ以前の街並みをそれほど知るわけではないロイにとっては、気持ち人が増えたかな、程度だが、セリアの話では確実に増えているとのことだ。
 もっとも、今は期待が先行している状態で、この状況が続くかどうかは冒険者次第らしい。
 冒険者ギルドがこの街を管理していることもあり、開拓の中心となるのは冒険者だからだ。
 そんなことを他人事のように思ってしまうのは、ロイが冒険者になった理由も、ここに来た理由も、そういったものとは関係ないからである。
 ギルド側からは、それとなく中心人物として参加して欲しいと伝えられてはいるのだが……どうしたものかと決めあぐねていた。
 未知のものに挑むという行為をまったく魅力的に思わない、と言ってしまえば嘘になる。
 それを可能とするための力が自分にあるらしいということも、最近では何とか自覚出来るようになってはいる。
 だがそれでも、ロイの中では、自分はどうしても脇役だという認識が抜けないのだ。
 何かの中心になったり、誰かを引っ張っていったり……そんな自分を、どうしたって想像することが出来ない。

「……僕の中では、やっぱりいつまで経っても、あの頃の感覚が抜けないってことなんだろうなぁ」

 頭に浮かぶのは、魔王討伐とうばつ隊に加わるよりも、ここに来るよりもさらに前の頃。
 英雄と呼ばれるに相応ふさわしい人達と、その端にすら引っかかることのなかった自分の姿だ。
 それはひと月ほど前の自分のように、自覚がなかったというわけではなく、純然たる事実である。
 おそらくは今のロイですら遠く及ばないほどに、かつて彼の周りにいた人達は強かったのだ。
 そんな人達のことを思えば、自分が周りから言われているほどの人物だとは到底思えなかった。

「ま……何にせよまずは、常識を覚えてから、かな」

 その頃になればさすがに、もう少し周囲と自分のことも理解出来るようになっているはずだ。
 それから今後のことを考えても遅くはあるまい。
 ギルドからは返事を急かされるかもしれないし、その間フルールには引き続き迷惑をかけることになりそうだが……そこは勘弁してもらうしかないだろう。
 そうしてここが合わないと思ったら……いずれ出て行くことも考えてはいた。

「本当に居心地がいいから、出来ればそんな選択はしたくないんだけどね……」

 だがここは、当初思っていたような、のんびり出来る場所ではなかったのだ。
 前に進もうとしている人達がいて、自分がその邪魔にしかならないのならば、出て行くしかあるまい。
 と、そんなことを考えている間に、宿へと辿り着いた。
 その建物を目にした瞬間、反射的に「帰ってきた」という気持ちになるあたり、本当にここに馴染んだのだなと実感する。
 やはり、出来ればここにもっといたいものではあるが……とりあえずそれは追々おいおいだ。
 その判断を正確に行うためにも、今は色々なことを経験すべきだろう。
 そう思いつつ、扉を開けて中に入る。
 反射的にか、中にいた人達の視線が一斉にこちらに向けられ――

「……あれ?」

 その顔ぶれを眺めて、ロイは首を傾げた。
 数人の客とおぼしき人達がいるのはいい。
 彼らはここの常連客だ。
 予想外だったのは、その中に見知った顔が交ざっていたからであった。

「……シルヴィ?」
「……ん、久しぶり」

 ひと月ぶりの再会だというのに、特に感慨にふけるでもないシルヴィに、思わずロイは目を瞬かせる。
 しかし直後に、彼女らしいと思い、苦笑を浮かべた。
 シルヴィは隣国に仕えている魔導士であるため、気軽にどこにでも行けるほど、その身は軽くない。
 ゆえにこそ、唐突に姿を見せたことは想定外であり、驚いたのだが……その驚きが引いてくると、今度は疑問が浮かび上がってくる。
 自然と警戒心が湧き、ロイは僅かに目を細めてシルヴィを見つめた。

「ひと月ぶりっていうのが、久しぶりになるかは微妙なところな気がするけど……まあ、うん、久しぶり。でも、突然どうしたの? ……もしかして、また何かあった、とか?」

 そう、前回シルヴィがやってきたのは、この街が厄介事に巻き込まれていた時であった。
 であれば、もしや今回も、と考えるのは自然なことだろう。
 だが、シルヴィはそんな疑問に、相変わらずの無表情で答える。

「……あったと言えば、あった?」
「……なんか随分曖昧あいまいな言い方だね?」
「……私がここに来たのに、あることが関わっているのは事実。でもそれは、この街とは関係がない」
「関係がないのに、ここに来たってこと?」
「……ん。ここに来るのが、色々な意味で最善だと判断した」

 そう言ってジッと見つめてくるシルヴィに、ロイは首を傾げる。
 この宿に来たという時点で、自分に用事があるのだろうと推測していた。それ以外で、多忙なシルヴィがこの宿を訪れることはないと思ったからだ。
 肝心のシルヴィが訪ねてきた理由も心当たりがないわけではない。
 ……正確に言うならば、一つだけ彼女が関わっていてもおかしくなさそうなことを知っている。

「んー……それってもしかして、邪……聖神教とかが関係してたり、する?」

 一瞬邪神と口に出しそうになり、慌てて言い換えた。
 ここは宿のロビーであり、普通の客も周囲にいるのだ。
 特に口止めはされなかったが……注意しておいて損はあるまい。
 それに、シルヴィの言っていることとロイが思い浮かべたものが同じならば、これで通じるだろう。
 そして、それだけで彼女は意図を察したようであった。
 直後にはっきりと頷く。

「……ん、関係してる。私がこの街に来たのは、あの人達がここに来ると聞いたのも理由の一つだから」
「そっか……」

 さらなる厄介事に繋がりそうな気がするため、出来れば否定して欲しかったのだが、残念なことにロイの推測は合っていたようだ。
 とはいえ、そうなると、今度は別の疑問が浮かぶ。

「でも、それならどうしてこの宿に? 彼女達に用事があるんなら、ギルドに行くべきな気がするけど……」
「……それも考えた。でも、さっきも言ったように、ここに来て貴方に会うのが最善だと判断した。私がこの件に、関わるためには」
「シルヴィが、関わるために……?」

 てっきり既に関わっていて、ロイにはその協力要請でもしに来たのかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
 だが、ロイに会ったら関われるようになる、とはどういうことだろうか。
 確かに受付嬢に話を聞いた限りでは、ロイが関わる可能性は否定出来なかったものの、聖神教の関係者達とは知り合いと呼べるような間柄ですらないのだ。
 口利きぐらいならば出来るかもしれないが、それはシルヴィ自身が行っても大差はあるまい。
 しかしそんな疑問を口にしようとした瞬間、ふと外の方から声が聞こえた。
 もちろん、それ自体はおかしなことではないが、その声に聞き覚えがあったとなれば話は別だ。
 しかもそれは、今ここで聞こえるはずのないもので――

「あれ、この声って……」

 そう呟いた直後のことであった。
 入り口の扉が開いたかと思えば、そこから予想通りの人物が姿を見せた。

「えっと……というわけで、ここがわたし達が営んでいる宿になります」

 声の正体は、セリアであった。
 つい先ほど別れたばかりであり、今頃はあの受付嬢から勉強を教わっているはずの彼女が何故、と思ったものの、その疑問はすぐに別の疑問によって塗り潰される。
 セリアに続いて、他にも姿を見せた人物がいたからだ。

「そういえば、考えてみたらあちしがここに来るのは初めてっすね。へー、こういうところだったんすねえ」

 そんなことを言いながら入ってきたのは、ギルドで別れたフルール。
 さらに、

「へえ……ここがそうなのね。うん、思ったよりも小さかったけど、中は結構悪くないんじゃないかしら?」

 金色の髪に同色の瞳、特徴的な耳を持つ、先ほどロイに声をかけてきた少女の姿もあった。彼女は、宿の中を見渡しながら、感心したように呟いている。
 聖神教で聖女と呼ばれているらしいそんな少女の姿を眺めつつ、ロイは眉をひそめる。
 これは一体どういう状況なのだろうかと思っていると、ふとセリアと目が合った。
 僅かに目が見開かれ、あ、という形に口が開いたことを考えると、ロイがここにいると今気付いたらしい。
 特に隠れていたわけではないのだが、何故か緊張しているように見えるので、そのせいだろうか。
 まあ、ちょうどいいタイミングではあるし、あれこれ考えるよりも直接話を聞いた方が早そうだ、とロイは声をかけようとするが……結局実行には移さなかった。
 それよりも先に、セリア達に続いて、さらに二つの影が宿の中へと入ってきたからだ。

「あら……確かにこれは、中々に雰囲気の良い宿ですわね」
「そう言ってくれるなら、ボクも紹介した甲斐かいがあったってものだよ」

 そんなことを言いながら入ってきたうちの一人は、先ほども会ったばかりの受付嬢だ。まだ業務時間内のはずだが……これも業務のうちなのかもしれない。
 そう思うのは、もう一人の見知らぬ女性が何者であるのか予想出来たからである。
 もっとも、そのせいでロイの中には別の疑問が湧いていた。
 すると今度は、受付嬢と目が合う。

「おや……ロイ君じゃないか。これは奇遇だね……っていうのは、さすがに少し白々しらじらしいかな?」
「……まあ、そうですね。僕がここに泊まっていることを知っている時点で、僕がもう帰ってきていてもおかしくないことは十分予想出来てたでしょうし」

 セリアならばともかく、その程度のことが予想出来なくては、受付嬢などやってはいられまい。
 そして実際その通りだったようで、受付嬢はただ肩をすくめただけであった。
 セリアの反応から考えて、ロイに用事があったわけではなさそうだが……しかし、その疑問を口にすることは再び叶わなかった。
 隣からポツリと、思わずといった様子で漏れた声が聞こえたからだ。

「…………貴女は」

 半ば反射的に視線を横に向ければ、いつもほとんど変わることのないシルヴィが、一目で分かるほどに驚愕していた。

「……まさかキミもいるとはね。これこそ本当に奇遇だ」

 どうやら受付嬢にとっても、シルヴィに会うのは予想外だったようだ。
 ロイと会った時とは異なり、しっかり驚きの表情をしていたからだ。

「えっと……二人は知り合い?」

 ロイの問いに、シルヴィが口を開いた。

「……以前に一度会ったことがある」
「そうだね。まあでも、そんな大した仲ってわけじゃないさ。関係の深さなら、キミの方が上だろうからね」

 本当に大した仲でないのならば、二人ともここまで大きな反応を見せることはない。
 しかし、聞いて答えてくれるようなら、最初から話しているだろう。
 決して悪い雰囲気というわけではないし、それよりも優先して気にすべきことがあったため、今のやり取りを思考から追い払う。
 受付嬢の戯言たわごとを聞き流しながら、その隣にいる、紫色の髪と瞳を持つ女性へと視線を向けると、彼女はこちらに気付き、ニコリと笑みを返してきた。

「初めまして、ですわね。そのうちお会いしたいと思ってはいましたけれど……ここまで早くお会いすることが出来るとは、僥倖ぎょうこうですわ」
「……そうですね、初めまして。ですがその言い方からすると、僕がなのか既にご存知みたいですね?」

 一冒険者に対するものとしては、あまりにも大仰な態度であるし、そもそもただの冒険者にわざわざ会いたいなどと思う者はいまい。
 つまり彼女は、最初からロイの正体を……勇者のことを知っていたということだ。
 とはいえ、ロイが自分が勇者だと中々自覚出来なかった原因の一つでもあるように、勇者の情報というのは、世間に驚くほど広まってはいない。
 ここひと月の間に少しずつ広まり始めていると聞いてはいるが、それでもロイの姿を見てすぐさま勇者だと気付くのは容易ではないはずだ。
 となると、誰かが教えたという可能性が高い。
 心当たりのある存在に視線を向けると――


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