老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第268話 竜、微妙な歓迎をされる

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「あー♪」
「うぉふ♪」
「こけー♪」
「きゃー♪」
「怖がらないなあ……」

 ザミールを加えた一行は町の外へ出ると、早速ディランに乗って空へ上がった。
 アトレオンは初めてなので冷や汗をかきながら乗っていた。
 しかし、ペット達やザミールの馬はおろかリヒトやリコットですら楽しそうにしている。その様子を見ていたアトレオンは苦笑してポツリと呟いていた。

「最初からそうだったかも? 確かドラゴンのパパを見ても泣かなかったもんね?」
「あい!」
「そうなのよね♪」
「ドラゴン形態の父さんが好きみたいだもんな。リコットは俺が変身してもこんなにはしゃいでくれない……」
「頭が最大三つあるもんね兄ちゃん」
「怖いとか?」
「ええー……」
「三つもあるんですか」

 アトレオンの呟きにトーニャがリヒトの頭に手を置いてから答えた。
 リヒトは呼ばれたのかと思い元気よく手を上げて叫んだ。
 ハバラもリコットの前で変身することがあるらしい。しかし娘は特に喜んだりしないそうだ。
 
「そろそろアトレオン殿が言っていた付近じゃがどうかな?」
「っと、そうですね……あの風車がある辺りに降りてもらえますか?」
「承知したぞい」
「アトレオン様、ここから落ちないらしいし恐る恐るじゃなくて大丈夫ですよ?」
「いやあ、空を飛ぶのは初めてだから流石におっかなびっくりだよ。ダル君でも撫でて安心しよう」
「あ、いいですね」
「わほぉん……」

 丸くなっていたダルが構い倒されて、やれやれと言った感じで鳴いていた。そんなやり取りの中、風車がある牧場のような場所へと降り立つ。

「いやあ、二回目はユリちゃんみたいに余裕を見せたいね」
「あら、素直ですね。でも、アトレオン様なら大丈夫ですよ!」
「あーう♪」
「ははは、労ってくれるのかい? ありがとう」
「では、すまんが案内してくれ」
「ええ」

 アトレオンが地面へ降り立つと、余裕があまり無かったと笑っていた。
 ユリはこういう時、男性は虚勢張るため意外だなと思いつつ労った。
 ディランが案内を頼むと、アトレオンは歩き出す。すると町の人がわらわらと集まって来た。
 
「ありゃ、何事かと思えば騎士団長様じゃありませんか」
「ああ、こんにちは。驚かせてすまない」
「さっきのでかいやつがドラゴンですか? 翼を広げたら町の三分の一くらいありませんか……?」

 町の人達は急に来てびっくりしたと言っていた。
 それでもアトレオンが居ることが分かった瞬間、みんな安堵の表情になっていた。

「まあ、大きさはそれくらいはあるかもしれんのう。確認したことは無いが。ちなみにさっきのはワシじゃ、驚かせたわい」
「あーう!」
「おお、あなたが……いえ、通達は聞いていましたから大丈夫ですよ。ボクちゃんは息子さんかな? 可愛い……ってどこかでみたような……」
「あう?」

 ディランが手を軽く手を上げて申告すると、町人達は普通に接してくれた。
 ルミナスに乗ったリコットと手を繋いでいるリヒトを見て頬を緩ませる。
 しかしそこで誰かに似ていると眉を顰めた。

「まあまあ、気にしない気にしない。僕達はダニー侯爵に会いに来たんだ」
「侯爵様……やっぱりこの子は……」
「……」

 町人がリヒトを見た反応にアトレオンが気軽に気にしないようにと言う。
 しかし町の人はダニーと聞いて表情が険しくなった。

「どうしたのだザミール? いつもの元気がないではないか」 
「え? あ、ああ、侯爵様に会うのは緊張するなあ、と……」

 俯いているザミールを見てディランが首を傾げる。すると後ろ頭を掻きながら愛想笑いを浮かべた。

「お主、モルゲンロート殿といつも会っているじゃろうに」
「モルゲンロート様は長い付き合いですからねえ。それに気さくな方ですし」
「仲がいいですものね。それにおっしゃるようにモルゲンロートさんは優しいです」

 確かにあの男みたいなのが侯爵であれば委縮するかとディランは納得する。
 トワイトはモルゲンロートについて同意していた。

「ん、そちらの眼鏡の方は……」
「私はザミール。商人ですよ!」
「いや、あの、そっちには誰も居ませんけど……」
「とりあえず行きましょう。アトレオン様、お願い致します」
「オッケーだよヒューシ君。ではまた。お仕事頑張ってください」

 ヒューシがザミールの態度に呆れながら先を急ごうと提案した。
 アトレオンはザミールの背を一瞬見た後、手を叩いて町人へ挨拶をし、移動を始めた。
 町の人達は頷いた後、複雑な顔をしながら見送ってくれた。

「すごい風車ですね」
「ここは風が強い地域でね。これが回ると川に繋がっている仕掛けが動く。それで川の水を強く流したり、小麦を細かくする装置を使ったりするよ」
「へえ、面白そう!」

 町へ歩いていると、外にある見事な風車が目に入り、ヒューシが簡単の声を上げた。アトレオンは自慢げにその意味を語る。ユリが手を額に当てて眺めていた。

「んめ~」
「あら、羊さんね」
「あー! あーい♪」
「きゃー♪」
「ぴよー♪」

 そして風車の近くには牧場があり、羊とヤギ、牛が放牧されていた。リヒトとリコットは大喜びでアッシュウルフたちを走らせた。

「めぇ~……」
「ぶもー……」
「あーう?」
「うぉふ?」

 しかし柵に近づくと動物達はサッと離れていく。首を傾げるリヒトにトーニャが苦笑しながら話しかけた。

「あたし達は可愛いと思っているけど、やっぱり狼は怖いわよねえ。残念だけど触れないわ」
「あー……」
「わん……」
「まあ狼は本能的に怖がるだろうな」

 アッシュウルフ達が居ることで近づいて来ないとトーニャとハバラが言う。
 リヒトとルミナスは残念そうに羊たちを見ていた。

「なんだい、狼に乗った子供がいるぞ?」
「あはは、羊さん達と遊びたかったみたいなんですよ。でも狼が居るから」

 そこで牧場の人間がやってきて目を丸くしていた。
 
「また時間ができたら遊びに来ますよ。なあリヒト君」
「あい……!」
「きゃう!」
「はは、元気な坊主とお嬢ちゃんだ。狼が居なければ入ってもいいからまたおいで」
「よし、それじゃ町へ入ろうか。あの大きな屋敷がダニー達の家だ」
「……ふむ、少しリヒトに憑いている魂が少し高揚している……?」

 ひとまずダニーの場所へと歩いていく一行。
 最後尾に居たゾンネアが、リヒトを見てポツリと呟いていた。 
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