老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第269話 竜、嫌な貴族にまた会う

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「さっきのは……ドラゴンか……!?」
「どうしてここへ……? 父上、どうしますか? やはり赤ん坊を泣かせたことを怒って来たとか……」
「ふん、どうせ接触しようと思っていたところだ。歓迎しようじゃないか」

 ディラン達が屋敷へ向かっていたそのころ、ダニー達が慌てていた。
 不意に空が暗くなったので、窓から外を見ると巨大なドラゴンが飛んでいたからだ。
 キーラが冷や汗を搔きながら父に尋ねると、ダニーは上ずった声を上げながら不遜な態度を見せていた。

「……あの方たちかしら? ライル様、また会えるみたいですよ」
「あーう?」

 ロザはベビーベッドでお座りをしているライルにほほ笑むロザに、ライルは笑いながら首を傾げていた。

「皆の者、ドラゴンが来る。人型だがなにをしてくるかわからん。注意だけは怠るなよ?」
「はい」
「承知しました」

 ダニー達がメイドや執事、私兵に声をかけて来客の準備を始めた。
 とはいえそれほど時間があるわけでもなく、程なくしてディラン達が到着した。
 
「旦那様、お客様が見えられました」
「やたらガタイのいいおっさんか。あとは妙にキレイな女だろ。ああ、それか私に生意気な口を聞いた、泣いた赤子の父親か?」
「確かにそういう方もおられますが、アトレオン騎士団長様がいらっしゃいました」
「な……!?」
「どうして王子が……!」

 メイドの話を聞いて、ダニー達は驚愕の表情を浮かべていた。さすがに王子を待たせるわけにはいかんと二人は慌てて玄関へと駆けていく。

「やあ、先日ぶりだね」
「これはアトレオン王子、ようこそおいでくださいました!」
「ようこそクルメノス領へ!」

 玄関の前に先頭で立っていたのはアトレオンだった。ダニー達は愛想笑いを浮かべて応対をする。
 
「先日はどうも」
「こんにちは。先日は娘の件で失礼しました」
「あーい!」
「きゃーう!」

 そこでトワイトとハバラがそれぞれ子を連れて挨拶をする。リヒトを見たダニーは一瞬、眉を顰めるが、二人へ言う。

「まあ、お互いさまということにしましょう……ご用件は中でお伺いします。どうぞ」
「お邪魔するぞい」
「お邪魔します」
「む、ドラゴン殿はともかく、平民の冒険者は外で待っていてもらおうか」
「え!? 折角来たのに……」
「わほぉん……」

 ダニーが中へ案内しようとしたその時、キーラがヒューシとユリはダメだと不満げに言った。
 それを聞いたユリはダルの首に抱き着き、呻いていた。

「ふん、冒険者が土足で入っていい場所ではない。そっちのペット達もだ」
「アー!?」
「ぴよー!?」
「うぉふ!?」
「あーい!」
「ちょっと、止めてください……!」

 キーラはグラソンやひよこ達を追い立て始めた。驚くペット達にユリが反論する。

「ん? よく見るとお前、いい顔立ちをしているな? 俺の女になれば貴族に――」
「……!」

 するとキーラがユリに目をつけて声をかけた。ニヤニヤしながら貴族には逆らえないだろうという空気を出す。
 
「こけ!!」

 そこで業を煮やしたジェニファーが大きな声を上げて飛び上がる。ぎょっとしたのはキーラで、まさか攻撃されるとは思わなかったようだ。

「なんだ!? ニワトリが生意気な!」
「そこまでだ」
「見ておれんのう」
「ぐ……!?」

 ジェニファーを蹴ろうとしたキーラの腕をアトレオンが捻り上げ、ディランが足をブロックした。
 
「あー♪」
「きゃーい♪」
「……」

 ペット守ったディランとアトレオンにリヒトとリコットが手を叩いて喜ぶ。
 ザミールはそんなキーラを不快であるといった目で見ていた。
 そこでいつもにこやかにしているアトレオンが声を低くして口を開く。

「……彼らは父上の客人であることを忘れているのかい? 僕は王子ではなく騎士団長としてここに来ているけど、無礼をさせないためでもある」
「う、く……も、申し訳……ありません……」
「アトレオン様、息子が申し訳ありません。放していただけませんでしょうか」

 ダニーが懇願すると、アトレオンはまたにっこりとしながら手を放す。

「手荒な真似をするつもりは無かったけどね? 絨毯を敷いていないところならペットでもいいだろう? 庭でもいいさ。全員が集まれるところに頼むよ」
「は、ははあ……」
「くっ……なら庭へ行きましょう。おい、メイド達。庭にテーブルを運べ。私は先に行っております」
「し、承知しました……」
「……頼むぞ」

 キーラは苛立たし気に指示を出し、庭へと向かった。ダニーはため息を吐きながら首を振る。

「……では我々も」
「そういえばライル君はどこに居るのかな? 彼に用が会って来たんだ」
「ライルに……? アトレオン様に用があるとは……」
「あーい!」
「あうー♪」
「きゃーう」
「お、居たね」

 そこでリヒトが上を見上げて拳を振り上げていた。そこにはライルを抱っこしたロザがおり、ライルもリヒトとリコットを見て嬉しそうに声を上げていた。

「……チッ。ロザ、アトレオン様がライルを呼んでいる。一緒に庭まで行くぞ」
「え、あ、はい。畏まりました」
「お前が庭まで案内しろ。では準備がありますので先に行きます」

 ダニーは口をへの字にしたまま玄関を出ていく。その時、リヒトを睨みながら出ていっていた。

「ふう……」
「大丈夫かいユリちゃん」
「あ、ありがとうございますアトレオン様! ……って、あの、近いですけど……」
「まあまあ。キーラが失礼なことをしてすまなかったね」
「あ、いえ大丈夫ですよ! たまーにああいう人は居るので」
「そう言ってくれると助かるよ。ユリちゃんは僕がもらう予定だからなにかあったら言ってね」
「え? あの、それはどういう……あ、ちょっと引っ張らないでくださいよー!?」

 アトレオンが手を貸してユリを立たせると、手を引いてそのまま歩き出した。庭の位置は分かっているというところだ。

「わほぉん」
「あい」
「なんかとんでもないことを言っていたような……」

 ダルはついていかずリヒトのところへ戻って一声鳴いていた。ヒューシは目を丸くしたまま固まっている。

「あ、えっと……行きましょうか、みなさん……」
「あーい」
「あーう!」
「きゃう!」
「元気だなあ」

 ロザが歩き出すと、リヒトとリコットの乗ったルミナスとヤクトがついていく。
 それを見たザミールが苦笑しながら赤ちゃんたちを見るのだった。

「どうじゃゾンネア?」
「出番がないかと思ったよ。そうだねリヒトとライルにくっついている魂が並んでいるよ。高揚している感じがある」
「やっぱりなにかあるんでしょうか。よく見れば目元以外は似ていますし」
「……話を聞いてみましょうか、あなた」
「そうじゃのう」

 ドラゴン一家は神妙な顔でリヒトを追った――
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