老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第276話 竜、お祝いをする

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「あー♪」
「あうー♪」
「きゃーう♪」
「わほぉん」
「ぴよー」
「うーん、可愛い!」

 サリエルド帝国の都へ戻った一行は、テリウスとアベニールを待つため、謁見の間に案内されていた。
 ライルを引き取ることになり、三人の赤ん坊がアッシュウルフとひよこ達と戯れていた。
 トーニャが満面の笑みで可愛いと叫び、ユリも同じく声を上げた。

「可愛いねー。それにしても、ライル君がお兄ちゃんと一緒に居れるようになって良かったよね」
「だな。あまり大きな声では言えないが、やはりあの叔父と祖父ではまともに育たない気がしたしな」
「やっぱり育てている親に似る傾向にあるからねえ」

 ユリがにこにこしながらライルを見ている横で、ヒューシが眼鏡を直しながら首を振る。トーニャが自分の両親を見て苦笑していた。

「ハバラさんやトーニャもディランさんを見て育っているもんね」
「父さんは立派だ。もちろん母さんも」
「急に褒めてもなにも出せんぞ」
「うふふ、ハバラはリコットちゃんをしっかり育てないとね」
「わ、分かっているよ」
「ふあ……」
「あふー……」
「あらおねむみたいですね」

 家族でそんな話をしていると、赤ん坊三人は大あくびをする。昨日から興奮状態で寝て起きてを繰り返していたため、いよいよ限界を迎えたらしい、
 それぞれダル達を枕にしてすやすやと寝息を立て始めた。ロザがほほ笑みながらタオルケットをのせていた。

「待たせたな!」
「しーっ!」
「お、おう……!? 眠っておるのか」

 大きな声で入って来たテリウス皇帝へその場に居た女性陣が唇に指を置いて静かにと抗議をしていた。
 テリウスは咳ばらいをしてから玉座へ座わらず、ディラン達の近くに移動して小声で話す。

「アトレオンから話は聞いた。色々と大変だったようだな」
「リヒトの出生が分かったから僥倖じゃったがな。弟もウチで引き取ることになった。両親公認じゃ」
『……!』
『……!』
「おう!? びっくりするじゃないか……その辺りも聞いている。我が国のいざこざに巻き込んでしまってすまない。お主達も不憫であったな」

 テリウスはディランにだいたいの話は聞いていると返していた。
 ソルやエレノアが両親公認の時に手を上げて主張すると、テリウスはまた驚いていた。それでも少し寂し気な顔でしゃがむと、労いをかけていた。

 そして今後のことは待ってもらっている間に会議で決めたそうだ。
 まず、クルメノス家はアトレオンが宣言した通り子爵へ降格。財産の接収はしないものの、ライルの養育費とロザの退職金を支払うよう命じるとのこと。
 次にリヒトとライルはディラン達が育てることになるが、いつでもこの国に移住しても良いと話した。大きくなって故郷で住みたいといった際に全面協力する。

「それは嬉しいですね。ソルさんとエレノアさんのお家が残っていたらそこに戻ってもいいですし」
「言葉が理解できるようになったらハニワとドグウを交えて話してやるつもりじゃ」
「うむ。よろしく頼む。続いてドラゴンの件だが、ゾンネア殿が残ってくれることになった」
「あら、そうなの?」
「ああ。たまには居ついてもいいかと思ってね。各国にドラゴンが居るならボクも倣おうというわけだ。で、ソルとエレノアの家に住むよ。本人たちも了承している」
「なるほど、見えるのはゾンネアさんだけだしいいかもしれないな。人の住まない家はすぐに朽ちるしな」

 そしてドラゴン移住の件について、ゾンネアがサリエルド帝国に残ることになった。
 南の国が攻めて来た際のカウンターもやると言ってニヤリと笑みを浮かべていた。
 テリオスはこの国にもドラゴンが来たと誇らしげである。

「これくらいかのう?」
「そうねえ、ロザさんはトーニャ達のところに行くのよね」
「はい!」

 話が一段落してディランが腕組みをする。トワイトがロザの件を話すが、もう決まっていたことなので返事をするばかりであった。

「あ、ザミールさんじゃない、ミルザさんはどうするの? ご両親と領地へ行ったみたいだけど」
「彼は一度、家に顔を出してからクリニヒト王国の店に戻るそうだよ。一家を案内するんだそうだ。領主のこともあるから忙しくなるんじゃないかな? ああ、それともう一つ重要なことがあったな」
「他になにかありましたか?」

 ユリがミルザのことを聞くと、アトレオンが笑いながら今後のことを口にしていた。オーレルが領主となるため手続きは必要だそうだ。
 そしてまだ重要なことがあると言い、ヒューシが首を傾げた。するとアトレオンがユリの手を取って宣言する。

「ヒューシ君、君の妹を妻にしたい。ユリちゃん、僕の嫁になってくれないか?」
「え!?」
「ほう」
「あらあら」
「おー」
「ええええええ!?」

 ごく自然に、そして本気でアトレオンがユリに結婚を申し込んでいた。
 目をぐるぐるさせながら、ユリがあたふたしながら口を開く。

「あああ、あの、あの! わ、わたし、平民でしかも冒険者ですよ!? 冗談だと思っていたんですけど!?」
「いやあ、僕は割と途中から本気だったよ。動物たちやリヒト君を可愛がる君は優しい。きっといい夫婦になれると感じたんだ。特に子供に優しいのは良いね」
「うええええ……!? 全然キレイじゃないですし、アトレオン様の隣にいたら、なんだあいつって思われちゃいますよ……!」
「僕や身内にそういうことを言ったら概ねお仕置きするから大丈夫だよ。それに僕は第二王子だ、そこまで生活様式が変わるわけじゃない」
「まあ、別宅で暮らしているからなあ」
「ええー……」

 妻になにかあったら許さないだろうねとアトレオンが笑う。兄のアベニールも特に気にしていない風である。

「テリオス陛下は息子さんの嫁がこんな田舎娘じゃ駄目ですよね……!?」
「ん? いや、別に構わん。家柄より人柄、なにより本人がいいと思った者がいいと思う」
「すごく理解あるお父さんだ……!」
「もうお義父さんと呼んでくれるのかい? さて、どうかな? 僕のことが嫌じゃなければ是非」
「いいわねえユリ」
「うう……わ、わかりました! でも、まずはお付き合いからお願いします!」
「お、全然いいよ」

 ユリは顔を真っ赤にして周囲を見た後、やぶれかぶれと言った感じで叫んでいた。
 
「まあユリはいい子じゃし、問題なかろう」
「そうですね! おめでとうユリちゃん」
「家族が増えるといいものだ、俺も……」
「はいはい、兄ちゃんの話はあとあと! 良かったね、ユリ! あれ? ヒューシは?」

 ディラン達がお祝いの言葉を投げかける中、トーニャはヒューシがなにも言っていないことに気づいた。
 
 すると――

「おお……固まっている……」
「割とショッキングな出来事といえばそうか」
「こら、馬鹿兄、固まってないで何とか言ってよ!」
「あーう♪」
「あ、リヒトが寝ながら笑った。お祝いしてくれているのかも?」
「あはは、ありがとリヒト君」
「結婚式のスピーチはボクがしてやろう、くくく……」

 そんな調子でサリエルド帝国での報告は終わった。
 リヒトの弟、ライルが一緒に住むことになり、さらに魂だけの両親もついてくる。
 さらに賑やかになるなとディランとトワイトは騒ぎを見ながら頷くのだった。
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