老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第299話 竜、パーティへ誘う

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「ありがとうディラン殿、ウェリス君達」
「ワシはなにもしておらんがのう。実際戦ったのはこやつらじゃ」
「気安く頭に触るんじゃねえよ!?」
「あはははは! ウェリスが子供みたい!」
「あー♪」
「あうー♪」

 サラマンダーを持ち帰り、ゴルドに報告するディラン達。
 ギルドの広場で横たわるサラマンダーを見て戦慄する冒険者をよそに、ディランとウェリスは軽い感じでウェリスと言い争っていた。
 リヒトを抱っこしているシスと双子が喜んでいた。

「グルザフにも言ったが油断はできん。概ねサラマンダーが当たりじゃろうが、注意は怠らんようにな」
「ああ。それとアカガシラの肉で体調が悪かった者も回復してきている。重ねてお礼を言う。ありがとうございました。みんなにも報酬だ」
「やったぜ!」
「これで旅ができるな」

 報酬を手渡されてウェリスが指を鳴らして喜んでいた。これでディランからの依頼は終了となり、クリニヒト王国へ戻って罰の精算を終える必要がある。

「なあに、困った時はお互い様というやつじゃ」
「そうですよ。お誕生日のお料理は他にも用意できますから。ねー♪」
「あー♪」
「あーう♪」

 ゴルドがディランやウェリスへ報酬を渡す。困った時はお互い様であるとディランが口にし、トワイトが同意していた。

「誕生日会をするの? 誰の?」
「この子たちよ。来月の七日が一歳の誕生日なの」
「へえ、双子だから同じ日なんだ! 色々あったみたいだけど良かったわね、二人とも無事に迎えられて」
「まったくじゃ」
「俺達は参加できけないが、なにかプレゼントしてやろうかな。食べ物はまだミルクかい?」
「ええ。でも、食べ物に興味を持ちだしているからすり下ろした果実は食べさせようかと思っていますよ」
「ふむ、ならばリンゴや桃あたりがいいか。少し待ってくれ、包むとしよう」

 双子の誕生日と聞いてゴルドは笑顔でプレゼントを用意してくれると言う。
 リヒトとライルが気に入るかはわからないが、食べさせてみて反応を見るのにいいかもとトワイトも笑う。

「良かったわね♪」
「あーい?」
「あーう?」
「どこでやるんですか?」
「クリニヒト王都の外じゃ。デランザというヴェノムキマイラが到着するあたりを貸してくれるらしい」
「うわ、国王様と友人だけのことはあるわね……私達も行っていいですか?」
「もちろんよ。お料理は私が作るし、他にもたくさん人が来る予定なの」

 ドラゴン達が来たりすると結構な数になるだろうと予測しているため、料理もたくさん作る予定だと言う。

「あ、でもウェリスはすぐ旅立つか」
「……そうだな。強くなってあいつを見つけないといけねえ」
「鍛えるだけならディランさんと戦うのでもいいんだがな」

 シスはウェリス達がすぐ旅立つであろうことに気づいて残念そうにする。
 彼も肩を竦めて留まる理由はないとあっさり口にした。
 バルドはディランと戦えるなら鍛えられるので、それでもいいと言う。

「ワシは戦わん。それこそデランザあたりと戦えばよかろう」
「キマイラか。面白そうだ」
「ふん、まあ特殊個体ならいい戦いにはなるか」
「模擬戦だからね? うーん、残念だけど私は無理そうだわトワイトさん」
「大丈夫よ。でもそっちの二人はシスちゃんを変なことに巻き込まないようにね? お父さんが提案しなかったら三年はこの国にいることになったんだもの」
「……ふん」

 ウェリスは面倒くさそうに鼻を鳴らすと踵を返して歩き出す。そこでディランが呼び止めた。

「ウェリスよ。お主がなにを倒そうとし、焦っているのかはわからん。ただ一つ言えるのは他人に迷惑をかけてはならんぞ」
「……」

 ウェリスは首だけ振り返りディランを見る。そこでディランが自分の胴体ほどある爪を彼に投げた。

「うおお!? なにしやがる!?」
「手伝ってくれた礼じゃ。その爪はお前にやろう。加工ができれば強力な武器になろう」
「いいのかよ? あんたを斬りにいくかもしれねえぞ」
「それでもワシには勝てん。今のお前では無理じゃ」
「……!」
「むう……」

 あっさりとお前には無理だとディランは告げる。その表情はウェリス達をたじろぎさせる迫力があった。

「人質を取る、他人に迷惑をかける。そういったことをして成し遂げたことに何の意味があろうか。よく覚えておくといい」
「うるさい……! ドラゴンが知ったふうなことを言うな!」
「あ、ウェリス! もう!」
「あーい」
「あう」
「その内、きっと分かるはずよ。どんな手段を使っても、というのは結果的に自分の首を絞めることになるもの」

 ディランの言葉を聞いてウェリスは爪を抱えたまま激昂して走り去っていき、バルドも追っていく。
 トワイトも悲しそうな顔で復讐に無関係な人間を巻き込むべきではないと語っていた。

「さて、ではゴルドから果物をいただくまで少し待つとしよう」
「あい!」
「あーう」
「あそこに椅子があるわね。座って待ちましょ!」
「わほぉん」
「わん」
「ぴよー」

 ひとまず時間を潰そうとシスがギルドの裏手にあるテーブルと椅子に目をつけた。
 ぞろぞろとペット達と共に移動して椅子に座る。
 
「わほぉん」
「あーい♪」
「わ、ダル君が膝に」
「リヒトを抱っこしているから気にしているのね」

 珍しくダルがシスの太ももに前足を置いてリヒトと目線を合わせていた。リヒトは喜んで頭を撫でる。

「ウェリスのこと、ごめんなさい。あいつ馬鹿だからすぐ失礼なことをしちゃうのよ」
「まあ別にええわい。ただ、無茶をして死ぬのはいかんと思う。ウェリスはともかく、仲間を巻き込んではならん」
「まあ、そうよね。とにかく強くなってドラゴンを倒すってばかりだから、周りが見えていないのよね」
「だから魔物を混乱させてスタンピードを狙った。ふむ、あの爪を悪いことに使わないよう見張ってやってくれ。攻撃よりも守り。必要なのは怒りよりも冷静さじゃ」
「うん、分かったわ。長生きしているだけあって重い言葉ね」

 ディランがフッと笑うとシスが困った顔で笑っていた。

「あーうー」
「なあに? ルミナスの背中に乗るの?」
「あう!」
「あはは、ライル君もペットが好きなのね。やっぱり兄弟だわ」

 そんな話の中、ライルが遊ぶと声を上げていた。
 やがてゴルドがリンゴと桃を持ってくると、好物の匂いを嗅いだダルがそれに気づき色めき立つ。
 お預けとなったダルはしばらくしょんぼりしているのだった。

 それからクリニヒト王国へ戻った一行はウェリスの罰が解かれた。王都から立ち去る際、ディランは腕組みをして彼等を見送るのだった。

 そこからしばらく平和な日々が続き、誕生日が目前となる――
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