老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第309話 双子、誕生日を迎える⑩

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「リヒト君、ライル君、がおーって言って!」
「あおー!」
「あうー!」
「きゃうー!」
「だーう」
「まだダメかあ。でも可愛いー♪」

 ユリが手を上げて威嚇するように言う。一応、三人が真似をしたがいつもの「あー」といった声しか言えなかった。
 ライルは手を上げた瞬間に後ろにコロンと転がり、ユリウスはハイハイの態勢からお座りがまだできないので見ているだけだった。

「わおーん!」
「あー♪」
「あはは、ヤクトが代わりにやってくれたわね」

 そこでヤクトは後ろ足で立ち、前足を掲げて一声鳴いた。レイカがその前足を掴んで支えてあげた。

「あちこちで色々な話をしいるな。程よく酒も入りドラゴン達も機嫌が良さそうだ」
「土地を貸してくれて助かったわい」
「いえいえ、殆どディラン殿の縁ですからな。デランザがここに居るのもその一つなのだからな」
「お料理もかなり減ってきましたね」

 そこでモルゲンロートがディランとトワイトの下へ来て、周囲を見ながら各国・種族関係なく楽しんでいる様子に笑みを浮かべていた。
 ディランは土地を貸してくれて助かったと礼を述べる。だが、この規模の縁は外ならぬ夫婦とリヒトが作って来たものだと再三口にした。
 
「フラウさんのお花、今度持ってきて欲しいわ」
「お安いごようですよローザさん♪」

「あ、あの、ザミール殿、今度お店に行ってもいいだろうか」
「え? もちろん大歓迎ですよエメリさん」
「おやおや、ミルザも隅におけないね?」
「どういうことですアトレオン様?」

「僕はロイヤード国のギルファと言います。リヒト君とライル君に酷いことをしたらダメだよ!」
「ごめんなさいね、ウチの弟はリヒト君やペットが大好きだから」
「王子と王女様……!? は、はい……」
『……♪』
「兄貴、面白がっているな!?」

 色々と交流し、気の合う者が見つかり話している感じになってきた。意外な組み合わせもあり興味深い。

【その程度ではまだまだ我にも勝てんぞウェリスとやら】
「くそ……! なんだこいつ!? この前の異常サラマンダーより全然つええ……!」
「面白い……!!」
「頑張れウェリス!」
「俺達ほどではないが、あいつもなかなかやるなコウ」
「そうだなボルカノ」

 そんな中、ウェリスがデランザと模擬戦を始めており、騎士や冒険者が観戦をしていた。幸いここは広いので暴れても問題がない。

「ガルフ、お前も参加しろ数で有利を取るぞ」
「ええー、酒飲んでるから無理だって」
「状態が悪い時に戦うこともあるが……まあ、新婚だし止めておけ。お前が言いだしたことだ、ちゃんと戦うんだな」
「くそ、バーリオのおっさんめ……」
「わんわん!」
「アー!」

 監視役としてルミナスがガルフと一緒に居て見ていた。しかしウェリスも手練れのため簡単にはやられていなかった。 

「あれはええのか?」
「まあ、今日は無礼講ということで。なにかあればボルカノ殿が止めるだろう」
「少ししたら私が止めますよ! ケーキ食べたいですもん」

 暴れているのはいいのかという話になったがモルゲンロートは笑いながら構わないと言う。最悪フレイヤがデランザを止めるとのこと。

「しかし約半年でリヒト君の親が見つかったのは僥倖でしたな」
「うむ。すでに両親は他界しておるのが残念じゃがな。あそこに居る者達も猛省してくれればええが」
「大丈夫でしょう。あなた達に出会った者達はすべからくなにかに気づいている。良い方向へ行くと思いますよ」

 怒涛といっても差し支えないイベントの連続だったが、ディラン達によって改心した者も多いためきっとダニー達も変わるだろうとモルゲンロートが言う。

「……ドラゴンと聞いた時は国の危機だと覚悟を決めたものだが、蓋を開けてみれば良いことばかり。幸運の子ではないが、ディラン殿は福の神のようだ」
「そんなことは無いわい。元々、追い出されてこの国に来ただけじゃからな。ワシらはお願いをしてばかりじゃよ」
「そういう謙虚なところが良いのですよ。ロクロー殿やフラウ殿といったドラゴンもとても理知的だ」
「ありがとうございます。でも、決して良いドラゴンばかりとは限らないので、そこはご注意くださいね」
「ふむ……」

 モルゲンロートはこの出会いをとても感謝しているという。リヒトとライルの誕生日を機に一度言っておきたいと思っていたそうだ。
 しかし、トワイトはふと真顔になってドラゴンも様々居るのだと返す。

「……例の里ですか」
「うむ。ゾンネアが気にしているから近々な。誕生日を迎えたし、一度行ってみるつもりじゃ」
「大丈夫だと思いますが、リヒト君達も居ます。お気をつけて」
「もちろんじゃ」
「ソレイユさんに預けてもいいですしね」

 ディランとトワイトがモルゲンロートの質問にそう答える。

「さて、ケーキを用意しましょうか?」
「その前にプレゼントをいくつか見てみるか」
「わかりました♪ お父さんは持って来たんですよね」
「一応な」
「ほう、それは楽しみですね」

 明るい話にしようとトワイトがケーキを用意しようかと提案する。しかしディランはその前にプレゼントをいくつか開けてお礼を言うと口にした。

「私は先に見たいな」
「ではワシのから出すか」
「ふむ、大きいが……これはなにかな?」
「まあ見ておれ」

 モルゲンロートの言葉にディランが頷き、持って来た荷物を取り出す。
 少し大きめな細長い荷物をいくつか取り出し、組み立てていく。

「組み立て式とはな」
「お、なんです? ディランさん作ですか?」
「竜神様、これは?」
「リヒト達が楽しそうにしておってな。考えたのじゃ」

 ザミールとエメリがこちらに気づきやってきた。質問には濁して答え、見てからのお楽しみだと笑う。

 そして――

「おお……!?」
「大きいですね……!」
「これは……ここで滑るのですか?」
「うむ」

 ――程なくして完成したのは滑り台だった。ドワーフの町で滑り降りをしていた際に双子が喜んでいたのを覚えていた。
 それでそろそろ外遊びが増えそうだと思い作った形だ。リコットも来るのは知っていたので遊ばせてやろうと持って来た。

「柔らかいクッションを周りに置いて、と」
「パパ、これ高さがあるけど大丈夫?」
「このクッションがあれば大丈夫じゃ。ふちもそう簡単に乗り越えられないようにしておる」
「みんな、これで遊ぶ?」
「あい? ……あー♪」
「あうー♪」
「きゃー♪」
「だーう?」

 そこでトワイトが双子を抱っこすると、滑り台を見て目を輝かせた。
 早速、大人でも大丈夫な幅の広い階段をあがっていくトワイト。

「それじゃリヒト行ってみるかしら?」
「あーい!」
「わ、いきなり行くの!?」

 リヒトはトワイトから離れると、早速滑り降りた。下で見ていたトーニャが慌てて出口に立つ。

「はい、おかえりー」
「あー♪」
「うわあ、ものすごく嬉しそう」
「あい! あーい!」
「え? もう次? 怖くないのかしら……」
「ライルが行くわよー」

 下でトーニャが抱っこすると、すぐに上へ行こうと引っ張ってくる。
 そこでライルが降りてきた。

「あーうー♪」
「ああ、ライル様!」

 今度はロザがライルをキャッチして抱っこした。特に危険もなく、一番下にもクッションがあるのだ。

「あい!」
「きゃう?」
「一緒に行っていいの?」
「あう」

 そこでトーニャの手を引きながらよちよちと歩くリヒトがリコットのところへ行く。滑り台を指さして一緒に行くように示唆した。
 そのままソレイユがリコットを連れて行き、続けてリヒトはユリウスのところ向かう。

「ユリウスも?」
「あい!」
「リヒトは偉いわねえ」

 みんなで遊びたいようでリヒトは風車をカバンから取り出して笑う。
 ユリウスとシエラも階段を上っていく。
 追いかけたリヒトは自力で階段を上り、リコットと一緒に滑った。

「きゃーい♪」
「あーい♪」
「うふふ、楽しそうでいいわね」
「物おじしないのは凄いな……」
「ウチの弟たちは凄いわ」
「血は繋がっていないのにそんな感じがするよ」
『……♪』

 リヒトとリコットは一緒に滑り、歓喜の声を上げていた。ハバラははらはらしながらそう呟き、トーニャも困った顔で言う。
 トーニャの隣に立ったヒューシが苦笑していた。

「だー♪」
「あーう!」
「あ、いいわねユリウス♪」

 ライルはユリウスと一緒に滑り、貸した風車が勢いよく回っていた。その様子が面白かったようでユリウスは大喜びである。

「よし……そしたら次は私のを出そう。ディランさん、あの箱を」
「あ、ザミールさんのは楽しみ!」

 するとそこでザミールが不敵に笑い、プレゼントを取り出す。
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