老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第316話 竜、覚える

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「あーい!」
「あうー!」
「きゃーい!」
「今日も元気でなによりじゃ」

 誕生会から二日ほどが経過した。
 足蹴り馬を駆って元気よく庭を走っている双子を見て、畑仕事をしていたディランが満足気に頷いていた。
 たった二日しか経っていないが、ライルもあの日によく遊んだせいか足蹴り馬をよく走らせていた。
 リヒトほどではないものの成長がみられていた。とはいえすぐに体力がなくなってしまうのでヤクトやダルが補助で押してあげる姿もあった。

 ちなみに今はライルとリコットが乗り、リヒトは自分の足で走っていたりする。
 ベンチではソルとエレノアの二体が並んで子供たちの様子を見ている。そのおかげで仕事の効率が上がっていた。

「あー♪」
「お、こっちへ来るのか」
「うぉふ!」
「あーう♪」
「きゃーう♪」
「わん!」

 するとディランに気づいたリヒトが方向を変えてお父さんのところへやってきた。
 ヤクトとルミナスがスピード上げるためライルとリコットの足蹴り馬を押していた。

「リヒトはよく走れるようになったのう」
「あう!」
「ライルはヤクトに掴まって立てるようになっただけでも偉いぞい」
「あーう♪」

 自分もと、ライルは馬から降りてディランの足を引っ張る。
 ライルも誕生会で滑り台をしたせいか、着地で足を使うことを覚えたようで掴まり立ちと掴まり歩きができるようになっていた。
 ディランが撫でると嬉しそうににっこりと笑う。

「きゃう!」
「リコットはリヒトに合わせて成長しておるのう。家に居る時はどういう生活をしているんじゃろうのう」
「きゃーい♪」

 リコットに関してはリヒトが出来るようになったことを真似て、会うたびに成長している気がするとディランは頭を撫でていた。

『……!』
「おお、息子達は元気に成長しておる。それを見られるのはまだ良かったほうじゃな」
『……♪』

 ソルとエレノアも近くに来てアピールをする。ディランは微笑みながらそう言う。

「あーい!」
「あーう」
「む、滑り台か。よし、畑仕事も終わったし遊ぶとするか」
「きゃー♪」

 そこでリヒトがディランを引っ張り設置された滑り台を指さした。
 赤ちゃん達だけでは遊べないため、ここぞとばかりに頼み込んでいた。

 庭は遊具がたくさんおかれたのでリヒトやライルは庭へ出たがるようになった。
 先の足蹴り馬もそうだが、ボール遊びもダル達と外でやるし、手押し車を使っておもちゃを持って来るといったこともできるように。
 ただ、シーソーはひよこを飛ばして遊ぶという間違った扱いをしてたりする。
 
 もらったプレゼントは多種多様で、ガラガラや謎の置物、お城を組み立てる木のおもちゃといったものがあった。
 とはいえ、笛やでんでん太鼓、風車、埴輪は土偶といったすでにあるおもちゃには勝てなかった。
 それでも遊びの幅が広がったため、楽しそうである。

「あー♪」
「あうー♪」
「きゃーい♪」

 一人ずつ滑らせるのもいいが、ディランと一緒に滑るのもせがむ赤ちゃん達。
 義理とはいえ父親と思っており、リコットからすると祖父にあたるため仲は良いのである。

「あ、ここに居たのか。父さん、朝食ができたよ」
「ハバラか。畑仕事をしていたらリヒト達が楽しそうにしておったので様子を見に来たのじゃ。ほれ、また後で遊ぶぞい」
「あーい!」
「あうー」
「リコット、おいで」
「きゃう」

 そこへハバラが登場し、朝食を告げに来た。滑り台は終了だとディランが言うと、リヒトは手を上げて返事をし、ライルはもう少し遊びたかった様子が見えた。
 
「みんな行くぞ。フリンクは後でな」
「わほぉん」
「きゅー!」

 ダルやジェニファー達もてくてくと後をついてきて朝食に足取りも軽くなる。リコットは渋々ハバラに抱っこされて家へと戻っていった。

「あなた、リヒト達のお世話ありがとうございます」
「お義父さん、すみません」
「気にせんでええ。母さんと準備してくれていたのじゃから。ハバラは洗濯物を干してきてくれたのか」
「そうそう。頂上は雲の上だから良く乾いていいね。俺達の住んでいる山はそこまで高くないから羨ましいよ」
「そうね、おむつはたくさん変えるから乾くのが早いと助かるもの。ふふ、みんな待てて偉いわね」
「わん♪」
「ぴよー♪」

 食堂へ行くとトワイトとソレイユが準備を終えたところだった。
 ソレイユがペット達の食事を用意しながらダル達の頭を撫でて微笑む。

「いただきます」
「リヒトとライルはミルクと果物を少しね」
「あい♪」
「あーう♪」

 ネクターリンの実を食べた誕生会からミルクと少しの果物を食べられるようになった。桃はそれほど手に入らないのでミカンや、流通で比較的手に入りやすいバナナを食べさせている。
 バナナはお気に入りで、双子は笑顔で食べている。

「父さん、母さん、そろそろ家に帰ることにするよ」
「あら、もう? 今回は早いわね」
「お家をあまり空けるわけにはいかないのと、リコットがどんどん帰らなくなりそうなので」
「きゃうー」
「ああ」

 食事中、ハバラが今日中に家へ帰ると話した。トワイトが首を傾げると、ソレイユが困った顔でリコットにミルクを飲ませながら彼女の為に帰るのだと言う。

「あえてこっちに住むのもええと思うが」
「モルゲンロート様に山の管理を頼まれているからそういうわけにもいかないさ」
「じゃあお昼寝をしたタイミングで?」
「そうします」

 仕事があるから仕方ないとディランとトワイトが頷き、赤ちゃん達が寝るまで遊ばせることに。

 そして――

「……わほぉん」
「む、ダルか。皆眠ったか?」
「うぉふ……」
「わん……」
「なんだか歯切れが悪いわね?」

 ――遊戯室で遊んでいた赤ちゃん達と一緒にいたダル達が縦に揃ってリビングへ顔だけを覗かせていた。寝たら呼びに来るよう言っていたのだが、どうも歯切れが悪い。
 全員でその場へ行ってみると、三人ともぐっすりと眠っていた。

「あら、ちゃんと寝ているじゃない」
「わほぉん」
 
 しかしダルが前足をリコットに指す。見ればがっしりとリヒトの袖を掴んで寝ていた。

「まあ寝ているなら連れて帰れるし……お!?」
「どうしたのハバラ?」
「力が強い……!」
「あらあら」

 ハバラが抱っこしようとしたがリヒトを掴んだまま離さなかった。ちょっとドラゴンパジャマを着たリヒトが浮いたくらいである。

「これは……いつも寝ている時に連れて帰られるから握っているのかも……」
「リコットが覚えたってことか……?」
「こけー……」
「やるのう」

 ソレイユがハッとして推測を口にし、ハバラがびっくりしていた。
 いつも目が覚めたらリヒトが居ないため、そうしないよう掴んでいるのだろうと。
 ジェニファーがぽかんと口を開けて、リコットを見ていた。

「可哀想だけどお家に帰らないとな。よっと」
「またねリコットちゃん♪ おみやげにライルぬいぐるみを作ったから持って帰って」
「ありがとうございます♪ 相変わらず可愛いですね。リヒト君と髪の色が違うくらいですものね」
「まあ、また来るといい。双子も遊び相手が増えるのは悪くないしのう」
「リコットも帰るのに慣れると思うからそうするよ」

 そういってハバラ達は家へと戻って行った。

「さて、こっちはどうかのう。リヒトはともかくライルの反応が気になるわい」
「みんな仲がいいですからね。みんな、リコットちゃんが居なくなったから構ってね」
「わほぉん」
「さて、リヒト達が果物を食べるようになったからなにか植えてみるかのう」
「あ、いいですね」

 ひとまずダル達を遊戯室に置いて、ディランとトワイトは仕事に戻るのだった。
 今日も一日、平和であったとさ。
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