老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第342話 竜、語る

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「ルーガス、久しぶりじゃのう」
「……ふん、俺は会いたくなかったがな。おかげで計画がめちゃくちゃだ。一日でここまで瓦解するとはさすがと言わねばならんだろう」
「どうしてこんなことをしたの?」
「ていうか……知っているんですか?」

 ディランが久しぶりと口にすると、ルーガスは会いたく無かったと返していた。
 トワイトも知っているようで、何故と問う。
 そこでユリがお互い知り合いであることを不思議がる。

「そりゃあもちろん、黒竜族の住処を手に入れるためだ。散り散りではなく、国として土地が欲しいからな」
「昔、少し関わったことがあるのじゃよ。で、東の島はどうした? お主達はあそこに住んでいたはずじゃが」
「少し、だと? あんたが俺達に……親父たちになにをしたか忘れたとは言わせんぞ……!」
「わ!?」
「凄い圧力だ……!? 黒竜のリーダーなのか、こいつが……!」

 トワイトの質問にルーガスは不敵に答えた。
 だが、ディランがユリへ返した言葉が気に入らなかったようで激昂する。
 障壁があるにも関わらずユリとアトレオンは冷や汗を流す。

「あーい?」
「あうー?」
「わほぉん?」
「ぴよー?」

 リヒトとライル、それとペット達はユリ達のように驚いてはおらず肩口付近から顔を覗かせてルーガスを見ていた。

「……人間の赤子……あんたはやっぱり人間の味方なんだな?」
「別にそういうわけではないがのう」
「あい」
「あう」
「あの時もそうだっただろうが」
「ちょっと待って! ルーガスだっけ? ディランさんを恨んでいるの? でもそれとこの国を掌握したのは繋がらないよね? ディランさん達といったいなにがあったの?」
「あ? ……知る必要はないだろう人間が」

 その双子を見てルーガスが目を細める。双子を見る目は怒りではなく、少し憂いを帯びているような感じだった。
 ユリはそこでディランの関係と国の侵攻について疑問を投げかけていた。
 ルーガスは話に応じる気は無いと口からチロチロと炎を出す。

「そういうわけにもいかない。サリエルド帝国は僕の国でね? 侵略されている側としては聞きたいところだよ」
「話すつもりはない。だが、ディランが出てきてしまったらこちらも勝てる見込みはない。ギーラもやられたようだし、残念だが今回は諦めて撤退するとしよう。正面からやり合う必要はない。レガルザ、下がれ」
「ぐ……うう……承知……」
「逃げるの……!? 意外とあっさりしている……?」

 アトレオンが鋭い目を向けてからルーガスへ言うが、レガルザを下がらせつつ撤退を選んでいた。

「そうだ人間。お前達も気をつけた方がいいぞ? こんな破壊者、いつお前達に牙を剥くかわからないしな」
「破壊者……? ディランさんが?!」
「あーい!」

 ルーガスはディランを指さして破壊者と口にする。
 今まで助けられていたユリは驚き、リヒトはなんとなくユリの驚きに呼応するよう大きな声を上げていた。

「破壊者か。確かにお前はそう思っても仕方ないし、実際そうじゃろう」
「開き直りか? これだから年寄りは困る」
「そうでもないぞい。お前達、黒竜族の一部を殺したのは間違いなくワシじゃしのう」
「……! それを開き直りと言わずなんという……!!」
「ディランさん、本当なの……?」
「うむ」

 ディランが破壊者であることを口にすると、本人があっさりと肯定した。ルーガスが激高して叫び、ユリが困惑して尋ねていた。
 もちろん、嘘などついてはいない。

「ルーガス、このでかい爺さんは何者なんだ……? お前ほどの者が撤退を選ぶとは……里の年寄りを遠ざけた理由と関係があるのか?」
「……」
「この戦いは黒竜族全体に関わるものだ。敵なら倒さねば安寧の地は得られん。人間共々やるべきではないか?」
「無理だ」
「なに?」

 そこへ仲間の黒竜族が現れ、ルーガスへ尋ねる。
 折角ここまでお膳立てしておいて、逃げるという選択をとった彼に疑問の目を向ける。
 しかし、ルーガスはそれでもディラン相手には無理だと言って意見は変わらなかった。

「勝てないというのか? お前と我等が全員でいっても?」
「ああ。人質をとっても無理だ。あの男を倒すという攻撃手段を俺達は持たない」
「そんな馬鹿な……」
「やってみなければわからん! 怖気づいたか、ルーガス! ならば我々だけでも戦うぞ!」
「ああ! レガルザのアシッドクロウを受けている、今なら左腕は使えまい……!」
「……」

 仲間の黒竜達は情けないとばかりに首を振り、ケガをしている今が好機であると三体が突っ込んでいく。
 ルーガスは止めずに黙って成り行きを見ていた。

「とーちゃ!」
「あーう!」

 襲い来る黒竜を見て、リヒトとライルはぺちぺちとお父さんの背中を叩いて注意をするよう促していた。

「大丈夫じゃ。この傷がとか言っておったが……ぬん! もう再生が終わったぞ」

 そんな双子を労いつつ、腕に力を込めるディラン。すると傷口から血と酸が混じった液体が飛び出した。
 そのまま傷が塞がると、向かって来た黒竜へ視線を向けた。

「威力を抑えてくださいよ。彼等は殺してはいけませんし」
「もちろんじゃ。カオスウェイブ」
「……!? 振動が――」
「ディランさんが技を使った……!?」

 トワイトが向かって来る黒竜に手加減をするよう口にし、ディランは承諾する。
 次の瞬間、両手を前に突き出したディランの腕から光り輝く波動が飛び出した。
 規模が大きく、二体が完全に巻き込まれ、一体は高く飛ぶことで回避する。
 そしてまともにカオスウェイブ受けた二体は身体を軋ませた後、身体から血を噴き出して落下していった。

「な、なんだ今のは……!? 音もなく身体をズタズタにしただと……!?」
「……それでも死んでいないからマシだぜ。俺の親父達は肉塊にすらなかったんだからな」
「親父……お前の父親はディランさんに殺された……!?」
「そうだ人間の王子。その乗っているドラゴンは災厄と呼ばれるにふさわしいドラゴンだ。あの時……八百年前に黒竜族三千五百体を一人……いや、そこにいる妻と二人で虐殺したドラゴン、それがアークドラゴンのディランだ」
「そうじゃな。ルーガスの言う通りだ」
「……あんた――」

 焦る黒竜だが、ルーガスは当然だといった顔と声色でディランを睨む。
 そして自分の親はディランに殺されたと言い、ディランもまた否定はしなかった。
 なにかを言おうとしたルーガスの前に、背中のリヒトとライルやペット達が首を傾げていた。

「あーい?」
「あうー?」
「わほぉん?」
「うぉふ?」
「わん?」
「こけー?」
「うるさいな、黙らせろ」
「なんだろ……ディランさんがしたっていうなら本当なんだろうけど、なにか事情があったんじゃないかなって。だからリヒト君達が不思議がっているのかも」
「……事情があったとしても、親を殺されたことに代わりはない。覚えていろ、今は無理でもいつか必ずあんたを葬り去ってやる」

 ユリはみんなを見てディラン側の意見も聞いてみないと分からないと言う。
 ここに居る黒竜以外の者はディランとトワイトに助けられた者が多いからである。

「あーい!」
「さっきからうるさいぞ人間の赤子……! お前から始末されたいか!」
「あい!」
「くっ……もういい、行くぞ!」
「待てルーガス」
「なんだ!」
「このまま行ってしまえばまた同じことをするのか?」
「当然だ。人間なぞ要らん。俺達が住む土地があればいい。この国も王女を手中に収めているから一先ず仮で押さえておくがな?」
「……ふむ、それは困るのう。仕方あるまい、あの時のことをはなしてやろう」
「……!」

 もうディラン達に手を出さないが、その内また行動を起こすと口にするルーガス。
 彼に対し、少し間を置いてから当時の、八百年前のことを話すと言い出した――


 
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