老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
382 / 385

第382話 双子、鬼の住処に連れていかれる

しおりを挟む
「あーい」
「あうー」

 リヒトとライルはウコンとサコンに連れられて町の外へと出ていった。
 近くにある森へと移動し、二人は周囲を見渡しながら鬼達についていく。
 やがて切り開かれた場所にある集落か村といった感じの場所へと到着した。

「お、ウコンにサコン帰ったか。……その坊やたちは?」
「竜神殿の義理の子だそうだ。人間の赤子だぞ」
「ほう、それは大事な客人だな! よく来た」
「あい♪」
「あう♪」
「うぉふ」
「こけー」
「ぷひー」

 村へ入るとその辺を散歩していた鬼がウコンたちに気づき、声をかけてきた。ディラン達のことは知っているようでかがんで双子の顔を覗き込みながら歓迎してくれた。

「おや、これはまた美味そうなニワトリに子豚だ。買って来たのか?」
「こけー!?」
「ぷひ!?」
「……! あーい!」
「あーう!」

 その鬼がジェニファーと子豚を見て目を細める。
 言葉を聞いてびっくりしたジェニファー達が、リヒトやルミナスの後ろに隠れる。その状況にリヒトとライルは憤慨して声を上げた。

「彼らは竜神殿のペットだ。食べたらとんでもない目に遭うぞ」
「そうか……まあ、後で――」
「こら、あっちへ行け」
「おっと、じゃあな! 楽しんでいってくれ」
『……』
『……』

 サコンがへへっと笑う鬼を追い払っていた。
 なにやら嫌な笑みではなかったかと、ソルとエレノアは顔を見合わせる。

『……』
「あい?」
『……!』

 ソルはひとまず剣を抜いてダルの頭に乗った。エレノアもルミナスの頭に乗り警戒態勢となった。

「ひとまず広場へ行こう。そこでお披露目だな」
「うむ。こっちだ」
「あう?」

 さらにウコンとサコンが歩き出し、リヒトとライルは後を追う。
 奥へ行くとだんだんと鬼が増えてきて、赤、青、黄色、紫などの色をした者がリヒトとライルを見ていた。

「おー、人間の赤子か? ぞろぞろときおったのう」
「昨日、長が会いに行った竜神殿の子だ。みんな、準備を頼む」
「おお」
「坊やたちはここで待っていてくれ」
「あい」
「あう」

 ウコンとサコンは広場に着くと、敷物を持ってきてその上で待っていてくれと言い、どこかへ行ってしまった。

「へえ、人間の赤ちゃん」
「鬼の村に来るのは初めてだな。町の人間は来ないし」
「お祭りがあるから――」
「――うまいんだってよ……」
『……!?』

 遠巻きには女性の鬼も居て、珍しいといった感じで見ていた。
 他の鬼達もひそひそと話しており、その途中でエレノアがあらぬ言葉を聞いた。

『……!?』
「あい?」

 ソルも聞いていたようで、リヒトとライルの手を引いてここから離れようとする。リヒトはよく分からっておらず、首を傾げるばかりであった。

「おー、人間だ人間だ!」
「あそぼーぜ!」
「あー♪」
「あうー♪」
『……』

 そこで鬼の子がバタバタと現れてリヒトとライルに声をかけてきた。手を上げて挨拶をする双子に、移動するタイミングを失ったとソルが地に手をついてがっくりする。

「あい!」
「お、でんでん太鼓だな。追いかけっこはできるのか?」
「赤ちゃんだからまだ無理だと思うよ……わんちゃんに触ってもいい?」
「あう」
「わほぉん」
「こけー」
「こいつは食べていいのか?」
「うー!」
「いてっ、ダメなのかよ……」
「ぴよー」

 子供たちは好奇心旺盛といった感じで双子とペット達を取り囲む。
 男の子は追いかけっこなどで遊びたいようだが、女の子はまだ走れないだろうとやんわり諫めていた。
 ダル達と遊ぼうということになったが、その中で男の子の鬼がまたジェニファー達を食料としてロックオンした。
 そのことにリヒトは口を尖らせて男の子を遠ざけようと軽く叩いて押した。

「ひよこちゃん達、よく懐いているなあ」
「こんなに肩に乗ったりしないよねー」
「あうー♪」
「アー」
「……こいつはなんだ? 鳥、なのか?」
「ア」
「そうだって」
「飛べ無さそうだけどなあ……」
「アー!」
「うわ、襲ってきた!? 逃げろ!?」
『……』

 ひとまず子供たちは良い子のようだとエレノアが警戒しながらそう思う。
 するとしばらくして、準備を指示された鬼が戻ってきた。

「ほらガキども、どいたどいた」
「はーい!」
「ちょっと失礼するよ」
『……!?』

 その鬼がしゃがんで手にしたものを見て、エレノアが飛び上がった。
 立派な桐の台座の上に、鈍く鋭い包丁が乗っていたからだ。

『……!』
「わ!? な、なんだこの土偶……!?」

 するとエレノアが包丁に覆いかぶさり取れないようにする。きっと双子を料理する気だと確信したのだ。

「おいおい、いいところなんだから邪魔しないでくれよ。まいったな」
「いいところってのはどういう意味だ? あ?」
「あーい!」
「あうー!」
『……!!』

 そこへ眉間に皺を寄せたギーラが現れた。村に門があるわけでもないので誰でも入れるのである。

「お、なんだお主は?」
「俺は黒竜のギーラ。その双子の友達だ」
「あい?」
「友達だろ!?」
「あい♪」
「まあいいけど……最初に会った奴が『後で……』とか言ってたし、さっきあそこの奴がこいつらを見て『うまいんだってよ』って言ってたぞ。リヒトとライルを食べるつもりじゃねえだろうな?」

 ギーラが見下ろしてからそう告げる。ソルはこくこくと頷き剣を頭上で振り回していた。
 しかし、包丁を持ってきた鬼は目をぱちくりとさせて口を開く。
 
「へ? なにを言っているのだ。おい、お前そんなことを言ったのか?」
「お、俺かい? あー、昨日その子達が太鼓を叩いていたって話を聞いたんだ。赤ちゃんの割に上手いって話しのことか……?」
「なんだと? 悟られまいと嘘をついているんじゃあねえだろうな」
「そんなことするかっての。そもそも、竜神殿のお子さんを食ったりしたら今度こそ俺達は絶滅させられるだろうが……」
「むう」

 と、緑のアフロヘアーをした鬼が肩を竦めて言う。
 ギーラは確かにそうかもしれないと腕組みをして口を尖らせていた。
 
「なんだ、騒がしいな。ん? お前は黒竜ではないか」
「酒吞童子さんか、邪魔しているぜ」
「もちろん歓迎するぞ。さて、ウコン出してやれ」
「ハッ!」

 そこへ酒吞童子の朱天もやってきた。
 フッと笑いながら来訪者であるギーラを歓迎する。そして指を鳴らすとどこかへ行っていたサコンが前へ出てきた。
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...