老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第44話 竜、続けて王都で調査をする

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「ふあ……よく寝た……お布団で寝るのも久しぶりね」

 昨晩は報酬を貰ってから宿へと行き、お風呂に入ってからすぐに寝た。
 竜の里に住んでいた頃は人間の姿で生活をしていたのと、里を出てからも生活様式をドラゴンだったり人間だったり使い分けていたのでそれほど苦労はしていない。
 父のディランと違い恐れることはないので、あちこち旅をしてきた。

「んー……朝ごはんは食べないとね。どうせすぐ見つかるわけもないし急がなくてもいいわよね」

 トーニャは着替えるとチェックアウトを済ませて町へ出る。
 まだ早朝だが、商人や冒険者は時間が命なのでそう言った人間が歩いていた。
 あくびをする者、バッチリ寝ていた者、今から何を食べようか考えている者……トーニャはそういった人間の顔を見るのが好きだった。

「ふふん、いい町じゃない。朝から活気があるわ。あの人、ご飯を食べないで大丈夫かなー?」

 彼女は道行く人間を見ながらそんなことを呟く。
 特にドラゴンは目的意識が低く、なぜかというとその日を生きていくことに苦労しないからだ。
 食料は魔物を倒して食べることが難しくない上、田畑を耕すこともできる。
 人間のように魔物を駆逐して平和を維持するといった『誰かがやらなければいけないこと』が無いことに起因する。
 だから仕事をして生きている人間の生活は興味深いのだ。

「エルフも寿命が長いからあたし達みたいに生活が緩いのよねえ。あっちは天敵も多いけど。さて、それはともかくご飯はどこで食べられるかしら?」

 それはそれとして自分の朝ごはんをどうにかしようと店を探す。いい匂いがしてくる店舗はそこそこある。

「うーん、パンとスープだと持たないのよね……お肉、あるかしら? あ、でもそういえば昨日行ったギルドにも食堂だか酒場があったわね。あっちでもいいかな」

 店をチラリと覗いたところ、暖かいスープとパン、サラダにソーセージというセットを食べている人を見た。
 悪くはないが、やはり肉や魚をまるっと食べたいと考えていた。
 そこで昨夜ギルドに行った際、食事をする場所があったことを思い出して向かうことにした。

「おおー、やっぱり朝は賑わっているわねー。さて、食堂はあっちだったかしら♪」

 ギルドに入ると依頼を受けようとしている冒険者で賑わっていた。
 男性も女性も種族も問わずに切磋琢磨するこの場所は世界の縮図でもあるなとトーニャは考えていたりする。


「お、なんだ……?」
「女の子?」
「すみませんー! キングオックスのステーキってできます?」
「な……!?」
「朝からキングオックスだと……!」

 装備で身を固めた冒険者達の間を縫って食堂へと向かったトーニャは、冒険者達の注目を浴びていた。
 特に気にすることもなくカウンター席に着いて、早速メニューに目を通した彼女は獰猛な牛型魔物の肉を所望する。
 その肉はジューシィで、部位によっては脂が乗っており柔らかい。内蔵はしっかり処理をしないと食べられないが捨てるところがないくらいの高級な食材である。
 ちなみに獰猛すぎて中々倒せる冒険者が居ないためお値段もそれなりに高く、朝から食べるには重い料理だ。
 それをあっさりと女性が注文したことにより周囲がざわめいていた。

「食えるのか? 銀貨八枚だ」
「あるならよろしくー♪」
「毎度。ちょっと待ってな。焼きながら他の奴等の朝食もやらにゃならん」
「大丈夫、時間はあるから」

 トーニャは笑顔でそういって待つ。
 隣でサンドイッチを食べていた女性冒険者が目を丸くして驚く。

「朝からアレを食べるの……? 豪快過ぎるわ」
「凄いな……ユリはいけるか?」
「無理に決まってんじゃん!? ガルフが挑戦するわ」
「男の俺でも朝から無理だぞ!?」

 そのパーティーはガルフ達だった。依頼をする前に軽く食べておこうとしていたりする。

「まあ、ああいう女性も居るよ。胃が強いんだろうね」
「ザミールさんはあちこちに行っているから確かに見ていそう」

 さらに商人のザミールも席におり、一緒に朝食を食べていた。レイカがトーニャとザミールを交互に見ながらそう口にした。

「今日はなんか適当なのでもいいか?」
「私はなんでもいいわ。ヒューシは?」
「僕もなんでもいいかな。お金は幸いあるし、ゆっくりしてもいい」
「私もー! あー、ダルに会いたいよう」
「三日後に村へ行くから、一緒に行くかい?」

 ガルフ達は今日の行動について話し合いをしていた。ザミールは町にある自分の商会へ顔を出してから別の町へ出発すると言う。
 その会話を聞いていたトーニャがガルフ達を見ながらポツリと呟く。

「ふーん、若い冒険者と商人かあ。彼等じゃ分からないかな? 折角だし、待っている間に聞いてみようかしら。あ、そこの大剣のおじさんー」
「うお? 俺か? どうした嬢ちゃん。というか冒険者じゃなさそうなのによくギルドで飯食えるな……」
「朝はちゃんと食べないと力が出ないの。それで聞きたい事があるんだけど、この辺りで大きなドラゴンを見なかった?」
「ドラゴンだって?」
「「ぶっ!?」」
「きゃあ!?」

 トーニャは悪気などなくドラゴンを見なかったかと冒険者に尋ねた。
 もちろん姿を見たことも無ければ噂ですら立っていないため、訝しんだ顔をトーニャへ向けた。
 その瞬間、隣で話を聞いていたガルフとザミールが噴き出し、レイカが椅子から立ち上がった。

「わ、びっくりした!? 体調が悪いなら休んだ方がいいんじゃない? で、どうなの? 他の冒険者でもいいわ。知らない?」
「ドラゴンが居るなんて聞いたことあるか?」
「いや、だったら警戒態勢になるだろ……」
「それもそうねえ」
「ちょ、お前――」
「でもそう言う話をするってことは、なにか聞いたことがあるってことか?」
「そうそう。なんか西の方にドラゴンが飛んで行ったって前の国で聞いてさ」

 ガルフが咳き込みながらトーニャに話しかけようとするが、冒険者達はドラゴンの話で盛り上がる。

「……ここは私が」

 ガルフ達が困っていると、ザミールが冷や汗をかきながら頷きトーニャへ話しかける。

「お嬢さん、私は商人でこの国ならあちこちへ行きますが、ドラゴンの話は聞いたことがありません」
「んー、そっかあ。ありがとお兄さん♪」
「ザミールが言うならそうだろうな。悪いな嬢ちゃん。ドラゴンなんて俺達には手に負えないから居ない方が助かるよ」
「……そうね」

 冒険者達は各地へ移動するザミールが知らないなら居ないんじゃないかと言って解散する。トーニャは複雑な顔をして笑うと彼等を見送った。

「へいお待ち。キングオックスのステーキだよ」
「ん、ありがとう。さて、それじゃ別の場所に行かないとね。いただきますー!」

 トーニャは気を取り直して出されたステーキを目にして笑顔を見せると、そのままステーキを切り分ける。
 その様子を見ていたガルフは、小声でザミールへと話す。

「……誤魔化せたかな?」
「他の国へ、と言っているから恐らく。だけど、他の国から飛んで来たはずという話は気になるね」
「ええ。彼女の話はもう少し聞いた方がいいような気がします。陛下の耳にも入れるべきかも……」

 ザミールの返答にヒューシが提案を述べる。
 ここにドラゴンが居ることを教えるかどうかは彼女の人柄を調べないと難しい。
 しかし、このまま国を出て行ってもらう方がいいのではないか、という思いが全員の中にあった。
 しかし、素直に出ていくかどうかは分からない。

「うん、陛下に話をしよう。ドラゴンの話、ここだけの話で、口止めをしておけば変な噂が立つことも無いと思う」
「結構、知られてしまったけど……」
「防ぎようが無いから仕方ねえ。ひとまず、あの子が帰る前に止めるぞ。こっちには同じ女の子であるレイカとユリが居る。頼む」
「オッケー! というか可愛い子よね。後、あの目元って誰かに似てない?」

 ユリが元気よく返事をしてトーニャを見る。誰かに似ていると言っていると、トーニャはぺろりとキングオックスのステーキを平らげていた。

「はあ……また探すのね……気が重くて一枚しか食べられなかったわ」
「まだ食うつもりだったのかよ!?」
「え? ああ、さっきの商人さんと体調の悪い人」
「体調は悪くねえよ!?」
「ああ、食事中に失礼。私は商人のザミールと言います。少しお話、よろしいでしょうか?」
「なに? ドラゴンは見ていないのよね」

 と、トーニャが首を傾げて尋ねる。ガルフはどうやって足止めをするのかとかたずを飲んで見守っていた。

「少し調査に伝手がありまして、隣の国から飛んできたというお話を聞きたいのです。私も全てをカバーできているわけではないので」
「調査してくれるの!? なら協力するわ!」
「おお」

 トーニャはドラゴンを探してくれると言う話に目を輝かせて承諾してくれた。
 確かに『見つける手伝い』といえばこちらが知っているということにはならないし、話を聞く態勢に入れるかとレイカは拍手をしていた。

 そして彼等は今日の仕事が謁見になるのだった。
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