老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
45 / 385

第45話 竜、すれ違う?

しおりを挟む
 ガルフ達とザミールはトーニャを連れて城へ向かっていた。
 彼女の目的はなんなのか?
 ドラゴンを探す理由を聞く必要があると考えているためだ。
 一介の冒険者と商人が抱える問題にしては大きいが、知っている者として見過ごせないのである。

「どこから来たの?」
「ずっと東の方よ。とはいってもあちこち旅をしているからどこって特定はしにくいかな」
「若いよね。私達と同じくらい?」
「えっと、ご……二十歳よ! え、えへへ……」
「?」

 ガルフやヒューシ、ザミールは女の子達より前を歩きながら会話を聞いていた。
 同性なら警戒心も少ないだろうという見込みだ。

「レイカさんとユリさんが居て良かったよ。私だけだと説得するのが難しかったかもしれない」
「まあ、いきなり着いてこいは難しいよな。ザミールさん、いくつだっけ? 彼女は?」
「私は二十六だよ。ははは、こういう商売をしていると中々そういうのは無いね」
「俺達の七つ上かあ」

 ガルフはザミールのことを聞いて思ったよりも年上だと口にする。見た目が若いので二十二か三くらいだと考えていたからだ。

「まあ、私のことはともかく……彼女、どう思う?」
「……ドラゴンを見た、ということなので恐らくディランさんとトワイトさんのことだと思います。別の国から追って来たと考えれば、時間的に分からなくはない」
「要するにガルフ君と同じである、と」

 ザミールの言葉にヒューシが頷く。
 旅人と本人が口にしているため、見つけて追いかけて会いたいというタイプなのかもしれないと考えていた。
 朝の冒険者が集まっているギルドに装備なしで入ってくる、朝からステーキを食べるといった行動でトーニャは『少し変わっている』ということが分かる。
 ガルフのようにアホな理由ではないかという話だった。

「俺がアホ!?」
「まあ……」
「ドラゴンを見に行こうなんて言わないからな? さっきの年配冒険者も言っていたろ『手に負えない』って」
「た、確かにそうだけどよ……」

 メガネをくいっと上げながらヒューシがハッキリとガルフへ告げ、ザミールが頬をかきながら愛想笑いを浮かべていた。

「ま、まあ、ひとまず陛下と話し合いだね」
「というか装備もなにも無いのによく旅をしているなあ。魔法使いでそういう人は居るらしいけど」
「ロッドすらない、カバンひとつ。商人でも武器は持つんだけどね」

 ザミールが後ろで楽しそうに話すトーニャへチラリと視線を移す。
 顔は可愛い系で、年齢は恐らく間違っていないなど小声で推測を話しながら城へと足を運んだ。

「おや、ザミールさんにガルフ君? 今日は登城の予定がありましたっけ?」
「ちょっと緊急で陛下と謁見をしたいんです。予定はどうでしょうか?」
「本日は特に予定が無かったと思うので大丈夫だと思いますよ。陛下はあなた方を気に入っておられるようですから」
「はは……」

 門を通り、受付に確認をするとそんな答えが返って来た。
 モルゲンロートと彼等の関係はドラゴンという繋がりだが、それを知る者は他に居ないためである。
 商人のザミールはいい品を持ってくることで認識されており、ガルフ達は狩りをしに行ったときに知り合った冒険者ということになっている。
 ヒューシが頬を掻いていると、トーニャがひょこっと顔を出して口を開いた。

「あなた達、お城の人間と知り合いなの? 凄いわね!」
「うわ!? ……急に出てこないでくれ」
「なによう、感じ悪いわねえ」
「ウチの兄貴なんだけど、不愛想でしょー? そんなだからモテないんだよ」

 いきなり出てきたトーニャにヒューシがびっくりして顔を顰めていた。
 そのことをユリに窘められ、ため息を吐かれた。

「うるさいな!?」
「あはは! あたしにもお兄ちゃんが居るけど、こんなものだよね」
「あ、お兄さん居るんだ?」
「お互い、もう家を出てるからどこに居るかわからないけどさ。で、久しぶりにパパとママのところへ行ったんだけど引っ越しちゃってて、今探しているの」
「ふーん、大変ねえ」
「準備が出来ましたよ、どうぞ! あら、新人さんですか?」
「色々あって、ちょっと……」

 ザミールが苦笑しながら受付の女性に返し、謁見の間へと向かう。

「ふう……」
「だ、大丈夫か俺?」
「大丈夫よ」

 いつもの謁見の間だが、ここに来るのは緊張するなと一行は居住まいを正す。
 大きな扉が開けられると、見慣れた赤い絨毯を進み、真ん中程で足をついた。

「え? なになに?」
「トーニャちゃん、陛下の御前だから膝をついて」
「あ、そういう感じ?」
「ええー……」

 能天気に語るトーニャに、レイカが慌てて膝をつかせた。こういう場であれば貴族相手でも敬うものなのでこの態度は驚愕の一言だった。
 モルゲンロートは首を傾げつつ、他の人間を下がらせてから口を開く。

「皆、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「ご機嫌麗しく陛下。お気遣いありがとうございます」
「ご、ご機嫌麗しく……」
「はっはっは、良い良い。お主達は数少ない理解者だからな。それで、今日はどうした? 見ない顔が居るようだが?」

 新しい仲間かとモルゲンロートが尋ねると、ザミールが顔を上げてからトーニャを前にして口を開く。

「彼女がこの国にドラゴンが来るのを見た、と言ってギルドの冒険者に声をかけているのを聞きました」
「……!」
「えっと、トーニャと言います! まさか人間の王様がパ……ドラゴンを探してくれるんですか?」

 トーニャは顔を上げると綻ばせてモルゲンロートにそう言う。
 パパと言いかけたが、この人間達が完全に味方であることがわからないため様子見をすることにした。

「君はドラゴンに会いたいのか。しかしどうして危険なことを……? 冒険者で腕試しとかそういうことだろうか?」
「うーん、なんて言ったらいいかしら……。あ、そうだ! ドラゴンはパパとママの仇なの……そのドラゴンを追って……あたしは旅をしているの」
「なんだって……!?」

 トーニャが不意に暗い顔を見せてからとんでもないことを口にした。
 自分がそうだと言って戦いになるのは避けたい。しかし、目的はと聞かれてただ見たいと言うなら調査はしてくれないと考えたためだ。
 それを聞いてモルゲンロートやガルフ達が驚愕の声を上げる。

「そ、それで君はドラゴンを追っていると……」
「うん。金色のドラゴンなんだけど、知らないですか?」
「……!?」

 さらにトーニャが続けて特徴を語り、モルゲンロートの顔色が変わる。
 それはディランの変身した姿そのものだったからだ。

「なるほど……それは辛い話をさせてしまった。分かった、その件は私が預かろう。ドラゴン調査をしてみる。だが、この国に居ないかもしれないのでそれだけは留意してくれ」
「はい! ありがとうございます王様!」
「う、うーん……」

 あくまでも自分のペースを変えないトーニャにレイカが唸る。大丈夫かと思っているところでモルゲンロートが続ける。

「そこにいるガルフ達に逐一伝達をする。宿の一室を使えるようにしておくから、待っていてくれ」
「え!? お、俺達もですか!?」
「ガルフ、陛下の前だぞ」
「あっと、わ、私達もですか!?」
「うむ。これも何かの縁。報酬はきちんと払うから、彼女の面倒を見てやってくれ」

 モルゲンロートはガルフ達にウインクをして『頼む』と示唆していた。
 女性がいるパーティでさらに二人も居るというのはあまり無い。それに同じドラゴンに関わった者達として適任と言うわけだ。

「わ、分かりました」
「とりあえず話は分かった。もう少し話を聞きたいが、ザミールとガルフ、それとヒューシで今後のことを話したい。トーニャさんは長旅疲れたろう、女性陣はお茶でもして待っていてくれ」
「承知しました」

 モルゲンロートはひとまず対策を考えると言い、レイカとユリと一緒に、一旦トーニャを下げることにした。
 メイドを呼び、客室へ移動させると残った男だけで話が始まった。

「……どう思う?」
「嘘では無さそうですが……少し引っ掛かりますね」

 ヒューシがモルゲンロートの言葉にそう反応する。
 仇であるという話はドラゴンを追うことに繋がるが、何かを隠していそうな雰囲気があると告げる。

「ヒューシの見解に私も同意です。しばらくガルフ君達と生活をさせて、その辺りを探ってもらうのはどうでしょう?」
「まあ、レイカとユリは仲が良さそうだからいいと思うけど……金色のドラゴン……ディランのおっちゃんが人を殺すとは思えねえんだけどなあ」
「ガルフ、それはみんな思っていることだ。金色のドラゴンは他にも居る可能性だってある」
「そ、そうだな……」

 モルゲンロートがガルフにハッキリと告げた。
 もし、そうだったとしてもなにか事情があるに違いないと言う。

「あえてディランさんに合わせるのもアリだと思います」
「そうだな……少しだけ様子見をしてから、彼女の人柄が問題なければディラン殿に話をしてみよう」

 その言葉に一同は頷く。
 ディランがそのドラゴンで無かったとしても吹聴されるのは困る。そのため時間を設けることにしたのだった。

 そのころ、一家は――

「ぴよっぴよぴよっ♪」
「ぴよー」
「ぴよぴー」
「くあ……」

 だらんと寝そべっているダルの硬いひげを、ひよこたちがくちばしでびよんびよんさせて遊んでいた。
 奏でているみたいに音が出て、それが楽しいのか三羽でひげを叩いていた。
 ダルは別に気にした風もなくあくびをする。

「きゃっきゃ♪」
「上手いわねーリヒト♪」

 リヒトはその様子を見て手を叩いて喜んでいた。するとそこでジェニファーを膝に置いて薪をくべていたディランがくしゃみをした。

「ぶえっくしょい!?」
「こけー!?」
「あら、珍しいですね」
「おお、いかん……火が消えてしまったわい。誰か噂をしておるのか?」

 大きなくしゃみにジェニファーが飛び上がって驚き、ディランがそんなことを言う。基本的に風邪というものを引かない彼がくしゃみをするのは珍しいのである。

 まだ、自分の娘が近くに居るということを知らない――
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...