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第46話 竜、追いかけられる
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トーニャと謁見をしてから三日ほどが経過した。
モルゲンロートやザミールに言われてガルフ達が様子見をしているが、今のところ彼女と普通に接している。
ドラゴンの話は知らないため、恐怖を煽らないようにとトーニャには口止めをお願いしている。
みんなで探した方がいいと言っていたが、国を動かす陛下がやるから大丈夫だと説得した。
「まだ見つからないけど、トーニャは大丈夫?」
「うん! そんなにすぐに見つかるなら苦労しないでしょ? この国に居るかも分からないわけだしさ。あんまりお世話になるのも悪いし、ひと月かかるかどうかくらいで移動しようと思うわ」
「そっか。折角仲良くなれたから残念ね」
トーニャはどうするのかをはっきりと伝え、ユリが残念だと口にする。
レストランで数人分の食事を一人で食べるなど破天荒な一面はあったが、基本的に悪い人ではないとガルフ達は判断した。
今も我儘は言わず、見つからない前提で考えており、お世話になれないと言っていた。
あこぎな冒険者なら親の仇と偽って長いこと世話になろうとする者も居る。
「ふむ」
ヒューシは見た目よりもしっかりしているなと感心していた。
王であるモルゲンロートに下手なことはできないとからだということを考慮しても、きちんと考えているなと思う。
「それにしてもドラゴンが仇とはなあ。……金色のドラゴンになにをされたんだ?」
「え? えーっと、さ……じゃない村を攻撃されたの。一息であっという間にやられちゃったんだ」
「そうね。ドラゴンなんて見たことないけど、大きいだろうし村なんてひとたまりもないわよね」
「(里に攻撃して来た他のドラゴンをパパが一蹴したんだけど、嘘じゃないわよね)」
レイカがフェイクを混ぜて話をする。
しかし、トーニャも『攻撃した側が倒された』という話を濁した形で口にし、胸中で舌を出していた。
お互いの素性が分かればすぐに話が終わるのだが、ドラゴンのディランという共通の人物の名を口に出せないため話が進まない。
「というわけで、今後も町へ行くしお金は稼いでおいた方がいいし、依頼でも受けない?」
「え? 依頼か? 俺は構わないけど、みんなどう思うよ?」
「……僕はいいと思う。どうせすぐに結果は出ないだろうし、宿でゴロゴロしていても仕方ない。陛下に甘えっぱなしという訳にもいかないし、普段通りの生活をしよう。トーニャさんの路銀稼ぎも兼ねてやろう」
「ありがとヒューシ♪」
「こ、こら、くっつくんじゃない……!」
トーニャの提案にヒューシが肯定すると、彼女は満面の笑みで彼の腕に絡みついてきた。慌てて振りほどくと、ニヤニヤしながらユリが口を開く。
「そうね! ここまで旅をしてきたトーニャさんがどうやって戦っているのか見たいかも?」
「いいわよ! といっても魔法が基本になるけどね」
「なら決まりだ! 適当に依頼を受けようぜ!」
ひとまず宿を出てギルドへ向かおうと準備を始めるのだった。
◆ ◇ ◆
「……さて、どうするかな。ガルフ達は止めておいてくれているが、いつまでもというわけにも行くまい」
「正体を報せずにディラン殿のところへ連れていくのはどうですか? 結局、仇であるドラゴンで無ければお互い関わることもないでしょう。それにディラン殿が仇である可能性は限りなくゼロだと私は考えます」
剣術指南役のバーリオを執務室へ迎えて相談をしていた。
三日ほど色々施策を重ねてみたが、どう考えてもディラン以外にドラゴンが居るとは思えないと悩んでいるところだった。
バーリオも事情は初日に聞いており、彼の提案はディランのところへ連れていくというものだった。
「やはりそれが一番いいか。彼女にも口止めをせねばならんな」
「旅立たった後、ディラン殿のことを触れ回られると困りますからな。それでも人の口は信用なりませんが」
「そう言うな。あまり言いたくはないが、こちらの身分を利用するさ」
モルゲンロートは肩を竦めてそう語る。
脅すような真似はしたくないが、混乱を招くよりはいいと考えていた。
「では、知っている騎士と一緒に行きますか」
「うむ。しかし、先にディラン殿にそういうドラゴンが居ないか聞いてもいいかもしれん。金色のドラゴンがディラン殿以外にいるかもだ。私が直々に聞く。数日中に彼の下へ行くとしよう。失礼ではあるが――」
「お話し中に申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」
ひとまずディランにもトーニャのことを報せるのと、情報が無いか確認するため行くことにした。
しかしそこで、扉の外からモルゲンロートの息子であるヴァールが声をかけてきた。バーリオに片手を上げて会話を中断すると、ヴァールへ返事をする。
「どうした? 急ぎか?」
「ええ、緊急事態というか……ロイヤード国王であるギリアム様が見えられております」
「はあ!? なぜここに? 本人がか?」
「え、ええ」
モルゲンロートは珍しく上ずった声を上げ、ヴァールへ確認を促す。息子が困惑している様子が伺えたので渋い顔をして椅子から立ち上がる。
「……バーリオ、一緒に来てくれ。この忙しい時に一体どうしたというのだ」
「ロクなことじゃ無い気がしますね」
「恐らくな」
モルゲンロートは同じ国王として、ギリアムを苦手としていた。王族は偉い、という考えを持っているため平民をないがしろにすることがある。
平民や貴族がいて、協力をすることで国が回ると考えているモルゲンロートとは合わないのである。
とはいえ、他国に口出しするのは火だねとなるためパーティなどで顔を合わせた際にやんわり嗜める程度で抑えている。
そんな男が尋ねてきたということだが、相手にしないわけにはいかないためバーリオ、ヴァールと共に応接間へと向かうことにした。
困惑した顔の執事やメイドなどが廊下に居て、彼等の間を抜けて歩いて行く。
応接間の前に待っていたディランの事情を知る騎士が敬礼をして声をかけてきた。
「中でお待ちいただいております。その、少々面倒かもしれません」
「なに? ……まあいい、話を聞こうじゃないか」
モルゲンロートが応接間へ入っていくと、見慣れた顔と視線が合う。
その主、ギリアムが笑顔でソファから立ち上がる。
「やあモルゲンロート、久しぶりだな!」
「ああ、久しぶりだギリアム。元気そうだ」
「お久しぶりです」
「お、ヴァールか。どうだ、ウチの娘を貰ってくれんか?」
「はは……」
気さくではあるのだがな、と胸中で呟きつつ握手をする。傍にはロイヤード国の騎士が数人立っているのが見えた。
そのまま二人はソファへ座り、バーリオはモルゲンロートの後ろに控え、ロイヤードの騎士も同じように倣う。
「しかし、相変わらず質素な暮らしをしているなあ? ソファも貴族が使うようなやつじゃないか? もっといいのに変えろって前に言ったろ」
「民から税金として納めてもらったお金をそういうのに使うのは感心しないとその時に返したと思うがな? なにかあった時に国庫がキツイなどとあってはならん」
「ふん、少しくらいいいと思うがね?」
「そんな話をしに来たわけじゃないだろう? 要件はなにかな」
ギリアムは目を細めて口を尖らせるが、モルゲンロートは話を打ち切りさっさと本題に入る。
するとギリアムはニヤリと笑みを浮かべ、両手を広げてから言う。
「つい最近のことだ。私が城のテラスで日光浴をしていた時に、空にドラゴンが現れたんだ」
「……!?」
「なんですって……!?」
「ドラゴンですか……!?」
モルゲンロートとバーリオ、そしてヴァールが驚愕の表情を見せ、ギリアムは満足気に頷く。
「ああ。ピンク色のドラゴンが西の方へ飛んで行った。こっちに来ていると思ったが見ていないか?」
「(ピンク色……? トーニャが言っていたのは金色……食い違うな。しかし、この同じような時期にドラゴンが西に行ったという話が偶然とは思えない。これはよく話をする必要がありそうだな)」
モルゲンロートは即座に状況を頭に描き、話を続ける。
◆ ◇ ◆
「うぉふ……!」
「あー♪」
「リヒト、そんなに毛を引っ張ってはいかんぞ。痛いからな」
「リヒト、こうしてあげると喜ぶわ」
「あーい♪」
ディランの家は相変わらず平和で、ヤクトの毛を引っ張っていたリヒトをやんわり諫めて撫でてやるように教えていた。
「そういえば最近、ガルフ達が来ないのう」
「冒険者ですし、忙しいんじゃないですか? 次来た時に一杯食べられるようにお漬物を増やしておきましょうか」
「そうじゃな。おお、そうじゃ! ワシは来客用の家屋を建てよう。土地はたくさんあるし、毎度リビングで寝かせるわけにもいくまい」
「そうしましょう!」
「ぴよー!」
そんな調子で彼等を待つのだった。
モルゲンロートやザミールに言われてガルフ達が様子見をしているが、今のところ彼女と普通に接している。
ドラゴンの話は知らないため、恐怖を煽らないようにとトーニャには口止めをお願いしている。
みんなで探した方がいいと言っていたが、国を動かす陛下がやるから大丈夫だと説得した。
「まだ見つからないけど、トーニャは大丈夫?」
「うん! そんなにすぐに見つかるなら苦労しないでしょ? この国に居るかも分からないわけだしさ。あんまりお世話になるのも悪いし、ひと月かかるかどうかくらいで移動しようと思うわ」
「そっか。折角仲良くなれたから残念ね」
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レストランで数人分の食事を一人で食べるなど破天荒な一面はあったが、基本的に悪い人ではないとガルフ達は判断した。
今も我儘は言わず、見つからない前提で考えており、お世話になれないと言っていた。
あこぎな冒険者なら親の仇と偽って長いこと世話になろうとする者も居る。
「ふむ」
ヒューシは見た目よりもしっかりしているなと感心していた。
王であるモルゲンロートに下手なことはできないとからだということを考慮しても、きちんと考えているなと思う。
「それにしてもドラゴンが仇とはなあ。……金色のドラゴンになにをされたんだ?」
「え? えーっと、さ……じゃない村を攻撃されたの。一息であっという間にやられちゃったんだ」
「そうね。ドラゴンなんて見たことないけど、大きいだろうし村なんてひとたまりもないわよね」
「(里に攻撃して来た他のドラゴンをパパが一蹴したんだけど、嘘じゃないわよね)」
レイカがフェイクを混ぜて話をする。
しかし、トーニャも『攻撃した側が倒された』という話を濁した形で口にし、胸中で舌を出していた。
お互いの素性が分かればすぐに話が終わるのだが、ドラゴンのディランという共通の人物の名を口に出せないため話が進まない。
「というわけで、今後も町へ行くしお金は稼いでおいた方がいいし、依頼でも受けない?」
「え? 依頼か? 俺は構わないけど、みんなどう思うよ?」
「……僕はいいと思う。どうせすぐに結果は出ないだろうし、宿でゴロゴロしていても仕方ない。陛下に甘えっぱなしという訳にもいかないし、普段通りの生活をしよう。トーニャさんの路銀稼ぎも兼ねてやろう」
「ありがとヒューシ♪」
「こ、こら、くっつくんじゃない……!」
トーニャの提案にヒューシが肯定すると、彼女は満面の笑みで彼の腕に絡みついてきた。慌てて振りほどくと、ニヤニヤしながらユリが口を開く。
「そうね! ここまで旅をしてきたトーニャさんがどうやって戦っているのか見たいかも?」
「いいわよ! といっても魔法が基本になるけどね」
「なら決まりだ! 適当に依頼を受けようぜ!」
ひとまず宿を出てギルドへ向かおうと準備を始めるのだった。
◆ ◇ ◆
「……さて、どうするかな。ガルフ達は止めておいてくれているが、いつまでもというわけにも行くまい」
「正体を報せずにディラン殿のところへ連れていくのはどうですか? 結局、仇であるドラゴンで無ければお互い関わることもないでしょう。それにディラン殿が仇である可能性は限りなくゼロだと私は考えます」
剣術指南役のバーリオを執務室へ迎えて相談をしていた。
三日ほど色々施策を重ねてみたが、どう考えてもディラン以外にドラゴンが居るとは思えないと悩んでいるところだった。
バーリオも事情は初日に聞いており、彼の提案はディランのところへ連れていくというものだった。
「やはりそれが一番いいか。彼女にも口止めをせねばならんな」
「旅立たった後、ディラン殿のことを触れ回られると困りますからな。それでも人の口は信用なりませんが」
「そう言うな。あまり言いたくはないが、こちらの身分を利用するさ」
モルゲンロートは肩を竦めてそう語る。
脅すような真似はしたくないが、混乱を招くよりはいいと考えていた。
「では、知っている騎士と一緒に行きますか」
「うむ。しかし、先にディラン殿にそういうドラゴンが居ないか聞いてもいいかもしれん。金色のドラゴンがディラン殿以外にいるかもだ。私が直々に聞く。数日中に彼の下へ行くとしよう。失礼ではあるが――」
「お話し中に申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」
ひとまずディランにもトーニャのことを報せるのと、情報が無いか確認するため行くことにした。
しかしそこで、扉の外からモルゲンロートの息子であるヴァールが声をかけてきた。バーリオに片手を上げて会話を中断すると、ヴァールへ返事をする。
「どうした? 急ぎか?」
「ええ、緊急事態というか……ロイヤード国王であるギリアム様が見えられております」
「はあ!? なぜここに? 本人がか?」
「え、ええ」
モルゲンロートは珍しく上ずった声を上げ、ヴァールへ確認を促す。息子が困惑している様子が伺えたので渋い顔をして椅子から立ち上がる。
「……バーリオ、一緒に来てくれ。この忙しい時に一体どうしたというのだ」
「ロクなことじゃ無い気がしますね」
「恐らくな」
モルゲンロートは同じ国王として、ギリアムを苦手としていた。王族は偉い、という考えを持っているため平民をないがしろにすることがある。
平民や貴族がいて、協力をすることで国が回ると考えているモルゲンロートとは合わないのである。
とはいえ、他国に口出しするのは火だねとなるためパーティなどで顔を合わせた際にやんわり嗜める程度で抑えている。
そんな男が尋ねてきたということだが、相手にしないわけにはいかないためバーリオ、ヴァールと共に応接間へと向かうことにした。
困惑した顔の執事やメイドなどが廊下に居て、彼等の間を抜けて歩いて行く。
応接間の前に待っていたディランの事情を知る騎士が敬礼をして声をかけてきた。
「中でお待ちいただいております。その、少々面倒かもしれません」
「なに? ……まあいい、話を聞こうじゃないか」
モルゲンロートが応接間へ入っていくと、見慣れた顔と視線が合う。
その主、ギリアムが笑顔でソファから立ち上がる。
「やあモルゲンロート、久しぶりだな!」
「ああ、久しぶりだギリアム。元気そうだ」
「お久しぶりです」
「お、ヴァールか。どうだ、ウチの娘を貰ってくれんか?」
「はは……」
気さくではあるのだがな、と胸中で呟きつつ握手をする。傍にはロイヤード国の騎士が数人立っているのが見えた。
そのまま二人はソファへ座り、バーリオはモルゲンロートの後ろに控え、ロイヤードの騎士も同じように倣う。
「しかし、相変わらず質素な暮らしをしているなあ? ソファも貴族が使うようなやつじゃないか? もっといいのに変えろって前に言ったろ」
「民から税金として納めてもらったお金をそういうのに使うのは感心しないとその時に返したと思うがな? なにかあった時に国庫がキツイなどとあってはならん」
「ふん、少しくらいいいと思うがね?」
「そんな話をしに来たわけじゃないだろう? 要件はなにかな」
ギリアムは目を細めて口を尖らせるが、モルゲンロートは話を打ち切りさっさと本題に入る。
するとギリアムはニヤリと笑みを浮かべ、両手を広げてから言う。
「つい最近のことだ。私が城のテラスで日光浴をしていた時に、空にドラゴンが現れたんだ」
「……!?」
「なんですって……!?」
「ドラゴンですか……!?」
モルゲンロートとバーリオ、そしてヴァールが驚愕の表情を見せ、ギリアムは満足気に頷く。
「ああ。ピンク色のドラゴンが西の方へ飛んで行った。こっちに来ていると思ったが見ていないか?」
「(ピンク色……? トーニャが言っていたのは金色……食い違うな。しかし、この同じような時期にドラゴンが西に行ったという話が偶然とは思えない。これはよく話をする必要がありそうだな)」
モルゲンロートは即座に状況を頭に描き、話を続ける。
◆ ◇ ◆
「うぉふ……!」
「あー♪」
「リヒト、そんなに毛を引っ張ってはいかんぞ。痛いからな」
「リヒト、こうしてあげると喜ぶわ」
「あーい♪」
ディランの家は相変わらず平和で、ヤクトの毛を引っ張っていたリヒトをやんわり諫めて撫でてやるように教えていた。
「そういえば最近、ガルフ達が来ないのう」
「冒険者ですし、忙しいんじゃないですか? 次来た時に一杯食べられるようにお漬物を増やしておきましょうか」
「そうじゃな。おお、そうじゃ! ワシは来客用の家屋を建てよう。土地はたくさんあるし、毎度リビングで寝かせるわけにもいくまい」
「そうしましょう!」
「ぴよー!」
そんな調子で彼等を待つのだった。
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『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
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