老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第47話 竜、駆け引きの中に入る

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「ドラゴンを見た、というのはいつの話だ」
「五日ほど前だな。ヤツを見てすぐに追って来たからな」

 ロイヤード国からここまでスムーズに行けば四日ほどかかるため五日なら誤差の範囲かとモルゲンロートは頷く。
 それと同時に、五日前ならディランではないだろうとほぼ確信を得た。

「五日前にロイヤード国から西へ飛んだ、ピンク色のドラゴンを探しに来たということなのだな」
「そういうことだ。まあ、暇つぶしでもあるんだがな。なんせスピードがあったからこのクリニヒト王国を通過しただけかもしれん」
「なるほどな」

 ディランが来たのはもう三か月ほど経過する。もしトワイトがピンク色のドラゴンだったとしても、時期が合わないので別のドラゴンということになる。

「モルゲンロートは見ていないのか?」
「ピンクのドラゴンは見ていないな。この国に入ってから町に寄ったんじゃないのか? 噂話も無かったろう。王都は静かなものだ」
「……ふむ、ならどこかへ飛んで行ったということか。残念だな」
「というより、追いかけているならギルドで聞くでも良かったのではないか?」

 肩を竦めて徒労だったかと笑うギリアムに情報ならギルドだろうとモルゲンロートが尋ねる。するとギリアムは口元に笑みを浮かべた。

「もしドラゴンが居たらお前のところの兵士と騎士を借りようと思っていたのさ。ウチからも二十人ほど連れて来ているが、ちょっと足りないからな」
「そういうことか。ドラゴンがもし居たとしても、攻撃されるまで戦わないぞ。探すのも戦うのもギリアムの勝手だが、こちらに被害があるようなら即帰ってもらう」
「まあまあ、そう目くじらを立てるなって。居ないみたいだから帰るさ。しかし折角ここまで来たんだ、一晩泊めてくれよ。久しぶりに一杯やりたい」
「それくらいなら構わないぞ。さてはそれも狙いだったな? 国を出て来ていいのか?」

 ギリアムがくいっとグラスを傾ける仕草をしてウインクをしたので、モルゲンロートはため息を吐いてから片手を上げて分かったと口にする。

「今は平和だからな。魔物が多い訳でもないし、物流と貿易も適正だ。逆に刺激が無くてつまらない。そう思わないか?」
「平和が一番だろう。しかし、そちらの商業状況は興味があるな。その辺の話をしようじゃないか」
「いいぞー! 美味い酒とつまみを頼む!」
「承知した。今日は付き合おう、すまないバーリオ、メイドに来客の部屋を用意するようを頼んでくれ。二十名だったな?」
「ああ」
「承知しました陛下」

 要件が済んだのならと、モルゲンロートはドラゴンを追わないならこれくらいはいいだろうと宴を承知した。
 そのまま少し世間話を交えてメイドを待ち、ロイヤード国からの使者を来賓室へと招き入れた。
 しばらくくつろいでくれとギリアムへ伝えてからモルゲンロートは一旦、私室へと戻った。

「ふう……ドラゴンを追って来たというのは驚いたが、諦めてくれたようで助かる」
「ですな。まあ、ギリアム様はああいう性格ですしあまり驚きませんが」
「そうだな。それとトーニャの件も片付くかもしれないな。最近ドラゴンを見た、ということであればピンク色のドラゴンの可能性が高い。彼女は金色が仇と言っていたので、違う個体ということだ」
「では、ガルフ達に伝令を出しましょう」
「頼む。片付いたらディラン殿のところへ行ってコメを食いたいな」

 モルゲンロートはこれでまた落ち着けると椅子に背を預けて一息ついた。
 後はギリアムに帰ってもらい、トーニャへドラゴン違いだと説明すれば話は終わる。
 
「まったく、トーニャはともかくギリアムまで来るとはな」
「まあ、今日一日だけ相手にすればいいと思えば楽なものですよ。では、ガルフ達へ伝えてきましょうか」
「そのことだが彼等を城へ呼び、晩餐に来てもらおう。話に食い違いがあると困るので、ギリアムに証言してもらいたい」
「平民と一緒、と言いかねませんが……」
「なに、席自体は別室にするさ。では頼むぞ」

 そう言われてバーリオは若干の不安を感じながらも承諾した。他の者に任せるのは難しいため自ら赴くことにするのだった。

◆ ◇ ◆

「残念でしたね、ギリアム陛下」
「ん?」

 一方、来賓質へ通されたギリアムは、装備を外してくつろいでいた。
 そこで着いて来た騎士の一人がギリアムへ話しかける。

「いえ、ドラゴンを追いかけてわざわざここまで来たのにどこかへ行ってしまったというので」

 騎士がそう言うと、ギリアムはニヤリと口角を上げて、小声で語る。

「……まだそうと決まったわけじゃない。モルゲンロートの奴は平静を装っていたが、なにかを知っているとみた」
「なんと、流石は陛下。見抜いたのですか」
「ああ。あいつはドラゴンの話をした際に『ピンク色のドラゴンは見ていない』と口にしたんだ。あの言い方、もしかすると違うドラゴンを知っているのかもしれない」

 ギリアムの言葉にその場にいた騎士達は感嘆の声を上げる。確かにそう言っていたと思い出す。

「ということはドラゴンを確保していると?」
「生け捕りにしているなら大したものだ。それと同時に各国は脅威に晒される。ちょっと行楽気分ではなくなったかもな」
「むう……」

 ギリアムはスッと真顔になって騎士達へ真面目な話を告げた。
 もし、ドラゴンを駆って戦争を起こされたら、普通の国は厳しい。
 彼は人数が居れば勝てると考えているが、ドラゴンが強いのは認識していて、少数では勝てないことも考慮していた。
 それでもドラゴンが暴れている現場と、人間の部隊が攻めてきた場合、戦力がバラけてしまうので簡単には倒せないと言う。

「しかしモルゲンロート様は戦争を考えるでしょうか……」

 その話を最後まで聞いてから、騎士はモルゲンロートが戦争を起こすだろうかと呟く。それを聞いてギリアムは椅子に背を預けてから苦笑する。

「ま、やらないだろうな! あいつが戦争なんて口にした日には槍でも降ってくるだろう。むしろ攻められないか心配になるくらいだ」
「ですよね」
「それでもドラゴンは確かめたい。娘のアクセサリー、作りたいし。なんか倒せたりしたら儲けもんだろ」
「その時は我々だけでやりますから……」
「なんだよ、俺だって強いよ?」

 あっさりと戦闘参加を拒否されたギリアムは口を尖らせてぶつくさ言う。それでも国王を危険な目に合わせるわけにはいかないとその場は逃げてもらうと口にしていた。

「さて、今日は楽しんでから明日以降だな。俺の予想が正しければ、こちらが帰った後に動くはずだ。そこを狙うぞ」

◆ ◇ ◆

「いやあ、トーニャ凄いわね。炎の魔法、制御も完璧じゃない」
「へへ、これでも旅をずっとしているもの。これくらいできないとパパとママに怒られるから」
「え? もう亡くなってるんだろ? 偉いな……」
「あ、ああ、うん、でしょ!」

 ガルフ達と一緒に依頼を受けていたトーニャが町へと戻って来た。
 レイカが彼女の使う魔法について褒めると、悪い気はしないと照れていた。
 ちなみに拳だけで倒していくのは流石に怪しまれるので、魔法を使って倒していたのだが、それでも手加減していたりする。

「(危ない危ない……パパもママも簡単に死ぬようなドラゴンじゃないから普通に答えちゃったわ。それにしても――)」

 ドラゴンの噂話や目撃例はまったく耳にしなかった。やはりこの国には居ないと考えていいかもしれない。周囲を見ながらトーニャはそう胸中で呟く。
 だが、ガルフ達との生活も楽しいとも感じていた。

「依頼は物凄く楽だったなあ。殆ど一人で倒せるんじゃないか?」
「だよねー。旅をしてきたのも頷けるわ。でもすぐお別れだもんね、残念……」
「も、もう少しお金を稼いでからでもいいかなって思ってるからしばらく一緒に居てもいいかな?」
「!? いいのか……? 仇は……」
「大丈夫! どうせすぐ見つからないし、お金はいくらあってもいいでしょ」

 ヒューシが驚いて尋ねると、ふふんとトーニャは胸を叩いてそう宣言した。
 レイカとユリは笑顔で頷き、ガルフも腕組みをして言う。

「俺達は問題ないぜ! 依頼の時間が短くなっているし、山分けしてもそんなに変わらないからな。なあヒューシ」
「あ、ああ」
「ありがとう!」
「こら、くっつくんじゃない……!?」

 そんな調子でしばらく一緒に居ることにした一行。
 今日の夕飯は何にするかといったが宿へ戻ると、ちょうど入口でバーリオと鉢合わせた。

「あれ? バーリオ様?」
「おお、お前達! いいところで出会ったな」
「いいところ……私達を探していたのですか? もしかしてトーニャの件ですか?」
「え! そうなの?」

 レイカがバーリオに例の件かと尋ねたところ、彼は困った顔でため息を吐いた。

「その件ではあるのだが、少々厄介なことがあってな。とりあえず城まで晩飯を食いに来てくれ。ザミールも居るといいんだが」
「「「「城でご飯!?」」」」

 何故、自分たちにと四人は驚愕の声を上げるのだった。

 さらにそのころ――

「もう晩飯の時間か。外装はできたぞい」
「あら、結構大きく作りましたね」
「うむ。場合によってはたくさん来るからのう。そっちはどうじゃ?」
「お布団を作ってますけど羊毛が足りないですね。明日は村へ買いに行きしょう」

 ――ディラン一家は増築を行っていた。
 布団も来客用のを作っていたが、羊毛が足りなくなってしまったらしい。

「ならみんなで行くか。……なんじゃ、寝ておるのか」
「うふふ、可愛いですよね♪」

 リビングへ入ると、ルミナスを枕にしたリヒトが残り二頭とひよこ、ジェニファーに囲まれてみんなで出来たばかりの布団に寝転がっていた。
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